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誘拐記念日

石ノ森椿

消えたコイン

それから一週間ほどが経ったとある放課後、僕のスマホに悠一から電話がかかってきた。
「もしもし、学校終わったか?」
「うん。」
内容は悠一の退院の知らせだった。
症状が落ち着いたから、今日!退院を済ませたらしい。

「慌てて出てきて重くなったりしない?」
「平気だ、んなの!お前ひとりにしといたらまたいじめられるかもしれないからな!!」
すると僕のスマホを腕ごとそれぞれの自身の方に引き寄せられる。

「また騎士気取りか?」
「あなただけ見方ぶってずるいですよ!」
「退院祝いなら俺らもサボれたのに!」
「祝いに何かおごれよ!!」
4人のからかう声が聞こえたのかスマホが大声を噴いた。

「宗太!!お前スピーカーにしやがったな!!」
「へへっ、ごめん……みんなが声聞きたいって言ってたから。」
僕たちはあれから無事和解することができたんだ。
といっても、僕が一人悠一の病室に顔を出していたところに4人が押しかけてきて土下座をしたってオチだけど。特に松岡……透は先頭だって頭を下げ続けたし、悠一のげんこつで話は収まった。

どちらかというと、病室を謝罪の声でうるさくしたことで、看護師に大きな雷を落とされた方がずっとシリアスだった。悠一もベッドの上で正座してたしね。
僕は悠一の家に着いた頃、影子さんに悠一の状態を連絡を入れるために電話を掛けた。

「あ、もしもし!宗太のお母さん明日退院だから、家に戻っていいよ。荷物は今日中に業者が家に戻すだろうから。」
「ん……はい?」
しかし、僕の報告より先に告げられたのはずっと顔を出しに行けていなかった母親の退院の知らせだった。
「まさか通学路忘れた?」
「違いますけど!」
「よし、それじゃ忘れ物しないように家に帰るんだよ~。」
矢継ぎ早な影子さんは僕に報告する間も与えずに電話を切った。
僕は、悠一に部屋に入れられそうになるのを体の向きを変えて躱した。

「何だ?」
「ごめ……母さんの退院が決まったらしくて、僕行かなきゃ。」
「そうか……何か手伝うか?」
「あ……大丈夫!ちょっとしたことだけだし。」
悠一の心配の躱した僕は、足早にかつての通学路を急いだ。
家に着くと、影子さんが引っ越し業者の手伝いをしていた。
駆け寄ると、僕に気が付いた影子さんが手を振った。

「すみません。手伝ってもらっちゃって。」
「いいよ。2回目だから。」
「あ、そうですね。」
「宗太、初めて会った時から思ってたんだけど……適応力高くて少し不安になる。」
影子さんにだけは言われたくない言葉にじっと影子さんの顔を見ると、へらへら笑って次の作業に移っていた。

業者さんと影子さんと僕の力も助けたのか、引っ越しはあっという間に完了した。
影子さんは玄関の門に寄りかかっている僕に缶コーヒーを渡した。
……またカフェオレ選んでる、僕またブラックですか!
僕の不服な顔に、影子さんはしぶしぶ交換をしてくれた。
「影子さん。」
「ん?」
「ありがとうございました。」
「ははっ、誘拐犯に言うセリフじゃないね。」
「感謝は誰にでも伝えるのが僕のモットーです。」
「そりゃいいことだ。」

影子さんは微笑んでから手を振った。
「あ、それじゃまた。」
思わず振り返すと、影子さんは……。


「アディオス!」
そう言って僕と家に背を向けた。
その時の僕は……これが影子さんの別れの挨拶だったなんて思いもしなかった。

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