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誘拐記念日

石ノ森椿

依恃

次の日僕が目を覚ますと、透はすでに帰るような支度を済ませていた。
「おはよう。」
「ッ……おはようございます。」
透は僕のあいさつに肩を震わせてこちらを振り返った。
「帰るの?」
「えぇ……そう易々と帰ることができるかはわかりませんが。」
「そうなんだ。」
「人として最低のことを口に出しました。」
「……それって僕が聞いていいの?」
透は首を強く縦に振った。覚悟を決めたような表情に対するように顔色が悪い。
「本来なら心にしまっておきたいですが……もう二度と口走らないように戒めておきたいんです。」
「……わかった。」
僕が布団の上で正座をした時、部屋の向こうからのノックが聞こえて、透は話すのをやめてしまった。

「宗太、透君、朝ご飯できたからご一緒しましょ。」
「は~い。」
「……はい。」
母さんの声で客間から出ると、リビングには焼き魚とお味噌汁と山に盛られたご飯がそびえ立っていた。
「母さん……これ。」
「透君の歓迎会してなかったからね~。豪華じゃないんだけど許してね?」
「あ、はい。……ダイジョウブデス。」
透は重量感のある膳にほほを引くつかせた。
結局2人とも食べ切ったからよかったけど……本当に育ち盛りの胃だったからよかったけどッ!!
おいしかったけど!!
「透……生きてる?」
「うっぷ……今話しかけないでください。」
僕以上に透は限界に近かったのか浅く息を整えていた。

1時間弱でおなかの重みが落ち着くと、母さんはすでに仕事に出ていた。
透は時計をじっと見てため息をついた。
「透?」
「なんですか。」
「その……僕ついていくよ。」
「は?なぜ……。」
「なんていうか……一人よりはましかなって……。」
透は眉間にしわを寄せて一言「お願いします。」と呟いた。

そうと決まって僕は慌てて普段用のカバンに財布を移して、透と玄関に向かった。
玄関を開けると身に覚えのある姿が靴を履きつま先を持て余していた。

「よぉ、おせぇぞ。」
「悠一!?なんでこんな朝から?」
「なんでって行くんだろ?」
悠一は僕たちにスマホの画面をかざした。そこには松岡酒蔵店の画像と経路案内が映っていた。
「今から行けば開店時間ちょうど位になる。」
「ついてきてくれるんですか?」
「」
透の問いに悠一は少し目を細めたけど何も言わずに僕たちの前をずんずん歩き始めてしまった。
僕は透の方に軽く手を置いて目配せしてから悠一に近づいた。
「悠一。」
「なんだよ。」
「意外といいやつなんだね。」
「意外とじゃねぇよ、これが平常運転だこら。」
「透から家出の理由とか聞いた?」
「なんだよ、お前も聞いてねぇのかよ。」
僕が尋ねると悠一も驚いたのか立ち止まった。
2人して透のほうを見ると、透は口を開いた。

「父親に蔵を継がせないといわれて……”死んだら告げるから構わない”と返しました。」
「ッ?!」
「おいおい……。」
「”職人を追い出す”とまで言いました。」
その二言では経緯はよくわからなかった。きっと透にとっては売り言葉に買い言葉だったんだろうけど……。
「お前……それでよく半殺しとかにされなかったな。」
「出てけと言われただけです。」
「ごめん……何も言えない。」
言葉が出てこなくてそう返すと、透は何度もうなずいて見せた。
「敷居を踏めるかも定かでは……早めに2人とも身を引いてください。」
「「引くわけない!」だろ!」
「ッ?!」
「そんなこと言ったんならなおさら俺らも頭下げ行くに決まってんだろ。」
「そうだよ、透が反省してるのは僕たちよくわかるから。」
僕たちで必死に詰め寄ると、透はうつむいてその頬からは一滴だけ涙が流れた。

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