置いてかないで捨てないで
和太郎の章
小鳥遊和太郎(たかなしわたろう)は、妻の結(ゆい)と長男の和生(かずお)とその嫁の美代子、孫娘の紗絵と、その友人の亜美と住んでいるのだが、数泊、妻と温泉旅行に行って戻ったところ、
「ふえっ、ご、ごめんなさい……」
泣きながら荒い息で、何度も謝る小さい子供。
「大丈夫だよ。奏音(かのん)ちゃん」
「熱が出ているんだから、おばさんに甘えなさい」
和生と美代子が、ぐったりした子供に食事を食べさせている。
しかし、少し口にして、すぐ首を振る少女に困った顔をする。
「何をしとるんだ。病院に連れて行かんか!」
「あ、お父さん。お母さん。それが……」
奏音はまだ動かせない。
保護したばかりで、母親が何をするか分からない。
それに保険証がないのだと伝える。
「金などどうとでもなる」
「いえ、お父さん。この子の母親が……」
「それより、その子の病気が長引いたらいくまいが!大原の病院に電話する。お前は落ち着かせて、少しでも眠らせてあげなさい」
「あっ、はい!」
和生は答え、奏音を毛布にくるみ抱き上げあやす。
「美代子。入院の準備をしておくといい」
そう告げると、部屋の隅で様子を見ながら電話をかける。
「もしもし……ウジか?」
「どうした?ワタ」
「悪いが、今からそっちに子供一人構わないか?……小学生くらいか……息子が預かっているから事情があるんだろう。痩せ細って、高熱で食事もとれない……」
「脱水症状があるかもしれんな……すぐ来れるか?」
「大丈夫だ」
電話を切ると、
「大原の病院が構わないそうだ。すぐ行くぞ」
「じゃぁ、私は、ここで荷物を解いておきますからね。その子のお土産もあるのよ」
唯は奏音に声をかけて奥に消えていく。
奏音は病気で心細く、その上初対面の見知らぬ人に会うのは怖いだろうと言うのと、下がったのと家に一人でも残っておいたほうがいいだろうと言う長年の経験が働く。
ちなみに、紗絵と亜美は大学と専門学校である。
二人も奏音を気にかけつつ出て行った。
美代子が車を回すと助手席は和太郎、後部座席に和生が奏音を寝かしつけている。
こう言う場合は、膝枕より抱き上げた方がいい。
車はある程度揺れる。
特に座席に寝かせると、揺れが直接来て吐くこともあるのだ。
しばらく走らせ、大病院に入ると、その入り口に白衣を着た老齢の男が立っている。
寝台と二人の看護師が控えている。
「よく来た。えーと、美代子はん、その駐車場に車止めて」
「はい」
降りた後、奏音を寝台に横たえるとそのまま診察室に連れて行こうとするが、
「嫌ぁ!怖い!」
「大丈夫だよ。おじさんがいるからね」
「うあぁぁん!」
「大丈夫ですよ。お父さんとお母さん、側にいますよ。いてあげてくださいね」
看護師の言葉に、二人は奏音の手を握り、背中をさする。
「奏音ちゃん。大丈夫よ」
運んでいくその後ろを和太郎と大原はついていく。
「名前は?」
「確か村上やったかな……わしのあのボロアパートの家賃を4ヶ月も滞納して、電気水道ガスも止められとるのに、夜にフラフラ遊び歩いとる若い娘がおる。その娘やと思う」
「はぁぁ?どないして生活しとったんや?その女子はかまん、あの嬢は!」
「毎晩和生のコンビニに来て、おにぎりとお茶を口にしとったらしい。朝は食べずに学校の給食やな。服も洗濯できん……そりゃ、洗濯機は回らんし、どこかのコインランドリーに一人では大変や。お金もかかる。母親が連絡を閉ざすから引き取ったらしい」
「……保険証はないな……まぁ、福祉課に相談するか」
ブツブツ呟く。
「悪いのぉ」
「何を言う。虐待の可能性のある子供を保護した、それだけでもあては安心や。多分、過労と脱水症状と風邪やな。まぁ、これから診る。しばらく入院や」
寝台を追うように大原は診察室に入っていった。
「大丈夫や。泣かんでもかまんのや……」
寝台でしゃくりあげる奏音の頭を撫で、
「嬢はお名前と年は言えるかな?先生は大原言うんや」
「……か、奏音……9歳です。小学校4年生です……」
小声で、それでも答えた少女に、にっこり笑うと、
「おぉ、賢い子や。じゃぁ、奏音嬢や。先生が今、嬢がどこが悪いのか診るさかいに、パジャマを看護師のお姉ちゃんにつくろがせて貰おうな?お父さんとお母さんは側におる。でも、心臓の音とか確認するからちょっとだけな?」
「ふえぇ……見せたら怒られる……」
「大丈夫や」
パジャマをくつろげ、和生と美代子は絶句する。
奏音の傷の数の多さに。
しかも、完治していない火傷痕や殴られた跡が散っているのだ。
「奏音嬢。ちょっとかまんかの?」
青あざを押すと顔をしかめる。
「あぁ、痛かったか。悪かった。これは湿布で痛みを取ろうか。そして、ここの跡は薬を塗ろう。その前に悪いが、先生が治療の時にどこをどう治療したか治った後も分かるように、写真を撮らせてもらえんか?」
「大丈夫だよ。先生は優しいからね」
和生は微笑む。
そして、全身の写真を撮ると、火傷と殴打痕などを治療しつつ、脱水症状もある為、即点滴に数種類の薬を入れる。
注射液も、点滴で身体に流し込むのである。
治療の間に、美代子が買ってきた脱水症状を楽にする経口補水液を飲ませると、うとうとし始めた。
「よしよし。ええ子や」
声をかけつつ、
「……和生。よう、保護した。これ以上やったらこの子は命がなかったかも知れん」
「先生。この子は……」
「今は、かなり弱っとる。しばらく入院してその後、健康診断……MRIなどをしておいてもええやろ……」
「お、お金……」
「あてのポケットマネーから出すわ。その間に、役所やな」
大原は特別室に入院を指示し、看護師も口の固い信用できるものを数人選ぶ。
「ほな、美代子はんは嬢を、和生は入院手続きを頼むわ。なーに、簡単に保護者は和生と書いといたらえぇ」
「じゃぁ、わしは、一回帰ろう。後で、紗絵が来るやろう」
和太郎は車を運転して帰っていった。
「ふえっ、ご、ごめんなさい……」
泣きながら荒い息で、何度も謝る小さい子供。
「大丈夫だよ。奏音(かのん)ちゃん」
「熱が出ているんだから、おばさんに甘えなさい」
和生と美代子が、ぐったりした子供に食事を食べさせている。
しかし、少し口にして、すぐ首を振る少女に困った顔をする。
「何をしとるんだ。病院に連れて行かんか!」
「あ、お父さん。お母さん。それが……」
奏音はまだ動かせない。
保護したばかりで、母親が何をするか分からない。
それに保険証がないのだと伝える。
「金などどうとでもなる」
「いえ、お父さん。この子の母親が……」
「それより、その子の病気が長引いたらいくまいが!大原の病院に電話する。お前は落ち着かせて、少しでも眠らせてあげなさい」
「あっ、はい!」
和生は答え、奏音を毛布にくるみ抱き上げあやす。
「美代子。入院の準備をしておくといい」
そう告げると、部屋の隅で様子を見ながら電話をかける。
「もしもし……ウジか?」
「どうした?ワタ」
「悪いが、今からそっちに子供一人構わないか?……小学生くらいか……息子が預かっているから事情があるんだろう。痩せ細って、高熱で食事もとれない……」
「脱水症状があるかもしれんな……すぐ来れるか?」
「大丈夫だ」
電話を切ると、
「大原の病院が構わないそうだ。すぐ行くぞ」
「じゃぁ、私は、ここで荷物を解いておきますからね。その子のお土産もあるのよ」
唯は奏音に声をかけて奥に消えていく。
奏音は病気で心細く、その上初対面の見知らぬ人に会うのは怖いだろうと言うのと、下がったのと家に一人でも残っておいたほうがいいだろうと言う長年の経験が働く。
ちなみに、紗絵と亜美は大学と専門学校である。
二人も奏音を気にかけつつ出て行った。
美代子が車を回すと助手席は和太郎、後部座席に和生が奏音を寝かしつけている。
こう言う場合は、膝枕より抱き上げた方がいい。
車はある程度揺れる。
特に座席に寝かせると、揺れが直接来て吐くこともあるのだ。
しばらく走らせ、大病院に入ると、その入り口に白衣を着た老齢の男が立っている。
寝台と二人の看護師が控えている。
「よく来た。えーと、美代子はん、その駐車場に車止めて」
「はい」
降りた後、奏音を寝台に横たえるとそのまま診察室に連れて行こうとするが、
「嫌ぁ!怖い!」
「大丈夫だよ。おじさんがいるからね」
「うあぁぁん!」
「大丈夫ですよ。お父さんとお母さん、側にいますよ。いてあげてくださいね」
看護師の言葉に、二人は奏音の手を握り、背中をさする。
「奏音ちゃん。大丈夫よ」
運んでいくその後ろを和太郎と大原はついていく。
「名前は?」
「確か村上やったかな……わしのあのボロアパートの家賃を4ヶ月も滞納して、電気水道ガスも止められとるのに、夜にフラフラ遊び歩いとる若い娘がおる。その娘やと思う」
「はぁぁ?どないして生活しとったんや?その女子はかまん、あの嬢は!」
「毎晩和生のコンビニに来て、おにぎりとお茶を口にしとったらしい。朝は食べずに学校の給食やな。服も洗濯できん……そりゃ、洗濯機は回らんし、どこかのコインランドリーに一人では大変や。お金もかかる。母親が連絡を閉ざすから引き取ったらしい」
「……保険証はないな……まぁ、福祉課に相談するか」
ブツブツ呟く。
「悪いのぉ」
「何を言う。虐待の可能性のある子供を保護した、それだけでもあては安心や。多分、過労と脱水症状と風邪やな。まぁ、これから診る。しばらく入院や」
寝台を追うように大原は診察室に入っていった。
「大丈夫や。泣かんでもかまんのや……」
寝台でしゃくりあげる奏音の頭を撫で、
「嬢はお名前と年は言えるかな?先生は大原言うんや」
「……か、奏音……9歳です。小学校4年生です……」
小声で、それでも答えた少女に、にっこり笑うと、
「おぉ、賢い子や。じゃぁ、奏音嬢や。先生が今、嬢がどこが悪いのか診るさかいに、パジャマを看護師のお姉ちゃんにつくろがせて貰おうな?お父さんとお母さんは側におる。でも、心臓の音とか確認するからちょっとだけな?」
「ふえぇ……見せたら怒られる……」
「大丈夫や」
パジャマをくつろげ、和生と美代子は絶句する。
奏音の傷の数の多さに。
しかも、完治していない火傷痕や殴られた跡が散っているのだ。
「奏音嬢。ちょっとかまんかの?」
青あざを押すと顔をしかめる。
「あぁ、痛かったか。悪かった。これは湿布で痛みを取ろうか。そして、ここの跡は薬を塗ろう。その前に悪いが、先生が治療の時にどこをどう治療したか治った後も分かるように、写真を撮らせてもらえんか?」
「大丈夫だよ。先生は優しいからね」
和生は微笑む。
そして、全身の写真を撮ると、火傷と殴打痕などを治療しつつ、脱水症状もある為、即点滴に数種類の薬を入れる。
注射液も、点滴で身体に流し込むのである。
治療の間に、美代子が買ってきた脱水症状を楽にする経口補水液を飲ませると、うとうとし始めた。
「よしよし。ええ子や」
声をかけつつ、
「……和生。よう、保護した。これ以上やったらこの子は命がなかったかも知れん」
「先生。この子は……」
「今は、かなり弱っとる。しばらく入院してその後、健康診断……MRIなどをしておいてもええやろ……」
「お、お金……」
「あてのポケットマネーから出すわ。その間に、役所やな」
大原は特別室に入院を指示し、看護師も口の固い信用できるものを数人選ぶ。
「ほな、美代子はんは嬢を、和生は入院手続きを頼むわ。なーに、簡単に保護者は和生と書いといたらえぇ」
「じゃぁ、わしは、一回帰ろう。後で、紗絵が来るやろう」
和太郎は車を運転して帰っていった。
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