誘拐記念日
修繕 ⑥
自らの分もよそいながらの影子さんの言葉が刺さる。
自分のやっていたことに恥ずかしさがこみあげて影子さんの顔を見れずに俯いた。
「だって……」
「宗太。」
「」
「手を合わせて。」
「……はい。」
いただきますの声はいつも以上に小さくなってしまった。
「宗太、レンゲを持って。」
「影子さん、僕……」
「言い返せないのは、おなかが減ってる証拠。まずは食べる。」
僕はレンゲで大きく掬って口に詰め込んだ。
口いっぱいに広がる出汁のおいしさに安心して、嬉しいはずなのに胸がいっぱいになってくる。
飲み込めない……その理由は自分の中でわかっていて、悔しさが涙になってぼろぼろ零れ落ちる。
「どうした?」
「ん、んぐ……。」
「まず飲み込んでから。」
やっとのことで飲み込んだのに、胸のつかえがとれない。
必死に息をしても、胸を叩いても涙がさっきよりひどく流れてくる。
「涙が出るよね。」
「」
大きくうなずくと、影子さんは机越しに言葉を続けた。
「宗太はどうしたいの?」
「僕は……怖いです。」
「何が?」
「今の状況……。」
「私は今のあんたが一番怖いよ。」
顔を上げると、影子さんはすくっと立ち上がって僕の席の足元に膝をついた。
「あんたが憂いているのは状況なんかじゃない。あんた自身“だけ”なんだよ。」
「僕自身だけ?」
「こないだ悠一君を家に連れてきた時、車ん中でさ……あんたがクラスメイトをあのクッキーから守ったって聞いたよ。」
影子さんが僕の肩を優しくつかんだ。
「私はあの日てっきりあんたが変われたんだと思ってた。一つ乗り越えたんだって。悠一君だってそう思ったからあんたを庇って今に至るんじゃないの?」
「影子さん……。」
「なのに今のあんたは何なの?またビビッて、見て見ぬふりして。」
ここで、影子さんの手がギリッと爪を立てた。
「痛いです。」
「痛くなければ困るよ!いい?いじめられる人より、いじめる奴の方がずっとだっさいし、バカだし、人でなしなんだよ!!」
影子さんの語気は強く、目には僕と同じくらいに涙が溢れていた。
「あの日私はあんたにクッキーと一緒に自己注射薬も渡した。使い方も教えた。それはあんたが実行して、見て見ぬふりをしても誰かがカバンの中の注射器に気が付くと思ったから。案の定悠一君は気が付いてたしね。それだけ私もあんたへの期待は低かった。それでもあんたは実行に移さないどころかクッキーを奪い取って踏みつぶした。私はあんたのその一つの勇気にかけてたんだよ!!」
「それは!……人殺しになりたくなかったから……。」
きっとその一言を言えば、また正論で罵られる。そう思ったけど、僕はその一言を止めることは出来ずに、目を閉じた。
「それがあんたの本心なの?」
「……はい。」
すると、影子さんの手の力はすっと緩んだ。
「それでいい。」
目を開けると、すぐに影子さんに勢いよく肩をゆすられた。
「それでいいんだよ~宗太~!!」
「え……え……。」
影子さんは僕の体を止めると、自らの顔を服の袖で拭うとすぐに、エプロンのポケットに入っていたタオルで僕の涙を拭った。
「ならあんたの勇気をもう一度見せつけなさい。」
「でも僕は……。」
「今度の土曜日は学校開放日でしょ。確か給食の時間からよね。その時には私顔出すから。思いっきりぶちかましてみなさい!!」
「へ……?!?!」
自分のやっていたことに恥ずかしさがこみあげて影子さんの顔を見れずに俯いた。
「だって……」
「宗太。」
「」
「手を合わせて。」
「……はい。」
いただきますの声はいつも以上に小さくなってしまった。
「宗太、レンゲを持って。」
「影子さん、僕……」
「言い返せないのは、おなかが減ってる証拠。まずは食べる。」
僕はレンゲで大きく掬って口に詰め込んだ。
口いっぱいに広がる出汁のおいしさに安心して、嬉しいはずなのに胸がいっぱいになってくる。
飲み込めない……その理由は自分の中でわかっていて、悔しさが涙になってぼろぼろ零れ落ちる。
「どうした?」
「ん、んぐ……。」
「まず飲み込んでから。」
やっとのことで飲み込んだのに、胸のつかえがとれない。
必死に息をしても、胸を叩いても涙がさっきよりひどく流れてくる。
「涙が出るよね。」
「」
大きくうなずくと、影子さんは机越しに言葉を続けた。
「宗太はどうしたいの?」
「僕は……怖いです。」
「何が?」
「今の状況……。」
「私は今のあんたが一番怖いよ。」
顔を上げると、影子さんはすくっと立ち上がって僕の席の足元に膝をついた。
「あんたが憂いているのは状況なんかじゃない。あんた自身“だけ”なんだよ。」
「僕自身だけ?」
「こないだ悠一君を家に連れてきた時、車ん中でさ……あんたがクラスメイトをあのクッキーから守ったって聞いたよ。」
影子さんが僕の肩を優しくつかんだ。
「私はあの日てっきりあんたが変われたんだと思ってた。一つ乗り越えたんだって。悠一君だってそう思ったからあんたを庇って今に至るんじゃないの?」
「影子さん……。」
「なのに今のあんたは何なの?またビビッて、見て見ぬふりして。」
ここで、影子さんの手がギリッと爪を立てた。
「痛いです。」
「痛くなければ困るよ!いい?いじめられる人より、いじめる奴の方がずっとだっさいし、バカだし、人でなしなんだよ!!」
影子さんの語気は強く、目には僕と同じくらいに涙が溢れていた。
「あの日私はあんたにクッキーと一緒に自己注射薬も渡した。使い方も教えた。それはあんたが実行して、見て見ぬふりをしても誰かがカバンの中の注射器に気が付くと思ったから。案の定悠一君は気が付いてたしね。それだけ私もあんたへの期待は低かった。それでもあんたは実行に移さないどころかクッキーを奪い取って踏みつぶした。私はあんたのその一つの勇気にかけてたんだよ!!」
「それは!……人殺しになりたくなかったから……。」
きっとその一言を言えば、また正論で罵られる。そう思ったけど、僕はその一言を止めることは出来ずに、目を閉じた。
「それがあんたの本心なの?」
「……はい。」
すると、影子さんの手の力はすっと緩んだ。
「それでいい。」
目を開けると、すぐに影子さんに勢いよく肩をゆすられた。
「それでいいんだよ~宗太~!!」
「え……え……。」
影子さんは僕の体を止めると、自らの顔を服の袖で拭うとすぐに、エプロンのポケットに入っていたタオルで僕の涙を拭った。
「ならあんたの勇気をもう一度見せつけなさい。」
「でも僕は……。」
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「へ……?!?!」
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