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誘拐記念日

石ノ森椿

協力 ⑤

「証拠はここに。」
「必要であれば図書館に保管を頼んである模造紙の資料も提出できます。」
2人が渡したのは、ずっと僕たちが議論してきたものがまとめられたノートだった。
加藤はそのノートをぺらぺら見ると、僕の顔を見た。

「そうか…なら、悪さするってことではないんだな?」
「はい。」
「じゃ田中、お前はこれ。あとの5人はこれにサインと拇印押してここで提出しろ。あ、顧問は俺が押すからインクつけるなよ。」

担任が渡したのは「部活発足申請書」と「入部届」
「これがあれば学校を通じて行動することになる。毎日代わる代わる頭下げに来なくてもいい。専用の活動場所も出来る。お前らは6人とも成績も文句なし、発足の条件は揃ってる。」

「ありがとうございます!!」
「礼はいい。…俺はたかが出世のためにお前らのいじめを見ていながら止められなかった…お前の言った通り、教師とは呼べないだろう。これくらいのことはさせてくれ。」

僕たちは言われた書類に署名捺印を済ませた。
「正と副は?」
「お前部長な。」
「え?!僕?!」
「お前が主で動いてんだろ。」
「じゃ、悠一が副でどうだろう。」
「は?」
「「「「「さんせ~い。」」」」」
「あぁ?!」
僕と悠一が部長と副部長の欄を記入して加藤に渡すと、加藤が僕の目を見上げた。
「お前ら、いつから活動したいんだ?」
「え……できれば早い方が。」
「よし、田中と稲辺以外は解散!お前ら、校長に直談判行くぞ。」
「「は?!」」

僕と悠一は加藤に連れられて校長室の門をたたいた。
初めての校長室に緊張する僕たちを尻目に、加藤が申請書類を校長に手渡した。
「明日から活動希望です。」
「ふむ、やる気があるのは感心だね。ただ……部名が無いみたいだね、なにか候補はあるのかい?」
校長の一言で、加藤が僕に視線を向けた。
稲辺の方は顔を真っ青にして固まったままだったから、僕が口を開くことにした。
「…" 誘拐記念部"…です。」
「物騒な名前だね…。」
僕の返答に、加藤は怪訝そうに、悠一は『やめとけ!』と口をパクパクさせていたけど、僕ははっきりと口を動かした。
「僕は…橘影子さんに1ヶ月ほど誘拐されていました。」
「ッ?!」
「何とっ……。」
「…でもこのように学校にも通って、衣食住困ることはありませんでした。それに……僕の受けていたいじめを止めてくれました…それなのに僕は…標的が悠一に変わったのを見て…自分にその矢がむくのを恐れて…加害者に回りました。……この間の悠一のアレルギーだって…様子を見ていたのに……みんなを止められなかった……影子さんは僕達の仲を全部作り直してくれたんです。」

加藤は僕の言葉にあんぐりと口を開けていた。一方で校長は両肘をついて指を絡ませる形で僕の話にい耳を傾けてくれていた。僕は必死に部を認めてもらうために説得を続けた。
「きっと僕の話は、他の人が経験しない事です。僕と影子さんは非難を受けることもあると思います。それでも僕は彼女に会って、感謝と謝罪を伝えたいんです。勉学に支障はきたしません、よろしくお願いします!!」
僕が頭を下げると、悠一も僕の横で深く頭を下げた。
校長は僕たちの姿を見てふぅと息を吐いた。

「田中君、稲辺君、顔を上げて。」
顔を上げると、校長は少し難しい顔をしていた。
「加藤君。」
「はい。」
「僕はね、君のクラスにはこういう子は育つことがないと思っていたんだよ。熱意のある子は、君の大きな手足で潰されてしまうのを見ていたからね。」
「それは……彼らが「僕が君に主任を任せたのは責任感ではない、僕自身が君の教育の匙を投げていたからだよ。」ッ……。」
校長の言葉の端々から伝わるのは、加藤に対する軽蔑だった。
でも校長は僕に目を向けてにこっと微笑んだ。

「でもね、僕は今この子たちから喝を入れられたよ。教師の教育が僕の仕事だ、僕は君に『誘拐記念部』の顧問として大きな責任を負わせます。彼らをしっかり見守ってください。」
校長は僕たちの申請書に大きな判を押した。
「や、やった……!!」
「よっしゃ!!もっと喜べよお前!!」
「え、嬉しいよ、本当に!!」
直後、床にポタッと血が落ちて、僕の鼻の血管が切れたことでほんの少し騒ぎになってしまった。
それでも、僕は自分の体調以上に部のとして活動できる明日に思いを巡らせるのだった。

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