リインカーネーション・ストーリー

デモリッシュ

リインカーネーション・ストーリー 2

 
  プロローグ

1988 某日 


「「ただいま~っ!」」
「あら、おかえりなさい、隼人、千秋」
「おかえり、お?、魚を捕ってきたのか?」

 ここは僕の家だ、2階建てのアパートでコンクリートでできている、その1階に僕たちは住んでいる。
 扉を開けると玄関があり、短めの廊下の途中右手にはトイレがあり、その反対側にはお風呂場がある。お風呂場行く手前の隅には洗濯機がおいてある。
 そのまま廊下を進んでいくとリビング兼キッチンがあり、その奥には二手に分かれるように2つの畳の部屋がある。部屋と部屋同士はふすまで遮られているので、それを開ければ部屋同士で行き交うことも可能だ。部屋の広さは2つとも6畳くらいだと思う、正確に測ったことはないからわからないんだ。まぁパパに聞けば分かることかもしれないけど、聞くほどのことでもないと思うし、気づいたらそれを聞くこと自体を忘れている

「見て見ておとうさんっ大量だよ!」
「おぉ~結構捕ったなぁ、大変だっただろう千秋」

 パパは千秋の頭をねぎらうように撫でている

「えへへぇ~」
「・・僕も手伝ったんだけど」
「そうだったのか、あははっそれは悪かった! ほら、隼人も撫でてやるぞ~?」

 パパが僕に近づいてきて頭をわしゃわしゃ撫でてくる。この扱いの差はなんだろう? 髪がぐしゃぐしゃになっちゃうよ

「あなた、今日は大事な話があるんでしょう?」
 
 ママはそう言いながらちあねぇから魚を受け取っている 「ありがとね」 とちあねぇにお礼を言って、それにちあねぇはうなずきながら笑顔で返している

「そうだったそうだった、ふたりとも、そこに座りなさい」

 パパは自分の椅子に座りながら二人にも椅子をすすめる。今僕たちがいるリビングには丸い机が配置されていて、その等間隔に椅子が4つ置かれている。特に決まっているわけではないんだけど、パパが座っている椅子から時計回りでパパ、ママ、僕、ちあねぇの順番でいつも座っている。昔からの習慣なので、僕もちあねぇもその順番で座った
 ちなみにママはキッチンで魚を捌いてるので椅子には座っていない

「大事な話って、どうしたのお父さん?」

 パパに問いかけるちあねぇは、同時に結んでいた髪を解き、首を振りながらファサッっと髪を下ろした。ちあねぇの髪は今日もつやつやのサラサラで、いい匂いがこっちにも漂ってきた

「実はな、今度仕事でパパは東京に行くことになったんだ」
「えぇええええっ! 東京に!? いいなぁっ・・」

 ちあねぇは大声をだして恨めしそうにパパを見ている。ちあねぇは東京に憧れを持っているんだ、いつも僕に東京の話をしてきて、「知ってる? 東京にはね、コンクリートのたっか~い建物がズラ~っと並んでいてねっ 人がたっくさんいるんだよ?、ゴミのようにいるんだって、すごいよねっ!」と、楽しそうに話す姿は容易に思い出せる

「まぁ落ち着けって千秋。それで、千秋と隼人は確か、明後日から学校が3連休だろう?」
「うん、そうだよ」

 僕は答える、休みを聞いてくるってことは、ひょっとして・・

「それでだ、パパも仕事で行くだけだともったいないし、同時に休暇もとってな? ついでに家族を連れて、東京へ2泊3日の旅行へ行くことに決めた」
「えっ!? ほんとう、おとうさんっ!?」

 ガタッ!!
 ちあねぇは椅子を蹴って立ち上がり、パパをキラキラした目で見ている。それを見たパパはサプライズが成功したことに、嬉しそうににやけていた

「千秋、はしたないでしょ、座りなさい」

 ママはちあねぇを注意するが、その顔は微笑んでいる

「はぁ~いっ」
「あはははっ、そこまで喜んでもらえるとパパも嬉しくなっちゃうなぁ、なぁ千代」
「えぇ、そうね、あなた」
「ハヤトも楽しみだよねっ! この辺じゃ絶対見れない景色が見れるんだよ、たくさんの人がうじゃうじゃいるんだよ、たくさんの車が走ってるんだよ、バスも1日に何回も走ってるんだって、すごいよねっ!」

 ・・本当に東京へ行ってみたかったのだろう、ここまでワクワクしたちあねぇは初めて見るかもしれない。僕もちょっとだけ気になる、一体どんな世界が広がっているんだろうか。

 だけど・・・・・・

「ごめん、ちあねぇ、僕は行けないよ」
「えっ!? ・・・どうして?」

 僕の返事にちあねぇは急に落ち込んでしまった、僕が行けないってだけでここまで喜怒哀楽に変化が現れるのはすごいな
 上目遣いで僕を見て言葉の続きを待っている

「僕は今年で中学1年生で、連休の二日目は星野市の伝統の祭事があるんだ」
「あっ・・・」

 それを聞いて思い出したのだろう。

 僕が住んでる星野市はこの時期になると山の方にある”八百万の神社”で神々に祈りを捧げる祭事が執り行われる。対象者は、幼稚園や保育園に入学した年の子と、小学1年生の子、中学1年生の子で星野市の人間なら必ず参加しなくてはならない。ちなみに高校生や大学生は対象外だ、ちょっとずるいとおもう
 なぜ1年生が祭事に参加しなくてはいけないのかと言うと、これからの学校生活やそのほかの災害や災難、災などの不幸から守ってもらえるように神様にお願いするのだとか。僕は神様なんて正直信じていないし、いるとも思っていない。この祭事に参加するのも面倒だし、これさえなければ東京に行くことができたかもしれないのに・・・すごく残念だ

「あぁ、そうか・・隼人はたしか今年がそうだったよな、ごめんな、気づかなくて」
「あら、私は気づいていたわよ? あなた」
「・・なんで教えてくれなかったんだ、千代」
「私達の子供の事よ? てっきり知っているのかと思ってたわ」
「ぐっ・・」

 ナチュラルにパパに精神ダメージを与えていくママ、すごい

「ごめんね、ハヤト、私も知らなかった・・。私、行くのやめるよ」
「えっ? なんでよ、あんなに楽しみにしてたじゃないか。行ってきなよ」
「ハヤトが一緒じゃなきゃ、東京に行っても楽しくないっ」
「なに、その理屈・・」
「ハヤトは私が居なくて寂しくないの?」
「・・たったの3日でしょ? 大丈夫だよ、だから行ってきなって」
「本当に? 寂しくない?」
「うん、大丈夫だよ」
「本当に本当?」
「うん、本当に本当、だから安心して」
「・・うぅ、ハヤトは私が居なくても平気なんだっ! 私はこんなにもハヤトのことを想っているのにっ!!」
「めんどうくさいねっ、ちあねぇ!」
 
 あはははっ! と笑いながら「冗談だよっ」と言ってくる、またいつものイタズラみたいだ

 ・・実は、ほんとは寂しい、すっごく寂しい、たった3日間といったけど、きっとすごく長く感じる。大好きなちあねぇと3日も会えないなんて心が引き裂かれそうだ。でもそんなことを言ってしまえば、ちあねぇはきっとここに残る。僕が寂しい、行かないで、といえば、必ず残ってくれる自信がある。でもそれじゃあ、あんなにも憧れてた東京へちあねぇは行けなくなる。だからここは我慢しなきゃいけない

「わかった、じゃあお言葉に甘えて、あさってはおとうさんとおかあさんといっしょに、東京へ行ってくるね?」
「・・うん」
「隼人、ちゃんと一人で留守番できる?」
「大丈夫だよ、ママ。そこまで子供じゃないよ」
「あっはっはっ、そうだよなぁ、隼人はもう中学生だもんなぁ、立派な大人だもんなぁ」
「・・パパは僕のことを忘れていたことを少し反省して?」
「うぐっ・・・」

 あ、僕もパパに精神ダメージを与えたかもしれない。やっぱ僕もママの子供なんだなぁと思ってしまった、僕もすごい

「はい、料理できたわよ~、千秋、並べるの手伝って頂戴」
「うんっ」

 え?、もうできたの? さっき魚を渡したばかりだよね? 何だったら今さっき捌いてたところだよね? たまに思うんだけど、僕のママって実はものすごい人なのかもしれない

「はいじゃあ、みんな席に座ついたわね? それじゃいただきます」
「「「いただきます」」」

 ママの号令で夕飯の時間が始まった





 ーーーそうして一家団欒、幸せの時間が過ぎていき、夜が更けていった・・・





 僕たちの家庭での就寝分離は、親と子で別れている。一つの部屋をパパとママが使い、もう一つは僕とちあねぇが使用している。普通の家庭だと親と一緒だとか、異性の姉弟と一緒とかだと問題があるみたいだけど、僕の家庭では特に問題という問題は起きてない。ただちょっと気になるのは、ちあねぇが部屋で服を着替えたりするとき、僕が居ても平気で裸になったりするのでそこだけは目のやり場に困る。

「東京か~、楽しみだなぁ~」

 僕の部屋には敷布団が二人分並べて敷かれていて、すぐとなりにはちあねぇが僕と一緒に横になっている

「いつも東京の話をしてたもんね」
「そうだね~、まさかこんな日が来るとは思わなかったなぁ」
「よかったね、ちあねぇ」
「うんっ」

 ちあねぇは仰向けで寝ながら旅行の日のことを考えているのだろうか、その顔はニコニコしていて、まるで遠足の前日に眠れない子供のような状態だ。ちゃんと眠ることができるのだろうか?

 そんなことを思っていると、突然ちあねぇがこちらに寝返り、僕の頬に手を添えてきた。あたたかい手だ、布団で温まってるおかげもあるかもしれないけど、多分それだけじゃない。ちあねぇの体温が少し高めなのかな?

「・・ねぇ、ハヤト。ほんとに寂しくない?」
「・・・・」

 僕は答えれなかった。まなじりを下げて、優しく微笑む顔と添えられた手のせいだろうか、さっきまでの決意がゆるぎそうになってしまう。けれど僕はそれに耐えて、一拍おいた後に・・・

「・・大丈夫だよ。さっきも言ったじゃないか」
「・・そう?」

 ちあねぇは僕をじーっと見つめてくる。静けさに包まれる、心臓の音が聞こえてしまうかもしれない

「・・ハヤト、もし、寂しくなったら・・、ちゃんと言ってね? 私はハヤトのためだったら、東京なんて簡単に諦められるよ?」

 その言葉に嘘はないだろう。僕の為になることならば、ちあねぇは自分のことを後回しにしてしまう。だからこそ、ここは耐えなければならない

「・・わかった、ちゃんと言うから、だから安心して」

 また静けさに包まれた。相変わらずちあねぇは僕を見つめてくる

「そっか。うん、わかった・・。もう言わない、ハヤトを信じる」

 そして・・・

「おやすみなさい、ハヤト・・。大好きだよ」

 そう言ってちあねぇは僕の方を向いたまま、静かに目を閉じた

「おやすみなさい、ちあねぇ・・・」





ーーーこうして一日が幕を閉じた






 ーーーここはとある山の中、隼人たちが水遊びをしてた山とは隣同士で存在するもう一つの山で、人の手が全く加えられていないのが特徴的だ。
 故にここは緑が鬱蒼と茂り、様々な自然の生き物が行き交い、道なき道がはてしなく続いている
 地元民ならいざしらず、一般の人間が入り込んでしまったのならば、まず間違いなく迷うであろう
 太陽もすでに落ちて月の光が照らす中、暗い山の森の中を一人の女性が歩いていた

「ハァ・・ハァ・・」

 おぼつかない足取りで獣道を歩く彼女は、このへんでは珍しいきれいな白銀色の髪をしている。しかし、余程長い間、山の中で過ごしたのだろう。白銀色の髪は泥にまみれ、しっかりケアをしていれば光をも反射するほどであっただろうそれは、とても傷んでいた

「まずいですね・・・このままでは・・」

 空色を基調とした袴を着ており、着物の部分は精緻な花柄の刺繍が施され、袴のスカートの部分は膝より少し上の丈で水色をベースに桜色のグラデーション薄くかかっており、桜が散っているような刺繍が施されている。さらに腰には大きなリボンが付いていて、たれの長さは、脚のふくらはぎ辺りまで伸びている。その下には、黒色の革製のような膝丈のブーツを履いており、スカートとブーツの間に覗く脚の部分は薄めの生地の白いタイツに包まれている
 そして純白のウェディングドレスのようなレースが使われたケープドレスを白衣の上から羽織り、頭の上には蝶と花があしらわれたシルバーのヘッドアクセサリが乗っている

「ハァ・・ハァ・・、くっ・・」
 
 しかしそんな華やかな衣装達も、彼女と旅をともにするうちに汚れてしまい、彼女同様に傷んでしまっている

「だれか・・・」

 彼女はひどく弱り、疲れ果てていて、雪の妖精のような肌はみずみずしさを失い、特徴的な金色の瞳は光を失い陰っていた

「だれか、助けて・・」

 この山の出口を目指して今まで歩いてきたのだろう、しかし、彼女の体力はついに底をつき・・・

 ーーーバタッ・・

 アオハズクの鳴き声が響き渡る夜の森の中で、糸が切れた人形のように、地面に倒れこんだ



 




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