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誘拐記念日

石ノ森椿

余計な誘拐 ②

稲辺の怒号で僕は学校を飛び出して、駅の公衆トイレにこもっていた。
こんな時間に帰ったら、影子さんにバレたら怒られるに決まっている。
影子さんの言ってたことは出来なかったし……泣いて帰ったら……駄目だ、考えれば考えるほど怒られる結末しか考えられない。
トイレットペーパーをぐっしょり濡らしたのを何度目か水洗したところだった。
影子さんと僕を繋ぐチャットメールが通知音を鳴らした。
既読をつけないように待ち受け画面に表示された部分をスライドして読んでいく。

『帰ったら宿題はきっちりしておくこと!まだ時間たっぷりあるからお掃除お願いね~。』
「バレてる……。」
仕方なく、僕はトイレを出てちょうど来た帰りのバスに乗り込んだ。
すると、それを見透かしたように影子さんから返信が届いた。
『今日はお客さん来るから念入りにね~。』
「お客さん?……誰だろう……。」
家に着くと、部屋はいつもの通り綺麗にされていた。
これのどこを片付けろと言うのでしょう……。

ピーンポーン!
するとちょうどすぐに横のインターフォンが耳にキーンと響いた。
『お客さん』という言葉に僕は慌てて画面をつけた。

そこには見覚えのない男性がカメラを覗き込んでいた。
「はい……、どちら様ですか?」
「あぁ……影子の知り合いなんだ。影子は?」
「えっと……「まぁ、いないか。ちょっと上がらせてもらってもいい?」あ……はい。」
男性の口調は何か急ぎの用があるように聞こえて僕はカギを開けてしまった。

するとものの5分ほどで上がってきた男性は玄関のドアを開けた。
「よ!確か、宗太君だったな。話は聞いてるよ。俺は影子の知り合いの伝文ってさてはあいつから聞いてねぇな?」
「え?あ……さっき来客があるって電話がありました。」
「あ?あ~、多分それ俺じゃないな。まぁいいや。これ、土産な。影子に頼まれてた無調整の豆乳。」
豆乳の入った袋を押し付けられて慌てて受け取ると、ビニールには近くのスーパーで買ったと思われるロゴが入っていた。

「なに?サボっちゃったのか?」
「あ……いや、ハハハ……。」
「そうか……。」
伝文と名乗った男性は適当に相槌を打つと、ジッと僕の顔を覗き込んできた。
何かを見透かされそうで僕は視線を足元に向けた。
「あぁ、わりぃわりぃ、仕事の癖でな。」
「そうですか……。」
「ってこんな時間だな、影子帰ってくる前に逃げて帰るわ。あいつ口うるさいから。」
そう言って伝文さんはそそくさと玄関の扉を開けた。

「あ、宗太。」
そして、何かを思い出したように僕に振り返った。
「はい?」
「影子のこと、悪く思わないでやってくれ。あいつは……哀れな奴だから。」
「それってどういう「そんじゃな!!」あ、ちょっと……えぇ。」
結局言うだけ言って、伝文さんはマンションな階段を走って行ってしまった。


しばらくして、また部屋のインターフォンが鳴った。
画面をつけると、影子さんがドアップで映っていた。
思わず無言で鍵を開けた。

そこからものの5分で玄関のカードキーがピピッとなって、玄関が開いた。
「おかえりな…え゛?」
リビングから顔を出すと、影子さんの後ろには般若顔した稲辺が僕を睨みつけていた。
心臓が裏返り、喉がキュウと鳴った。
物理的にそんな事起きるわけないんだけど、そのくらい体が警告音を鳴らしている。
「ふふっ、連れてきてみた。」
「…。」
「これでまた記念日増えちゃうなー!!」
影子さんはそんなのんきなことを言ってる一方で、僕はもうどこから何の情報漏れてもおかしくない状況に、物理的にちびりそうになっていた。

なんで…なんのために…。
暑さが溜まった室内で背筋から凍った汗が流れる。

とりあえず、冷蔵庫に入っていた緑茶をグラスに注いで恐る恐る二人の前に置いた。
すると、影子さんがカバンから一枚のメモを僕に手渡した。
「宗太、買い物お願いしてもいいかな?ちょっと悠一君と大切なお話があるから。」
「はい……。」
「なんだよ、こいつに聞かせるとまずいってか?俺らを殺そうとした共犯のくせによ。」
「それは……。」
違う!とも言えない。僕が言い淀むと、影子さんは僕に目配せをした。
「買い物、お願いね?」
「はい……。」
影子さんの威圧的な目に僕は恐る恐る部屋を出た。
メモには2駅先のスーパーでしか買えないものが書かれていた。
これ……家に必要なものでしょうか……絶対いらない……。

僕はしぶしぶ時間を潰す買い物に出かけることになった。

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