真っ黒マントのうさぎさん

石ノ森 槐

第2話

文化祭当日。
開校初日で忙しくなるというのに、まだ龍央は現れない。
「意味わかんない。ルーム長が来ないなんて。」
「それな!」
「今まで何もお菓子食べられてなかったのに!」

私たちは髪を巻きながら愚痴りあっていた。
と言ってももう営業時間は始まっているのだが、驚くほどに来客がない...。

いつもなら何かしら人は来てるのに。

「もし!どなたかおられるか?」

「ん?」
「お客さんかも。サト、準備お願い。」
「りょ。」

こういう時に限ってうちら3人が担当だったりして、私は黒幕から顔を出した。

そこには、黒の紋付袴の人とその周りに...強面のタキシードたちがぞろぞろとついてきていた。

するとタキシードを着た中のスラッとした男一人が腰をかがめて私の方に顔を近づけた。
「ここは龍央くんという子はいますか?」

「龍央ですか?...本来いるはずなんですけど、今日は体調不良で休んでいるんです。」
本当の理由なんて知らないけどね!!!

「体調不良?...なるほど。」
すらっとした男の人は腰をかがめたままその紋付袴に耳打ちをした。

すると納得したのか紋付袴は2回頷いてから一番すぐの席に座った。

そのせいもあってか...近くにいたお客さんたちは、そそくさと消えていってしまっていた。

...これってまずい...よね?
明日からお客さん来なくなるのは...今の状況よりまずい...。

私は思い切ってその紋付袴に声をかけた。

「あの、お客様。」
「はい?」
って何で隣のスラッと男が答えんのよ!!

私は顔色が変わるのを呼吸で落ち着かせてから今度は身振りをつけながら声をかけた。

「...こちらの方にお願いがあるのですが。」
「ええ。自分が伺います。」
「...はい?」

なにこれ。
この紋付袴は何者なの?

ってか何自分しゃべらないで下の人(?)に任せるって...。

「紋付袴を着た方に話しかけているので、ちょっと黙っててくださりませんか。」

「何をッ「わたしに...だね?相わかった。」...。」

紋付袴に手で遮られると、すらっと男は黙った。

よし...怒らせないように...。
「あの、お客様の服が正装なので、ほかのお客様が...とても気後れしてしまいます。なのでもう少し料理番が見えるところはいかがでしょうか?」

私の言葉に、紋付袴は少し眉をひそめた。
…やっぱしダメだったか…。

私がうなだれようとした時、紋付袴はスラッとした男に耳打ちをした。
その男は目を見開いて、私の顔を見つめた。

目つきが鋭すぎて顔穴空くんデスケド!
私はつい睨み返してみた。

「莢菜さん…だったかな?」
ッ…この人なんで私の名前知ってんの?

誰も私の名前なんて呼んでないはずなのに…。
私は不信感いっぱいの顔のまま返事をした。

「…はい。」
「あなたは勇気ある方だね。さすがあの子が気に入るわけだ。」

はい…?
「…あの子?」
「いや、こちらの話だ。驚かせて悪かったね。ぜひ料理番の席に案内してほしい。」

紋付袴はそう言って今いる席を立ち上がった。

私はすぐ話を聞いてくれる相手に安心しながら、紋付袴とスラッとした男たちを案内した。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品