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誘拐記念日

石ノ森椿

不信感 ④

その日の部活はほとんど機能することもなく、いつも通りに終わり、僕たちは家路についた。
夕食を済ませて部屋で休んでいると、机に置いてあったスマホが震えてブーブーと机に音を立てた。
表示場面には佐野憲司の名前が見えた。
「はい。」
「あぁ、宗太。……今少しいいかな?」
「うん。」
スマホ越しに聞こえてくる憲司の声は、心なしか寂しそうで、僕は憲司も言葉に耳を傾けることにした。

「透のことでさ。」
「あぁ、あの後大丈夫だった?」
「う~ん、大丈夫とは言えなかったよ。」
「そっか。」
「まぁ、透のあれは俺のせいだから。」
「え?」
僕が聞き返すと、憲司は一つため息をついた。

「俺ね、透と同じ幼稚園で……そこからずっと。」
「幼馴染か~、なんかうらやましいよ。」
「そうか?」
「うん。高校も同じところに入るなんて親友だよ。」
すると、スマホ越しの憲司が黙り込んでしまい、空気が変わった気がした。
しばらくの沈黙のせいで憲司の方から聞こえてくる紙のすれる音が際立つ。

「俺が透と同じ高校に入ったのは……俺が全国模試を捨てたからなんだ。」
「……捨てた?」
全国って……あのめちゃめちゃ頭がいい人だけが気にするあれだよね……。
僕の中学でも確かにあった気がするけど、そこまで大きく気にすることなんて一度もなかった。
それより捨てたって……どういう事だろう?

「俺も透も、当時は今より少しだけ成績良くてさ、テスト勉強とかもお互いの家でやったりしてたんだ。……でも、3年の時クラス替えがあって面倒なやつとかぶっちゃってさ……透はもともと言い方ひねくれてるところもあったから目の敵にされてな。」
「そうなんだ……。」
「透は家にも相談しなかったらしくて、どんどん成績だけ落としていったせいでクラスの担任には『グレた』なんてレッテル貼られて、勉強もろくに見てもらえなくなってた。」
「ひどいね。」

そんな……学校の先生なのに。しかも大切な時期に手を離しちゃうなんて……。
「まぁその担任もその程度だったんだよ。ちょうどそんな時に俺が単純に受験校を下げたんだよ。」
「え……良かったの?」
「いいも何も、俺は医者になりたいわけじゃなかったし、折角ならやりたいことやる余裕が欲しかっただけで。なのに周りは『松岡透が悪者』って括りにしたかったのか、いろいろ吹き込まれたらしい。あとは存ず通り。」
僕はとっさに言葉を返すことはできなかった。
だって僕には成績に関してそこまで必死に考えたことはなかったし、透みたい自らひとりになろうとは思ったことはないから。

憲司と電話を済ませると、小腹がすいたのか胃がくぅと鳴った。
キッチンを覗くと母さんが洗い物を進めていた。
「母さん、おなか空いたんだけど何かある?」
「あぁ、ごめん。今日は夜食分の材料ないの。何か買って食べて。」
「わかった。カップ麺、母さんも食べる?」
「宗太が買うと辛いから遠慮しまーす。」
なんで僕の好み分かったんだろう……これでも部屋に隠してたんだけどな。
僕は母さんから500円玉を受け取って、玄関を出た。
コンビニでいくつかカップ麺を買って家路についていた時、いつものバス停近くの公園に見覚えのある背中がブランコに揺れていた。
「……透?」
いきなり話しかけたせいで驚いたのか、透は体を震わせてこちらを振り返った。
「なんだ、君ですか。」
「どうしたの?こんな夜遅いのに。」
「君こそ。補導対象になりたいんですか?」
透は僕の顔を見るなりジトっと訝し気に目を細めた。
「え、違う違う!!ほら、カップ麺。小腹空いちゃったからさ。」
僕がコンビニの袋を見せると、透は目を細めてまたそちらを向いてしまった。

「えっと「勘当ですよ。」……え?」
「家を追い出されたんです。それだけです。」
透はそう言ってまたブランコを揺らし始めた。
その後ろ姿はいつもより小さくみえた。
「そっか。」
僕は透に背を向けて母さんに電話をつないだ。

「はいよ。」
「もしもし、あのさ……しばらく友達家においてあげてもいいかな?」
「ん?いいよ。」
「ありがとう。すぐ帰るね。」
母さんの名前が移る受話画面を閉じると、ホーム画面には影子さんの名前の入ったノートの表紙が映し出された。
そうだった……気合い入れるために設定したんだった。
僕が一度息を吐いて振り返ると、すぐそばに透の顔があった。

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