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誘拐記念日

石ノ森椿

謀事 ②

次の日の朝、寝ぼけている鼻を甘い香りがくすぐった。
目覚まし時計を見ると、針は7時を指していた。
え、これって……寝坊じゃないか!!
慌てて制服に着替えて部屋を出ると、キッチンから影子さんが顔を出すところだった。

「あ、やっと起きた!!声変えても反応なかったけど体調は?」
「すこぶる大丈夫ッ、あの、お弁当があのッ。」
「朝ごはんの分のおにぎりも袋に詰めてあるから!」
「ありがとうございます、運動着がッうぅ……。」
「落ち着いて!!準備できてる、あと中にお友達の分ね!」

友達の分ってことは、いじめっ子5人の分か……?
運動着のバッグを見ると、5色のラッピングが施されたクッキーが入っていた。
「これは?」
「見ての通り、クッキー。これ、5人に持って行ってあげてね。」
「はい……。」
「あとこれ、色と渡す人のリスト、バスの中で覚えてね。」
影子さんは僕の不服に気づくこともなく、一枚の紙を僕の前に差し出した。
よく見るとクッキー自体にもラッピングと合わせて軽く色付けがされている。
「何で色分けを?」
「そんなの……あの5人の“アレルゲン”それぞれ入ってるからに決まってるじゃない。」
「ッ?!」
この人は一体何を言ってるんだ?
アレルゲン物質が毒になるってことはさすがにこのご時世知らないわけもない。
何より、先日アレルゲン物質を抜いたケーキだと言ってそれぞれに振る舞っていたのに……。
「誰でもいい。始末してきな。」
「どうして……?」
「責任は私が取るから好きなようにしておいで。あ、全員に配ってもいいよ?」
影子さんはそう言うとニヤッと不吉な笑みを浮かべた。
その微笑を見て、あぁこの人は本気なんだと悟って背筋がぶるっと震え上がった。

「……どうしたらいいんだ……。」
僕は結局荷物を背負ってメモを手に持ったままバスを降りた。
「悠一が赤で長谷川が緑、松岡が青で矢島がオレンジ、佐野が無色……あ。」
なんでこういう持っちゃいけない情報だけ記憶に入るんだよ僕の頭の馬鹿!
教室の扉が開かないとか黒板消しが落ちてくるとか、どうにか教室に入らせない嫌がらせでも起きていてくれないだろうか……。

僕はいじめられる方法に手を合わせながら学校に着いた。
まぁそんなことで願いが敵うはずもなく、引き戸はいつもよりも軽―く開いた。
「来やがったな、おい。」
席に着く前にぞろぞろと運動着図型の男子に囲まれる姿は周りから人気ものか何かに見えるだろうか……いや、そんなわけないか。
人と人の隙間から時間割の黒板をチラッと見ると、何の都合なのか昨日の予定から入れ替わって1時間目が体育になっていた。

えぇ……今日に限って一時間目……。
いや、体育は嫌いだから憂鬱なのもあるけど、今日は特に最悪だ……。
「今日自習だって!!」
クラスの女子の声が教室に響いた。
「おい、お楽しみの時間が始まるぞ?早く着替えろよ。」
「あ……うん、着替えていくよ。」
「何だよ水臭いな、僕たちみんなで待ってるからさ。」

松岡の視線は僕の尻と足に注がれているのが分かった。
傷を笑いたいのは伝わってくるけど、後で何とでもするからとにかく先に行ってほしい……。
僕は、あのクッキーを処分する方法を必死に頭で練った。
練って練って……。

「あ、これなんだよ!!」
「ッ?!」

まずい集中し過ぎた!!
矢嶋の声に体を震わせると、そのまま卒倒しそうになった。
その間に僕の運動着のカバンが開かれてクッキーが全色見えていた。

「あ、これは違うんだ。」
「なにがだよ!俺たちに懺悔の為にどこか揶揄って来たんだろ?遠慮するなって!!」
「ちが、本当にッ?!」

すると、矢嶋はオレンジの袋を引き抜いて封を開けてしまった。
「や、嫌だ!!」
僕が咄嗟に矢嶋のクッキーを叩き落とすと、クッキーは割れて少し顔をのぞかせた。

「おい、何しやがんだよ!!」
矢嶋がこちらに向かおうとしたのが分かって僕は慌ててクッキーを踏みつぶした。
これだけはだめなんだ……。できない……ぼくは出来ない!!

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