リインカーネーション・ストーリー

デモリッシュ

リインカーネーション・ストーリー 1






ーーー「あなたに恩返しができることを、私はとても、嬉しく思います。ハルじい・・」






 プロローグ

1988 某日


「ちあねぇ!まってよっ!!」
「あははっ、ほら、ハヤト、はやくはやくっ!」

 ここは、とある田舎の自然が豊かな場所で、今日は川に水遊びに来ていた。緑が生い茂っていて、木々の隙間から太陽の木漏れ日がのぞいている。水は澄んでいて魚も泳いでいるほどきれいな水だ。

「くらえハヤト、えいっ」

 パシャッ

「うわっ、つめてっ!」

 水を掛けられた・・・

 僕は酒井隼人だ。今年で中学1年生で、近くの中学校に入学してからやっと落ち着いて来た今日この頃だ。
 そして・・・

「あははっ、冷たくて気持ちいねぇ~!、最近暑くなってきたし、ちょうどいい塩梅だよ!」

 パシャッ

「・・うぶっ、言いながらかけないでって!」

 僕に水を掛けてくるこの子は僕のお姉ちゃんの酒井千秋だ。天真爛漫というか、明るい女の子ではある。ちょっとしたイタズラをしてきたりはするが、僕にとても優しくて、大好きなお姉ちゃんだ。

「ふふ、ごめんごめん。だからすねないで、私のかわいいかわいい弟のハヤトくんよ」

 そう言いながら僕に近づいてきて、僕の目にかかっていた濡れた髪を、手で優しくかき分けてくれる

「全く、調子いいんだから・・」

 ちょっと照れつつもお姉ちゃんの千秋を見る
 ちあねぇは僕の2つ上だ。サラサラな黒髪をポニーテールに結んでいる。普段は肩より下くらいの長さの髪を下ろしているけど、今は水遊びに来ているから結んでいるんだと思う。特に特徴のない白の半袖Tシャツに、茶色の半ズボンをはいてるけど、水に濡れたシャツが肌に張り付いていて、女性らしい体のラインがはっきりしている。上の膨らみは、成長途中のようで大きくはないが、ちいさくもない。

「・・って、ノーブラかよっ!!」
「え、なに? 姉の体を見て興奮してるのかな? ちなみに今は下も履いてなかったりするかも?」
「そんなこと聞いてないってばっ!」

 あははっ! と笑いながら、ちあねぇは透き通った真珠のような藍色の瞳で優しくほほえみかけてくる。
 ちなみに”ちあねぇ”とは僕が昔から呼んでいる愛称だ。物心がついた時からそう呼んでいたので、それが今でも続いている

「別にいいじゃない、兄弟なんだし~」
「よくないでしょっ、ちゃんと履いてきてよ!」
「大丈夫だって、普段はちゃんと履いてるし、つけてるから」
「いや、そういう問題じゃないでしょ・・!」

 ハァ・・・と嘆息をひとつ。別にちあねぇが痴女って訳じゃない、ただ濡れるから、「今日はつけなくていいや」みたいな短絡的な考えなんだと思う

「気をつけなよ、変なやつが襲いかかるかもしれないよ」
「え~、私なんかに襲いかかる人なんているの? 別にそんなルックスいい方だとは思わないんだけどなぁ」
「いや、意外とちあねぇのファンは学校にちらほらいるよ?、贔屓目に見て僕から見ても、ちあねぇは可愛いと思うよ、・・少しだけっ!」
「えへへ、ありがとっ、気をつけるよ。でもハヤトなら襲ってきてもいいんだよ?」
「馬鹿でしょ、ちあねぇ・・」
「ひどいっ!」

 そんな会話をしながら石垣に座り、川に足をつけて一緒に涼んでいる、ちなみに僕とちあねぇは同じ学校だ。僕が1年生でちあねぇが3年生、ちあねぇのファンと言うのは1年生にも僅かにいるが、やはり多いのは2~3年生だ。それも当然か、こんなに笑顔が素敵で、別け隔てなく振りまけるんだ、ちあねぇの周りには自然と人が集まるんだろう
 そうして、水の流れる音を聞きながら穏やかな時間が過ぎていく

「ねぇ、僕もう帰っていい? 家でゲームしたいんだけど」
「だめだよ、ゲームばっかりしてないで、たまには外に出て体を動かしたり、自然の空気を吸わなきゃ」
「僕、一応学校ではスポーツ系の部活なんだけど」
「私は文化系の部活だけど?」
「そうじゃなくて、学校で運動してるから、こうして外に出なくても平気だと思うんだけど」
「私は学校で運動してないから、こうして外に出る必要があると思うんだけど」
「じゃあ一人で体動かしに来ればいいじゃんか」
「やだよ、ハヤトが一緒じゃないと寂しいじゃんっ」
「なんでだよ!」
「なんでもっ!」

 語彙力がないというのは、多分この事を言うんだと思う

「もう・・。ちあねぇ、意外に人気があるんだから、さっさと彼氏でも作って一緒にここへ来ればいいんじゃない?」
「さっきも言ってたけど意外って言葉、地味にショックだねっ! ・・ならハヤトが私の彼氏になってよ~」
「僕たち兄弟じゃん、大丈夫?」
「大丈夫だよ?」
「全然大丈夫じゃないよね?」

 このように、僕のお姉ちゃんは結構・・いや、かなりブラコンを拗らせている。それこそ義理の関係であったなら将来結婚を迫られていたかもしれない。僕も悪い気はしないけど、やっぱり兄弟だし、それはできないよね。

「・・でも、そうだね、そろそろ夕暮れ時になるし、帰ろっか」
「うん、そうだよ、かえろう」
「でもその前に、ここの魚を少しとっていこう、今晩は魚にしよっか!」
「うへぇ、僕、魚はにがてだなぁ」
「あははっ、魚は体にとってもいいんだよ、しっかり摂らなきゃだめだぞっ」

 そうこう言いながら、僕とちあねぇ二人で魚を数匹捕っていく。ちあねぇはどうやらこのことも予期していたようで、ビニール袋を何枚か持ってきていたみたいだ。遊びに来ただけと思っていたけど、魚を捕る為の理由でもあったみたいだ。ちあねぇは抜け目がないな。
 ちなみに複数袋を持ってきた理由は多分、袋を重ねて魚の重みで破れないようにするためだと思う

「これくらいで十分かな?、それじゃあ帰ろうか~」
「やっと家でゲームができる~」
 
 なんて言いながら二人は帰路についた。重ねた袋に捕ったばかりの魚を入れて、その袋はちあねぇが持ってくれている。この川の場所は山の中にあり、山の入り口から50メートルほどの坂を登って十字路に着くと、左手の方に暫く歩いたところにある。帰るにはまずその坂を下らなければならない。また、この他にも山の中には十字路をまっすぐ進んだところには神社、右手に進んだところには民家や民宿などが建っている場所があり、まれにそこの住人とすれ違ったりもする。
 そうして坂を下りきった所に、件の住人さんとすれ違った。その住人は車輪の着いた椅子のようなものに座っていた

「車椅子に乗ってるね」
「うん、そうだね。」

 僕の問いかけにちあねぇは返事をする
 車椅子に乗っている人は年の頃は大体70過ぎくらいだろうか、車椅子の車輪の外側についているリングに手をかけて、坂の上を漕いでいく。時間はかかるだろうけど、あの感じなら放っておいても時期に登りきるだろう

「ハヤト、ちょっとコレ持っててくれる?」

 そう言って僕に魚の入った袋を渡してきた

「どうしたの?」
「車椅子のおじいちゃんを手伝ってあげるんだよ」
「でもあのおじいちゃん、ちゃんと自分で登れてるよ? 放っておけばいいじゃん」
「大変そうじゃない、別に減るものでもないし、ちょっと押してくるから待っててっ」
「あ、ちあねぇっ!」

 そうして坂を少し登った所にいるおじいちゃんのもとへ駆けていった

「おじいちゃん、大丈夫? 後ろから押すね?」
「あぁ、ありがとうねぇお嬢ちゃん、助かるよ」

 車椅子の後部に付いているグリップに手をかけて、たった今下ったばかりの坂を登っていくちあねぇ。暫くして坂の頂上でおじいちゃんとちあねぇが会釈したあと、坂の上からちあねぇが走って戻ってきた。

「ごめんねっハヤト、おまたせっ!」

 そう言って僕の手から魚の入った袋を自然な感じに持ってくれる

「それじゃあ、帰ろっか!」

 そう言ってちあねぁは歩きだした

「・・なんでわざわざ見ず知らずの他人を助けるの? 関係ない人だよね?」
「そうだねぇ~なんでだろうね。・・でもなんとなく思うことがあるんだ」
「思うこと?」
「うん、こういういい事をしていると、どこかで神様は見てくれていて、その行動を見た神様はきっと、別の形で祝福を送ってくれるんだって」
「神様なんているの? 僕はそんなの存在しないと思うけどなぁ」
「あははっ! そうだね、目に見えないものはなかなか信じられないものだよね。でもこういうのは、やっぱりこう・・・」
「・・こう?」
「こう・・、そう、気持ちだよっ!!」

 そう言って両腕を羽のように大きく広げてドヤ顔をしてくる。しかし魚の袋持ってる右手は肩より若干下くらいに下がっており、プルプルしていた

「・・つまり、なにも考えてないってことだよね?」
「そ、そんなことないもんっ、きっと素敵な出来事がこの先起きたりするはずだもんっ」
「ホントかなぁ~?」
「ホントだもんっ!」

 と、そんなとりとめのないような会話をしながら僕は思う。神様云々の話はさておき、ちあねぇのこの生き方には子供ながらに尊敬している。一見簡単そうに見えても、なかなか実行できるものではないというのも理解している。学校でもちあねぇは困った人を見かけたら助けに行っている。この前は重い荷物を大変そうに運んでいた女の子がいて、その荷物を自ら進んで半分持ってあげたり、足を痛めてしまった男の子をおんぶして保健室に連れて行ったりと、文化系の人間にしてはなかなか行動力が高い事をしている
 勉強もそれなりにできるほうで、わからない人がいたら教えてあげたりもしていたっけ。
 そんな自慢のおねえちゃんを見ながら、僕は声をかけた

「・・ところでそれ、疲れないの?」
「うん、すっごいつかれる・・」
 
 そう言ってちあねぇは腕を下ろしたーーー


 あれから数分歩いたあと、山の緑や木々から遠くなり、河川敷の道にやってきた。
 隣に道路があって、僕たちが歩いている歩道と挟むように、逆の隣には1,7メートルほどの高さのコンクリートの壁がある。この壁は成人男性ほどの厚さがあり、その向こうにはコンクリートでできた急な斜面と、その10メートル程下には山から続いている底が深い川が流れていた。
 夕焼けが顔を覗いており、一日の最後を締めくくらんと世界をオレンジ色に染めている。そんな中、高い壁が作った日陰の道で僕たちは帰路の続きを進んでいた

「ちあねぇ、そのふくろ、重くない? 僕が持とうか?」
「ううん、大丈夫だよっ」

 ニカッと笑い、答えてくれるちあねぇ。なんだか過保護な気がする、さっきの坂の時も自然な感じで僕から袋を持ってくれるし、そんなに僕は頼りないのだろうか?

「いいって、僕が持つよ。絶対大変でしょ? さっきだって腕がプルプルしてたし・・」
「あ、あれは、あんな持ち方したら誰だってプルプルするでしょ~っ!」
「僕ならあんな持ち方でもプルプルしないよ?」
「ホントかなぁ~?」

 ほ、本当だよ、本当。多分持てるよ、だからそんなジト目で僕を見ないで

「・・わかった、はいハヤト、これお願いね?」
「うん。まかせて」

 ちあねぇから魚の入った袋を受け取る。さっきもった時も思ったけど、これ、そこそこ重いんだよね。長時間持っていたらきっと、手にビニールの細い跡が残るかもしれない程度には重いと思う。手が空いたちあねぇは、右手を自分の背中に回し、下に伸ばした左腕の肘あたりを持つような状態で僕の隣を同じ速度で歩いている。歩くたびに揺れるポニーテールはなんだか可愛らしい

「ハヤトは優しいね」

 唐突にそんな事を言ってきた

「え?、なんで?」
「だって、私からそうやって重い荷物を持とうとしてくれたりするじゃん」
「別にこれは優しいとかそんなんじゃなくて、普通だと思うけど」
「そうかな?、さっきのおじいちゃんの時も、放っておけばいいって言ったのは、私が車椅子を押して坂を登ると大変だと思ったから、そう言ったんじゃない?」
「考えすぎだよ、そこまで深い意味なんてないよ」
「そう?」

 そうだよ、だって赤の他人を助けた所で何かが帰ってくる訳でもないじゃないか。誰が好き好んでそんな面倒な事をするのか・・・って、ここにいたよ・・

「ふふ、でもやっぱりハヤトは優しいよ。ハヤトが気づいていないだけで根の部分はきっと、人のことを思いやることができる優しさをもっている」
「そんな事ないでしょ、僕のことは僕が一番良く知っている」
「もうっ。素直じゃないんだから」
「ほんとのことだし」
 
 そう答えるとちあねぇはプンプンとおこり、「ちょっとは私にあわせてよ~っ!」と、あ~でもないこ~でもないとお小言の嵐がやってきた。僕は半ばそれを聞き流しながら先程のちあねぇの言葉を反芻していた
(僕は僕が知らないだけで、根は優しい・・のかな?)
 正直良くわからないが、もしそんな優しさの一面があるとするならば・・・
(それはきっと、ちあねぇがいるからだよ)
 だってこんなに素敵なおねえちゃんが直ぐ側にいるんだ、影響されないわけがないじゃないか

「・・・ハヤト?、ちゃんと聞いてる?」
「え? ・・あ、ちゃんと聞いてるよ、・・うん、バッチリ」
「全然聞いてないじゃないっ! もぉ~!」

 ちあねぇは話を聞き流していた僕に対して「む~っ!」っと少し不機嫌な顔を向けてくる
 そのまま僕に近づいてきて

「ハヤト、両腕を上げて」
「え? こう?」
 
 僕は言われるがまま腕を真っ直ぐ真上に上げた、重力に引っ張られた魚の袋は少しぶらぶらと揺れている

「・・違う~、こうやって腕を伸ばしてっ」

 そういってちあねぇはさっきの羽を広げるようなポーズをした、ああそういうことね

「こう?」

 それを真似して僕はちあねぇと同じようなポーズをとった。あ、やばい、袋を持ってる方の腕がプルプルしてきた・・・

「あ~っ! 腕がプルプルしてる~! ハヤト、私にうそついたな~、おこるよ~!?」

 そんなセリフとは裏腹にちあねぇの顔はとっても楽しそうだ、いや、満足そう?

「ち、ちがうって、これはその、なんというか・・」
「言い訳は聞きたくないよっ、ほら、貸して!」

 そう言ってちあねぇは僕の手から袋をひったくり・・

「私が持ってあげるねっ!」
 
 とっても魅力的な笑顔で、僕にそういった 


ーーーそんなこんなで僕たちはしばらく後、家にたどり着いた


 

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