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誘拐記念日

石ノ森椿

不信感 ⑥

…悠一視点…
静まり返った浴室には湯が流れる音だけが響き渡っている。
「」
「」
俺と透は2人だけでどでかい浴槽に浸かっていることになった。
宗太のやつは、一番に浴室を出たかと思えば曇りガラス越しに扇風機に当たる姿が見える。
俺たちを浴室に引っ張り込んだ割に逆上せるのが早いって、どんな神経してんだクソ。
透のほうは一言も口を開かずに肩まで浸かってやがるし。

「逆上せるなよ。」
「君こそ顔が赤くなってきていますよ。」
「この程度平気だ。」
「そうですか。」
透は俺と目も合わせずに返事だけよこして、また口を閉じた。

「……さっきは殴って悪かったな。」
「」
「暴力に関しては謝る。それだけだ。」
「もう気にしていませんから。」
「じゃ、なんでそんな気まずい顔してんだよ。お前は先に謝ってんだから堂々としてりゃいいだろ。」
俺の言葉に透はちらっとこちらを見て軽く口を開いたのに、また口を閉じて眉間にしわを寄せてそっぽ向いた。

「お前、本当……何も言わないよな。」
「はい?口利いているじゃないですか。」
「馬鹿、違ぇよ。思ってること言えって言ってんだよ。」
「言っています。」
「めんどくせぇ物言いじゃ伝わるもんも伝わってこねぇんだよ。」
「悪かったですね面倒な物言いで。」
「ッ……チッ。」
俺が無意識に舌打ちをすると、流れ落ちるお湯の音に被るように浴室内に響いた。

透は俺の舌打ちの音に顔をしかめた。
「俺お前みたいなやつ苦手だ、扱いづらい。」
「そうですか。」
「でも影子のやつよりはましだ。」
「……影子さんですか。」
俺がこぼした“影子”の名前に透の視線がこちらとぶつかった。
「のらりくらりつかめないかと思えば、感情的になりやがって、かと思えばまたのらりくらりと消えやがって。それに比べればお前の嫌味なんかずっっっとましだ。」
「嫌味のつもりは「ねぇんだろ?」ッ……。」
「お前の正常運転がそれなんだろ。ならこっちがその端々の余計なもの削いで聞くしかねぇだろ。」
「……。」
「俺だって自分の口悪いの棚に上げるつもりねぇし、今更これを変えるつもりねぇ。だからお互い様だ。」

「影子さんはそんなに扱いづらかったんですか?」
「あぁ。最初から最後まで胸糞悪い女で……これ宗太に言うなよ。」
「」
「俺、影子に好きって言われてんだよ。」
「……妄想ですか?」
「あ゛?」
「あぁ、事実なんですか。」
「当たり前だろ。俺が後追わないって言ったら『あなたのそういうところ好きよ』ってな。」
「……悠一君って可哀想な頭してるんですね。」
「沈めてられてぇのか?」
「遠慮しますよ。早く上がりましょう、宗太君を湯冷めさせるのはまずいでしょう。」

俺たちが浴室を出ると、着替えの入れてあったかごには宗太の分だけなくなっていた。
あいつ、本気で帰りやがったのかよ。
「置いて行かれてしまったようですね。」
「チィッ!」
着替えを済ませて男湯の暖簾を出ると、先に身支度を整えて出ていた透が肩を震わせていた。
「何やってんだ?」
「……いえ、何でも……フフッ。」
透の視線の先を見ると、一台しかない椅子型のマッサージ器がぶるぶる震えている。
その中にすっぽり収まってよだれを垂らしていびきをかいているのは、まぎれもなく宗太だった。
「」
俺は宗太の頭にタオルを叩きつけた。
宗太は顔にかかったタオルに反応して目を開けた。
「あ……えっと……いい湯だったね。」
「てめぇ、人が気まずい時間過ごしてるときに……。」
「ぐぇ、ごめッ、ごめんなさい!」
宗太の首を軽くつかんで揺らすと、くすぐったかったのか宗太はへらへらっと笑っていた
「別に構いませんよ。湯冷めしていないのなら“気まずい時間”も悪くありませんでしたから。」
嫌味ったらしい声ににらみを利かせると、透も俺を睨み返していた。
それがなぜかツボで3人して噴き出すように笑いだすことになった。

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