置いてかないで捨てないで

ノベルバユーザー173744

大家の奥さんの章

 奏音が家に帰ると、家の前で大家さんの奥さんが立っていた。

「奏音ちゃん?お母さんは?」
「えっ……お仕事に行きました」
「……はぁぁ……もう4ヶ月も家賃滞納しているんだよ。お母さんに言ってくれないかい?」
「……た、叩かれる……ので」

 小声で告げ、うなだれる。
 そして、ハッとして家に入ると、貯金箱を持ってきて差し出す。

「こ、これ、お渡しします。私の貯めたお金で……」
「それは貰えないよ。それに、部屋に入るよ、おいで」

 奏音の家に入ると、懐中電灯で中を見回し、奏音がお風呂場に溜め込んでいた洗濯物を、奥さんが大きな袋に詰めて、

「奏音ちゃんは教科書とか筆記用具に、大事なものをまとめるんだよ」

ランドセルに勉強道具を荷物を詰め、そしてぬいぐるみと貯金箱をバッグに入れ家を出ると、大家の奥さんが持っていた鍵で閉められ、新聞受けに封筒が入れられる。

「今日から家にしばらく住みなさい。家は旦那と店のバイトの子が3人いるからね。お父さんが民生委員だし、役所の方にも伝えておくから」

 車の中で、話してくれた大家の奥さん、美代子は言った。

「それにね、お母さんは良いけど、あんた……奏音ちゃんにはあの生活は辛いよ。本当はもっと早くと思っていたけど、行政とか教育委員会、学校……面倒だねぇ……おじいちゃんと最後は旦那が乗り込んでいったよ。大丈夫だからね。学校も休んでいいよ」
「お、大家の奥さん……ごめんなさい。あの、お手伝いします」

 小さい頃、何度か親に置き去りにされていたので俯き、両手を握る。

「何を言ってんだか。しばらく遊んでればいいさ」



 アパートはもう建て替える時期と旦那の父や旦那も賛成していたが、他の家は何とか一人暮らしや学生さんもあり意見を聞けたのだが、村上家は幼い奏音を置いて母親は夜に出て行き朝に戻り、出てこようとしない。
 それよりも、電話やガス、水道を止められ、暗い中一人きりの幼い奏音が可哀想で……。

 家に着くと運転席のドアを開け、

「奏音ちゃん。おいで」
「は、はい!」
「荷物は後で取りにくるからね。まずはお風呂に入りなさい」

玄関を開けると、

「亜美ちゃん!それに紗絵(さえ)!」
「お帰りなさい、奥さん!と、あっ……」
「こ、こんばんは……」

薄汚れた少女……コンビニに来る少女である。

「亜美ちゃん。紗絵。この子は村上奏音ちゃん。うちのアパートに住んでるんだけど、お母さんがね……連れて帰ったんだよ。どちらかお風呂に入れてあげて。着替えは紗絵の昔の服があるでしょう」

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