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誘拐記念日

石ノ森 槐

消えたコイン ③

退院が済んで、僕はまた母さんとの二人暮らしに戻った。
母さんは僕の行動の変化に驚いたみたいで毎度のようにほめてくれる。
とは言っても、影子さんにあれこれ言われてこき使われてたからな……僕は自分のワイシャツのアイロンまでこなすようになっていた。むしろ今までしていなかったのがおかしかったみたいに、僕の生活は影子さんにしつけられていた。

そんなある日、朝刊を取りにポストを開けると、そこには身に覚えのないA4の封筒が入っていた。
あ、僕宛……裏書がない。
「って、まずは着替え。」
僕は今日の予定を思い出して、慌て部屋に戻ってパジャマを脱いだ。
今日は、僕と5人が友人として集まる記念すべき日で、僕はとても心が躍っていた。
着替えは昨日のうちに枕元に畳んであったから問題なしだ。
思ったより時間が空いたし、僕は机に置いたさっきの封筒を手に取った。
カッターを使って開けると、そこには一つの冊子が入っていて、中身を見て僕は慌てて玄関を飛び出した。

『ノルマクリア!!アディオス!(永遠にさようなら)』

冊子は今まで僕を誘拐していた影子さんの日々がつづられ、最終ページの子の文言が入っていた。
家のあたりを見渡したものの、影子さんの姿はやっぱりなかった。
僕は放心状態のまま遊びに出発することになった。

待ち合わせ場所に近づいていくとすでに僕以外の5人がそろってスマホで対戦ゲームを始めていた。
僕が来たことに気が付いたのか、悠一が声を上げた。
「こっちだ、おせぇぞ!」
その声で、他の4人も一斉に顔を上げて思い思いに手を振って5人がぞろぞろと僕に寄ってきた。みんなの明るい声に、うっかり涙が浮かんでキャップのつばを下ろした。
「ごめん、遅れて。」
無理して笑うと、悠一が僕の肩をガシッとつかんだ。
「宗太、……どうした?」
「」
あぁ、駄目だ。僕はやっぱり弱い。
こんなすぐに気が付かれちゃうなんて、情けない。
僕がうつむいて首を振ると、佐野……憲司がしゃがんで僕の顔を覗き込んでぎょっとして立ち上がった。
そして憲司は何か仕草をすると、誰かに手を引っ張られた。それでも顔を上げることは出来ないまま、ぞろぞろと人気から離れるためにカラオケボックスに連れてこられた。

黙ったままの僕に、悠一は机に腰を掛けて僕のキャップを2回つついた。
「何かあったのか?それとも影子と喧嘩したのか?」
影子さんの名前に反応するように、僕は抑え込んでいた言葉と涙がこぼれた。


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