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誘拐記念日

石ノ森椿

庇護

僕が帰ると、いつも通りのあっけらかんとした影子さんと対するように神妙な表情の悠一がリビングの机で向かい合っていた。
「何かあったんですか?」
「ん?うん、2人だけのこそこそ話。ね?」
影子さんの声に、悠一はじろっとこちらを睨み上げた。
「よし、ある程度話もできたことだし、今日はもう帰りな。親御さんも心配してるでしょ?」
「は?」
「宗太、送ってあげたら?」
そう言って影子さんはキッチンに入っていった。
影子さんの一瞬の目配せに、僕はやっと夜の出来事を思い出した。
そうだ、リサさんに悠一を合わせたら絶対ろくなことにならない。
「そ、そうだよ!ごめん、今日は帰って「断る。」……え?」
「あいあんた!勝手に連れて来て用済んだから帰れって、そんなおかしな話あるかよ!」
「ちょっと稲辺……。」
「それとも何か?『僕たちデキてるから邪魔しないで~』って?は~!」
思わぬ思い違いに怒りで顔が熱くなる。
それなのに頭が真っ白で何も出てこない。

あれ、僕何でこんなに怒ってるんだろう……。
そもそも僕だって誘拐されてるわけだしおかしいんだよね?
僕がショートしてしまうと、影子さんはリビングに顔を出した。
「親御さんにはきちんと話しておいてね。」
「は?!」
「フンッ、そう来ないとな!」
影子さんッ?!何考えてんの?!
そんなことしたら……。

「あ、宗太。家でのルールきちんと伝えておいてね。」
「……はい。」
そんな……僕が説明するの……?
僕はこれから訪れる心臓破りの時間に向けて唇をかんだ。

影子さんの作ってくれた夕食は無理矢理お茶で流すしかない状態で、僕は夜を迎えた。
3人ともお風呂を済ませたころ時刻は7時半になった。

影子さんは何も言わないまま部屋に入っていったのを確認して、僕は深呼吸をした。
「ねぇ、稲辺。」
「あ?」
「客間がないから今日は僕の部屋で寝よう。」
「何でもう寝るような寸法立ててんだよ。」
「もう部屋に入る時間だからだよ。」
「は?」
「と、とにかく、うちは消灯がこの時間なの!!」
僕は稲辺の腕を引いてソファから立たせて、無理矢理部屋に押し込んだ。

後ろ手で扉を閉めると同時にリビングの照明が黄色の薄暗いものに変わった。
これは、8時にオートで変わる仕組みになっている。……つまり、リサさんの時間が始まる合図だ。
その証拠に、ぎぃっと遠くのドアが開く音が聞こえる。
「おい、腕離せよ。」
「ごめん、8時以降はこの部屋から出ちゃいけない決まりになっているから。」
「何だそれ。トイレは?」
「朝まで我慢してる。」
「拷問かよ!」
「だから影子さんだって帰るように言ったんだ。」
「チィッ!」
トイレの話題になってくれたおかげで、ギリギリこれ以上聞かれることはなくなった。
良かった……騒ぎ過ぎたらリサさんが気がついちゃうところだった。
僕はふぅと息をついた。

コンコンッ
「ッ?!」
その時、僕のやっと来た安堵の時間をぶち壊すノック音が部屋に響いた。

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