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誘拐記念日

石ノ森椿

謀事 ③

一心不乱に踏む潰したおかげで粉々になったクッキーにほっとしたのもつかの間、すぐに矢嶋の手が僕の胸ぐらをつかんだ。

「てめぇ、覚悟はできてんだろうな?!」
「あ~あ、食べ物の恨みですね。」
「このままサンドバックにしてやろうぜ!!」
僕は歯を食いしばって目を閉じた。
その時だった。

「お前ら!!そいつを下ろせ。」
遠めに見ていた稲辺が声を上げた。

「何だよ悠一!!」
「それは俺が片付ける。いいから下ろせ、俺の言う事は絶対だって言ったろ。」
稲辺の地を這うような怒声に、矢嶋は僕を床に落とした。

「先に行け。」
稲辺が顎で指図すると、4人は不服そうに教室を出て行った。

「で?お前、このクッキーに何しかけた?」
稲辺は、僕のカバンを漁ると残りのクッキーの袋を引き抜いた。
「……稲辺、返して。」
「どうせ下剤か何かだろうが、結局仕留める覚悟もないなんて、ハッ!情けなくて笑いがこみあげてくる!」
「それは……。」
「にしても、また器用にクッキーまで色分けして、これって俺らのイメージカラーってやつ?それなら俺は……。」
稲辺はそう言って一つ一つを見比べると、青、緑、無色を床に落とした。
「まあ赤でいいか。」
「ッ駄目だ!!」
「はぁ?たかが下剤だろうが、一口くらいなら……」
稲辺が袋を開けようとした瞬間に僕は赤の袋を奪い取って、一気に自分の口になだれ込ませた。
口の中の水分が奪われて、咽そうになるのをどうにか抑えて水道の蛇口をひねった。

水でクッキーを流し込むと、プハッと息が上がる。
直後に稲辺が僕の肩を掴んで自らの方に向かせた。
「な、にやってんだお前。」
「稲辺、君は食べちゃダメなんだ……。」
「は?」
「これ、牛乳が入ってて……他の物も、みんなのアレルゲンがそれぞれ入ってるから……それで……ッ。」
僕が息継いだ瞬間、稲辺が僕の胸ぐらを掴んで叩き落とした。

「てめぇ、黙ってへらへらしてると思ってたらついに謀りやがったか!!」
「ごめ「謝って済む訳ねぇだろ!!俺たちを本気で殺すつもりだったなんてな!挙句、尻込みして洗いざらい吐いたってなぁ、許す訳ねぇだろうが!!」痛ッ!」
稲辺は僕の髪を掴むと思いっきり前後に揺らした。
髪の千切れる音と目の前がぐらぐら揺れる景色にめまいがしてきそうで、稲辺の腕を必死に抑えた。
「これだから片親の子にロクな奴がいねぇんだよ、クズ!!クズはクズらしく地べた這いずり回って諂ってりゃ良いんだよ!!」

「もう、やめて……よッ!!」
片親、クズ……
その二つの単語で僕の中の何かが切れた音がして、僕は思いっきり稲辺の体を突き飛ばした。

「もう……やめて。これ以上、傷を増やしたくないんだ。」
「あぁ?何気取ってやがんだ!」
「影子さんを怒らせたくない!!」
「はぁ?そこで何でお前の姉貴が出てくんだよ!!」

余計なことを言った……!!
自身の顔から血が引いていく感覚がした。
僕が慌てて口を手で覆うと、稲辺が一歩僕に近づいて肩を掴んだ。

「い、痛い「お前の姉貴がやったのか?」ッ……!」
「おいマジかよ。」
「ち、違う!!僕が……僕が傷を隠せなかったから……。」
思わず昨日できた傷に指を添わせると、稲辺はその指を目で追った。

「お前の姉貴は何て?」
「影子さんは関係な「答えろ!!」……。」

「考えてみりゃそうだ、お前みたいな“能足りん”がわざわざこんな小細工思いつくはずもねぇ!渡されたとき何言われたんだ?!あぁ?!」

稲辺のあまりの怒りに凄まれて僕は恐怖に押し負けた。
「『誰でもいいから始末してきな。』って……。『全員に配ってもいい。』って。ごめん……ごめんなさいッ……ごめ……んなさい。」
「」
目からは涙が溢れて、謝罪の言葉がこぼれた。
影子さんの策略をばらしてしまったこと、それを実行しなかったこと、クッキーを途中で捨てることもできないまま口に運ばれるギリギリまで止められなかったこと、いじめがばれてしまった事…………いじめに勝てない弱い僕に……謝罪が勝手に零れた。

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