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誘拐記念日

石ノ森椿

不信感 ⑤

「うわぁッ!!」
「何のつもりですか?」
「あ……ご、ごめん。余計なお世話かもしれないって思ったんだけど、このまま家に帰るのも気まずいだろうし。」
「」
「あ、母さんは大丈夫だって!」
「……”正気ですか?”」
「え……プフッ、ハハッ、アハハハ……!!」
僕は、懐かしいやり取りを思い出して思わず吹き出してしまった。
あまりに温かい記憶で、肌寒い季節も忘れてしまいそうで、かすかに涙が出た。

「宗太君?」
「あ、ごめんごめん。正気だよ。」
「君の友達と呼ぶには無理があるのではないですか?」
「無理……か……。まぁいいよ!とりあえずこっち。」
「」
僕は半ば強引に透を手招きして家に引き連れた。

玄関を開けて透を引き上げると、母さんのスリッパの音が聞こえた。
「ただいま。」
母さんは手をエプロンで拭きながら僕たちを出迎えてくれた。
「おかえりなさい。あら、お友達ね。」
「うん。」
「……松岡透です。」
僕が透の背中を軽く押すと、母さんはにっこりとほほ笑んだ。
「じゃ、おかえりなさいっていわなきゃね。」
「ッ?!」
「おかえりなさい、透君。」
「ただいま……。」
その日、母さんは透に何も聞くことはなかった。
とはいっても、常にお客さんが来るような家でもないから、とっさにリビング横の客間に布団を敷いてそこでしばらく過ごしてもらうことになった。



僕がシャンプーとタオルを準備していると、透が不思議そうに僕の動きを目で追っていた。
「透、そろそろ銭湯行こう。これタオル。」
「は……?自宅では入らないんですか?」
「うん。週末は銭湯でゆっくりすることになってるんだ。」
透は僕からタオルを受け取ると、「ふぅん。」と興味なさげに相槌をうった。

玄関を出ると、冷たいい風が肌を撫でて思わず身震いした。
透は後ろ手で扉を閉めて軽く腕をさすっている。
「寒くなってきたね。」
「えぇ、季節の変わり目ですし無理もありませんよ。」
「……衣替えした?」
「そろそろ取り掛かりますよ。制服だって来月でしょう?」
「そっか……。」
き、気まずい……。
ただでさえ1対1でしゃべるのなんてめったにないし、透と話すことなんてほとんどなかったのに、いろいろとハイレベルすぎる。

僕が口をパクパクしているうちに、やっと銭湯についた。
1段上に座っている番頭さんに人数分の札を渡すとレジに金額が提示される。
「半分出しますよ。」
「え、いいのに。」
「財布を持ってきていないわけではありませんし、君のおごられる義理はありません。」
「でも……。」

それからどっちが払うだとかすったもんだしていると、後ろな並んだ人影から大きな舌打ちが聞こえた。
「す、すみません!……あ。」
「あ?……お。」
「あ。」

僕たちの後ろに立っていたのはお察しの通り悠一だった。
それにしても悠一の私服はいかつくて、いつも以上に怖い姿になっている。
「なんだよ、お前もここきてんのかよ。」
「うん、週末だけね。」
悠一はへらっと口だけで笑みを浮かべて透の顔を見て片眉を上げた。
「で、なんで金魚のくそが付いてきてんだよ。」
「悠一、そんな言い方……。」
「君こそ、金魚の糞の入った後の湯舟じゃ御不満ですか?」
え、透ってここでケンカ買っちゃうの?
悠一と透がにらみ合うのを見計らって僕はとっさにレジに千円札を出して指で『3人分』と伝えた。
番頭さんとは顔見知りになっていたからか、ちらっと僕の後ろの二人を見てあきれ顔でお釣りを手渡した。

「やんのかこら。」
「受けて立ちましょうか、えぇ?」
振り返ると、案の定まだ睨みを利かせあっている。
仕方ない……。
僕は2人の後頭部をいっせいーので勢いよく押した。
2人の頭は見事にかち合ってその場で仲良く頭を押さえて崩れ落ちた。

「なにしやが「銭湯しまる。」……はい。」
「透も。」
「……すみません。」
僕が脱衣所に入ると、2人は先ほどの勢いを失ったのかおとなしく僕の両隣の棚のかごを手に取った。

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