真っ黒マントのうさぎさん

石ノ森 槐

第4話 燈湖龍央ver.

試験終了後、莢菜にデートに誘われ俺でも正直浮足立つ。
そりゃ、好きな女からの誘いだ。そうやすやすと断るわけもない。
俺は、莢菜に計画を渡し教室を出た。

「あれ?燈湖君じゃないか。」
「…お久しぶりです。」
声をかけてきたのは、この学校の養護教諭…兼俺の右腕にあたる“醒井聖”先生だ。そろそろ読み手に名バレはさせておかないと後々面倒だからな。
通り掛かったふりをしたってことは…実家で何かあったのだろうか…。

「ちょっと耳貸して?」
「?」
俺は醒井に右の耳を寄せた。

「組長がお呼びです。それと…デートでしたら護衛が付きますがよろしいですね?」
「ッ!?」
いろんな意味で驚かせてくる…この男は心身ともに煽りに抜かりがない。
だから俺の右腕として調査も行っているのだ。

俺はキョドってみせ実家に急いだ。

実家に着くと、間者の確認を済ませ組長の部屋の前に来た。
「組長からのお呼びが入って駆け付けた。お目通り願う。」
「はい。」
組長とは俺の父のことだ。
父の部屋の前にいるのは、組長の護衛兼俺の左腕を務める男、名は“井崎狼”。規則に従順で父も俺も少々手を焼いている。融通・臨機応変という言葉がこの男の頭の辞書には在籍していない。

相変わらずこういうときも手続きを求めるのだ。組長の部屋の前では顔パスがない。セキュリティ的には一番だが。

「来たか。」
「お呼びですか…組長。」

「あぁ…では、さっそく本題に入ろう。お前の交際相手のことだ。」
「…やはりですか。」

勘付かれるのがやけに遅いな…。父の情報網だったらもっと早く話が来てもおかしくなかったのに…。

「分かっていたのか。…さすが私の子だ。」
「本題からそれています。」
この人はよく話をそらしていくからいち早く気づいて修正するのが一番だ。それすぎると本題を忘れる。

「あぁ、すまんな。…龍央…あの娘はうちのことは知っているのか?」
「いいえ。俺からは一度も話を出していません。」

その言葉に安心したのか、父は肩をなでおろした。
「ではそんなに親密ではないということなんだな?」
「……えぇ。」

楽しい時間の終わりを告げるチャイムが鳴ったようだ。

「では、早めにその娘と別れろ。」
「理由をお聞かせ願えますか?」
「…今は時期ではない。黙って指示に従うように。いいな?」

「はい。」
やはりだ。この家はそういう家なのだ。

暴力団との交際は法律でひどく罰せられる…。それは金銭が介入している内容だけに限らない。交友も恋愛もタブーなのだ。つまりは、たとえ未成年でも、この家に埋めれたからには自由な恋愛はするべきではないのだ。
分かってはいたものの、傷を負わないほど軽い交際をしているつもりはない。

でもこれがこの家なのだ。

しかし少しだけかすり傷を負わせては置きたくなった。
軽い交際をするほど俺の心には余裕はない。

「父さんは、熱い恋愛で母さんと出会ったとか。」
「…何が言いたい。」

「…いえ…確認をしたかったんです…。矛盾を子供に押し付ける親の顔はどれほど逞しいのか。」
「龍央…お前…「失礼します。」」

まぁ、ただの八つ当たりだ。
俺は、覚悟を決めて最後のデートの後に終止符の計画を立てた。

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