誘拐記念日
旅立ち
…橋爪視点…
リサちゃんは僕を見るなりホッとしたのか息を吐いた。僕はリサちゃんを連れてカウンセリング室の席に着いた。リサちゃんは向き合いの席に座って机の上に置いてあったやじろべえをぼんやりと見つめている。
「リサちゃん…何があったか教えてくれるかな?」
「あ…ごめんなさい…その…。」
「ゆっくりでいいよ。難しかったらスケッチブック使う?」
僕の問いかけにリサちゃんはこくんと頷いた。
机の下のスケッチブックを渡すと、リサちゃんは4Bの鉛筆だけを使って黙々と何かを描き始めた。
普段から暗い色の絵を書くことが多いリサちゃんが今日は全く色を使わないのはリサちゃんの焦りが伝わってくる。
そっと覗き込むと、スケッチブックの中には四角い車に119の文字、何かを刺す人と刺されて口から魂が抜ける人、その周囲は人が沢山なのに誰もその2人に目が向かないまま2人に指を指している。
「影子さんが…宗太君のお友達を…殺そうとしているんです…注射の中にはきっと毒が入ってたんです。」
「リサちゃん…。」
リサちゃんは先入観が強いところがある。一度黒だと思ったら、納得いく答えがない限り白とは思えない。
不器用といえば聞こえがいい…でもその不器用がこの子の心を侵食してしまうスピードは人の何倍なのだろうか。
「きっとこの体を勝手に使ってまた酷いことをするつもりでいるんですッ…私は…また止められなかった…。」
「リサちゃん…影子さんはお友達を助けてくれていたんだよ。」
僕はリサちゃんの先程まで握りしめていた注射器とアレルギーの資料を見せた。
「ほら、この薬はアレルギー抑制剤のひとつ。注射器は中心から針が出る仕組みでそれ以外には穴ひとつ開けられない。だから中を入れ替えることも出来ないものだよ。」
「…それなら…どうして悠一くんは救急車に乗っていたんですか?」
「携帯薬だけでは症状が収まらない状態だった。でも影子さんは最後まで良く頑張っていた…それは今君の腕にある傷が物語っているんじゃないのかな?」
リサちゃんは僕の言葉に促されるように自身の腕に目を向けた。驚愕の顔からして初めて気がついたんだろう。
その傷は形からして悠一君が必死に握りしめていた痕。きっとその痛みも忘れて必死に彼を生かそうとしていた。
「はぁ…ネタばらししないでよ先生。」
僕がスケッチブックから顔を上げると、顔つきが変わり、方で息をした…影子さんがこちらを見ていた。
「影子さん…だね?」
「どうして私はここに?…どうせリサが余計なことしたんだろうけど…。」
影子さんはすくっと立ち上がり、ドアノブに手をかけた。
慌てて扉を抑えると、影子さんはドアに顔を向けたまドアノブを引いた。
「離してください。」
「まだ君は万全じゃない。息も切れている。」
「それでも行かないといけないんです。」
「どうして…。」
「私の最後の仕事なんです!!リサがやれなかったこと…私の贖罪を…これで終わらせられるんです。」
影子さんの声はかすかに震え片手で掴んでいたドアノブは両手になっていた。
「…それなら約束して。…必ず、終わったら必ずここに来るんだ…いいね?」
僕の説得に、影子はこちらに顔を向けてニカッと笑った。
「必ず帰ってきます。」
そこで改めて影子さんの油のような汗に気がついた。
ドアを開けて駆けていく影子さんを僕は見えなくなるまで見つめていた。
もう彼女は限界だ。
リサちゃんは僕を見るなりホッとしたのか息を吐いた。僕はリサちゃんを連れてカウンセリング室の席に着いた。リサちゃんは向き合いの席に座って机の上に置いてあったやじろべえをぼんやりと見つめている。
「リサちゃん…何があったか教えてくれるかな?」
「あ…ごめんなさい…その…。」
「ゆっくりでいいよ。難しかったらスケッチブック使う?」
僕の問いかけにリサちゃんはこくんと頷いた。
机の下のスケッチブックを渡すと、リサちゃんは4Bの鉛筆だけを使って黙々と何かを描き始めた。
普段から暗い色の絵を書くことが多いリサちゃんが今日は全く色を使わないのはリサちゃんの焦りが伝わってくる。
そっと覗き込むと、スケッチブックの中には四角い車に119の文字、何かを刺す人と刺されて口から魂が抜ける人、その周囲は人が沢山なのに誰もその2人に目が向かないまま2人に指を指している。
「影子さんが…宗太君のお友達を…殺そうとしているんです…注射の中にはきっと毒が入ってたんです。」
「リサちゃん…。」
リサちゃんは先入観が強いところがある。一度黒だと思ったら、納得いく答えがない限り白とは思えない。
不器用といえば聞こえがいい…でもその不器用がこの子の心を侵食してしまうスピードは人の何倍なのだろうか。
「きっとこの体を勝手に使ってまた酷いことをするつもりでいるんですッ…私は…また止められなかった…。」
「リサちゃん…影子さんはお友達を助けてくれていたんだよ。」
僕はリサちゃんの先程まで握りしめていた注射器とアレルギーの資料を見せた。
「ほら、この薬はアレルギー抑制剤のひとつ。注射器は中心から針が出る仕組みでそれ以外には穴ひとつ開けられない。だから中を入れ替えることも出来ないものだよ。」
「…それなら…どうして悠一くんは救急車に乗っていたんですか?」
「携帯薬だけでは症状が収まらない状態だった。でも影子さんは最後まで良く頑張っていた…それは今君の腕にある傷が物語っているんじゃないのかな?」
リサちゃんは僕の言葉に促されるように自身の腕に目を向けた。驚愕の顔からして初めて気がついたんだろう。
その傷は形からして悠一君が必死に握りしめていた痕。きっとその痛みも忘れて必死に彼を生かそうとしていた。
「はぁ…ネタばらししないでよ先生。」
僕がスケッチブックから顔を上げると、顔つきが変わり、方で息をした…影子さんがこちらを見ていた。
「影子さん…だね?」
「どうして私はここに?…どうせリサが余計なことしたんだろうけど…。」
影子さんはすくっと立ち上がり、ドアノブに手をかけた。
慌てて扉を抑えると、影子さんはドアに顔を向けたまドアノブを引いた。
「離してください。」
「まだ君は万全じゃない。息も切れている。」
「それでも行かないといけないんです。」
「どうして…。」
「私の最後の仕事なんです!!リサがやれなかったこと…私の贖罪を…これで終わらせられるんです。」
影子さんの声はかすかに震え片手で掴んでいたドアノブは両手になっていた。
「…それなら約束して。…必ず、終わったら必ずここに来るんだ…いいね?」
僕の説得に、影子はこちらに顔を向けてニカッと笑った。
「必ず帰ってきます。」
そこで改めて影子さんの油のような汗に気がついた。
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もう彼女は限界だ。
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