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誘拐記念日

石ノ森椿

余計な誘拐 ③

…悠一視点…

宗太が玄関を出たのを確認すると、影子は緑茶に手を伸ばした。
「さて、何から聞きたいの?」
「何で俺たちを殺そうとした?」
「あら?そんな覚えないけど?」
悠長に緑茶を飲む影子に、俺は机をたたいて威嚇した。
「とぼけんな!俺たちにアレルギン物質の入ったクッキーを喰わせようとしたんだろ?」
「あぁ、そのこと。別にいいじゃない、死んでないんだから。」
「は?」
今、なんて言ったこのアマ……。
「宗太が止めたんでしょ?つまりあんたたちは宗太に危害は加えられてない、むしろ命拾いしたんだから感謝するべきじゃない。」
「てめぇ。」
机に乗りあがって影子の胸ぐらをつかむと、影子はフッと嘲笑いを漏らした。

「殴れるもんなら殴ってみなさいよ。あの子にやったように。私は平気だよ?どうせ犯罪をおかしたガキの手だもの。」
「犯罪……?」
俺がオウムのように聞き返すと、影子は俺の手首を掴んでギリッと握った。

「何しやが「暴行罪。」……は?」
「器物破損、窃盗、恐喝、名誉棄損、虚偽告訴、傷害、殺人未遂、あと……何かある?」
俺が力を緩めると、影子はあっさりと掴んでいた手を離した。

「それならてめぇは殺人教唆ってやつだろ?」
「へぇ、調べたんだ。えらいね。」
「俺だっててめえを警察に突き出せんだよ!!」
「うん、そうだね。」

案外簡単に罪を認めた影子に不信感しかわかない。
俺が指さした手を下ろし損ねていると、影子は徐にキッチンに入っていった。
咄嗟に刃物とか危険なものが飛んでくるんじゃないかと背筋が冷えた。
しかし、キッチンから戻ってきた影子の手に掴まれていたのは、市販のクッキーの袋だった。

「問題はそのクッキーにアレルゲン物質が入ってるのかってことでしょうけど。」
「“アレルゲンフリー”おからクッキー……?」
パッケージの裏を見ても、着色料の果てまで全く俺たちのアレルゲンに該当はしなかった。
「それにあなたたちを殺すように指示した証拠なんてないんだしね。」

俺は唯一カバンに持ってきていたクッキーを思い出し歯を喰いしばった。
そんな俺を見て呆れたようにため息を吐いて影子は席に着いた。
「だから、いつまでもそんな潰れたクッキーの袋を持ち歩くのはやめた方がいいと思うけど。」
「ッは?!」
「まだ疑う余力があるなら調べてみるといいわ。成分ぜーんぶ一緒なんだから。」
影子は宗太の運動着の袋から残り4色のクッキーの袋と、一枚の紙を机に並べた。

「はぁ、あの子はやっぱりやらなかったか。」
「どうせ色を覚えなかっただけだろ。」
「まだ気が付かないの?ここ。」
影子は俺の前に紙を差し出すと、トントンっと指さした。
紙の表の空欄にはそれぞれ好き好む飲み物が書かれていた。
「あの子は、“やる気さえあればあなたたちを殺せた”の。それにここ、あなたたちに番号が振られてる。」
番号の1番には矢嶋が選ばれて、俺が一番最後になっていた。
「食う可能性のある順番だ。」
「あら~、本当に全員に手を下せそうね。紐の閉め方もバラバラにしてあるし。」
背筋が冷えあがっていくのを感じる。
宗太は、俺たちを“確実に殺せた”……殺さない選択をしたんだ。

「あの子は無意識にあなたたちの食べやすい状態を作り上げた。」
「何で……宗太は。」
「さぁ、私は人を殺したこともあるから……。こんな都合のいいもんならすぐ使うと思ったんだけど。」
影子の思わぬ告白に、俺は椅子が倒れるのも気に留めずに席を立った。

直後に、部屋のインターフォンが鳴り響いた。
「はぁ、時間切れ。」
席を立つだけの動作だったのに、動悸が止まらない……。
俺は、この女と宗太に恐怖しているのか……2人が並ぶことに……。

「ただ今帰りました。解錠お願いします。」
「はいはーい。」
宗太ののんきな声と影子の少しうれしさをにじませた声に、俺はどうにか息を整えるしかなかった。

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