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誘拐記念日

石ノ森椿

もう一人の女

ピーンポーン
インターフォンが鳴らされた音で設置されたインターフォン画面をタップする。
するといつものようにカメラに向かってピースサインをする影子さんの笑顔が映っている。
「今開けます。」
「よろしく~。」
解錠を押して画面が閉じると、数分後には部屋の鍵の開く音が聞こえる。
「ただいま。」
「おかえりなさい。」
影子さんは玄関に手をついて靴を脱ぐと、ポケットから飴を取り出して僕の手に無理矢理握らせた。これもいつものことで、初めてこれをされた時はいきなり手を掴まれたことで固まる僕に“お土産”と銘打って渡してきた。

誘拐されて一週間も経ったらルーティーン化してくると思う。
「今日もめいいっぱい楽しいことした?」
「……やることがない部屋で何をしたら……。」
「ボードゲームできるものあるでしょ?」
確かにジェンガとかトランプとかはあるけど……。
「一人でやるゲームじゃないですよね?」
「あれ?やっぱり?」
影子さんは抜けているのか、わざとなのかが全く分からない。
そもそも普段学校に通ってるだけの時間を何もすることがないのに毎日のように規則正しい生活を送らされているこの現状に突っ込みたい。
突っ込んだところで躱されるのが分かりきってるんだけど。
「今日は和食にするね~。」
「お願いします。」

そんな日の夜だった。

僕は布団の中でもぞもぞと体をよじらせた。
それでも耐えかねて体を起こすと背筋がぶるっと冷たくなる。
「駄目だ、やっぱりトイレ行こう。」
恐る恐る部屋の扉を開けると、リビングは薄暗い光が橙色に部屋を照らしていて、足元に心配はなさそうだった。
僕は物音を立てないように恐る恐る部屋を出てトイレに駆け込んだ。

いや、お化けが怖いってわけではない、決して。
ただ、あのいかにも天真爛漫を絵にかいたような影子さんが、唯一課してきたルールを破るのが何となく申し訳ない。
とは言え尿意を我慢するのはあまりに苦行だし、これで怒られるのであれば仕方ない。

用を済ませると自動で流れる機能の付いたこれまたハイテクなトイレに背を向けてドアノブに手をかけた時だった。
コン……コン……
控えめなノック音が間を空けて2回聞こえた。

まずい、怒られる。
僕が気まずさもありつつ、恐る恐る返答した。
「入ってます。」
「……誰?」
「は?」
誰……って……影子さん寝ぼけてるのか……?
「私の部屋で何してるの?」
「何って……トイレ借りてます。」
「」
「あ、使いますか?」
僕が慌てて用を流して扉を開けると、そこには箒の毛先を向けた影子がいた。

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