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誘拐記念日

石ノ森椿

余計な誘拐

「ごめんなさい……僕……。」
「お前、今日はこのまま帰れ。」
俺から出た次の言葉は、宗太を逃がす意図を示していた。
「え……なんで?」
「てめぇの顔見てるだけで虫唾が走るんだよ!!ここで殺される前に消えろ!」
宗太は俺の目を見上げて血の気を引いて教室を飛び出していった。
俺は宗太の椅子に未だ貼り付けられていた画鋲に目を向けた。
宗太の誕生会の帰り、俺は宗太の様子に違和感を感じていた。
「どうかしたんですか?」
その様子に気が付いたのが松岡だった。
「あいつ……俺たちのアレルギー症状なんて知ってたのか?」
「さぁ?僕は悠一君とそこまで込み入った話をしたことなんてありませんでしたからね。」
他のやつに問いかけても松岡と同じような返答が返ってくるばかりだった。
つまり、宗太が秘密裏に俺たちの身辺を探っていたことになる。

「彼、怪しいですね?」
「あぁ。」
「白々しい態度取っていましたが……どうやら僕たちは化かされていたんじゃないですか?」
「チィッ。」
そして、松岡が提案したのが椅子に画鋲を張り付けた拷問だった。
そう……これは俺たちに逆らった粛清だったはずだ。
でも、針先から椅子全体にかけてには血痕が残って、俺を無言で攻めた。

「悪くない……俺は……。」
そうつぶやいても俺一人が残った教室には機嫌を取る奴も否定する奴もいない。
1時限が終わっても俺のここは落ち着かず、俺は他のやつに告げないまま一人昼休みに学校を早退した。
とは言え、実際に体調が悪いわけでもないただのサボりだ。
コンビニで適当に炭酸飲料を買って歩きながら蓋を開けた時だった。

「おサボりさん発見。」
聞き覚えのある澄んだ声に顔を上げると、長身の女性が俺を視線を合わせた。
「影子さん……でしたっけ?」
「あら、覚えててくれたんだ。おねぇさんうっれしぃ~!」

おどけた態度に、宗太の涙に崩れた顔がよぎって先ほどの怒りがまた湧き上がってきた。
「忘れる訳ねぇだろ、人殺し。」
俺の言葉に周囲がパラパラとこちらに視線を集中した。
「何のこと?」
しかし、影子は対するようにおれにとぼけて見せた。
「とぼけんな!」
「瀬取第一高校1年C組3番、稲辺悠一君。」
「ッ……。」
急に学校から名簿番号まで当てられて、俺は思わず周りに目を向けた。

「大人捕まえて根も葉もないことを言うのは、お勧めできないかな。そういう交渉は普通人目につかないところでやるものよ?」
「は?!」
「それに……。」
影子はそこで言葉を一旦止め、徐に手荷物を足元に置いた。
そして右手の小指を顔の横から真下にゆっくり下げた後、右手で耳左手で口をふさぐ動作をして見せた。
それは、手話で『妹』『聴覚障がい者』を意味するものだ。
「あの子に面目立つの?」
「おま……何で妹の事……。」
「少し話しましょう?ご飯くらいなら御馳走する。」
影子はそう言いながら右手をゆるゆると動かした。
『従わないなら妹にばらすよ。』
妹の障害を知っているだけでない……この女、妹と関わりを持ってる……?
俺は声が震えるのを唾を飲んで抑えた。
「わかった。」
「車で行きましょう。」
影子は俺がそばによると踵を返して俺の少し前を歩き始めた。
車に着くと、俺に向き直り荷物を押し付けた。

「何して「車に背を向けてVサイン!」は?」
気迫に押されて思わず従うと、遠くの方で走り去る足音が聞こえた。
「何の真似だよ。」
「グルにしとかないと、私また罪重なっちゃうもの。ほら、鍵開いたから乗って。」
俺は影子の言葉に混乱しながらも、車の助手席に着いた。

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