最強職は勇者?いいえ、武器職人です

てるてる

1章 王国編 7話 鬼畜教官とみんなの変化

「グハッ!」

大柄な男が地面に叩きつけられ、砂埃がまう。

「どうした、そんなものか?」

赤髪の女性─

エルシャール王国近衛騎士団団長のエリティアが
煽る様に問いかける。

場所は訓練場中央。俺が刀を作った日の
訓練である。この日は騎士団長との
スキルを使った模擬戦だった。

倒れていた男─闘士の職を持つ岩城剛が跳ね起き、

「こっからが本番だ!」

と、叫ぶ。直後、岩城から発せられる圧が増加。

見ている全員が息を詰める。

圧の上昇に伴い岩城の体が陽炎の様に揺れる。

岩城の体を紅い燐光が覆っていき、

ドンッ

地面が爆ぜ、岩城の姿が紅い尾を引いて消える。

一斉に騎士団長の身を案じ、クラスメイトが視線を
向ける。そこには

気絶したのか白目を剥いて倒れる岩城と、
服の右足の裾が破れた騎士団長の姿があった。

その後、ローテーション通りに騎士団長との
模擬戦が進められていった。

俺達は勇者だ。この世界のトップレベルの
ステータスを持ってこちらの世界に来た。

当然耐久力も半端なものではない。

が、その異常な耐久力もエリティアという

一人の騎士には無いに等しいかの如く。

模擬戦を行った18人中17人が一撃で意識を刈られた。

今、唯一瀕死で耐えた明良の体を空色の魔力が
包んでいく。

スキル 限界突破と逆境によって能力値を人外の領域に放り込んだのだ。
参考までに、明良のステータスはこうだ。
アカツキ アキラ  lv 1
職業  勇者

HP   2365/2365
MP  1781/1781

攻撃力   2132
防御力   2260
敏捷      1899
魔法攻撃 1695
魔法防御 1723

スキル 限界突破   逆境  剣術 3  聖剣技 2  聖魔法 1
見切り 4  カリスマ 2  言語理解 聖剣召喚  天性の勘

素がこれの明良が限界突破によって能力値が
2倍化、さらに、逆境によって攻撃力と敏捷が
8000オーバーまで跳ね上がる。 

その状態の明良はまさに暴力の化身だった。
ただそこにいるだけで大型台風の様な暴風を生み、
訓練場内の地形を大きく変化させた。

明良の立つ場所が突然陥没し、一条の閃光と共に
今までに聞いたことの無い轟音と、
骨が折れる音を響かせた。


そして──




明良が、崩れ落ちた。


クラス内最高のステータスをもつ勇者を
いとも簡単に気絶させる騎士団長エリティアは
俺以外の近接職全員の恐怖の対象になった。

ん?俺は見てただけで気絶させられてないから
大丈夫なんだ。

その後は昨日と同じように?終わり、各自解散、
後に夕食を楽しみ、みんな、床に着いた。

おそらく俺以外は。俺は今日の模擬戦の
結果から、不可解な事があった。

そう、エリティアである。

魔族領付近の村や街では小競り合いが
頻発しているはずだ。そこでは当然、少ないかも
しれないが被害がでているはずだ。

自国民が被害を受けているのに知らん顔で
俺たちの訓練を優先する...。

本気の勇者を余裕で制するような化け物騎士団長

一人を差し向ければ簡単に被害を無くせ、
軍を率いていけば簡単に魔族領中腹まで
制圧できるんじゃないのか?

それとも、魔族領とはそんなに攻略難易度が
高いのか?
いや、それなら...

1人で悶々と考える。夜はすでに明けはじめている。

最終的に保留とし、4日目を迎えた。

この日はいつも武器の変型などに費やしている
時間を全て情報収集につぎ込んだ。

そして、夜を迎え、考察タイムが始まる。
集めた情報では、1度人間は魔族領に攻め入り、
大成果をあげていることがわかった。

ただ、その時は他の三大陸の王家の力を借りた
こともわかってしまった。
現状、四大陸全てに魔王と思しき存在が確認され、
救援要請をしても請けてくれることはないだろう。

「なるほど」

思わず軽く呟いてしまう。俺たちの訓練を優先する
理由がわかった。
つまり、他の王家から借りる軍の代わりに
俺達勇者を使う...と。

王宮のやつらには、俺らが単なる戦争の道具に
しか見えないのかね。少し憤りを感じた。

暗闇が開けていく。

そこから先はまったく代わり映えのない
日々だった。唯一変わったと言えばみんなの
俺への評価かな。クラスメイトからは
お荷物扱い、王宮のやつらからは既に邪険に
扱われる程だ。

そうして、ここ2ヶ月様々な虐めに対して
耐えてきた。既に仲の良かった2-4というクラスは
崩れ、絶対的な力をもつものがクラスの
トップに君臨する。

所謂クラスカーストができあがった。ほとんどの者は自分の力に溺れ、
人として堕落していた。親友の大吾もみんなだ。

俺は一人、ベッドの中で誰に見せることなく
涙を流した。

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