異世界バトスポッ!

冬野氷景

じゅうきゅうたまっ!



チャプンッ……


「うふふ、それにしてもおたまのあの顔…思い出してもまだ…ぷっ」
「ひ、酷いよ!みんなして騙すなんて!」


ザァァァァァァッ………


私達は今お城の大浴場にみんなでいる。
お城のお風呂はとてつもなく綺麗で広くて…もう言葉では言い表せないくらい!
試合で私が見た英雄様の像とか竜の滝とか魔法のシャワーとかもあって荘厳って感じ!
とにかくファンタジーなお風呂!その中でも浴場に浮かぶ大小色とりどりのシャボン玉が最高だよ!
あの子の曲線も綺麗!でもあのシャボン玉も可愛い!
儚くも一瞬の耀きを誇る水の球が次々とあふれでてくる!
うふふ、癒されるよ~。


あのプロポーズ?の後、私達は王様のはからいですぐにお風呂を勧められた。
試合でかいた汗を流すようにって!
あの球場寒かったから冷や汗以外あまりかかなかったけど。
今日はこの後、親睦を兼ねた食事会があって…その後はみんなでお城にお泊まり!
やっぱり試合の後はこうやってチームメイトと交流するのが最高だよね!
地球ではほとんど助っ人だったからあまりした事なかったけど。


チャプッ……


「お、おたまさん……今まで気付きませんでしたけど凄い……試合中は何か巻いてたんですか……?」
「み、見ちゃだめだよ!試合中は邪魔だから包帯をギュッてしてるよ!」
「あら、本当。わたくしよりもあるんじゃないかしら…」


みんなして私の胸を見てくるよ!
ぅう…みんなに大きなボールって言われるけどこの球だけは好きじゃないよ…肩こりが酷いんだもん…。


「ぅう…にゃ~…」
「何を恥ずかしがっている、ちゃんと歩け」


ただ一人、お風呂に乗り気じゃなかったニャンちゃんがフウちゃんに引きずられるように入ってきた。
ニャンちゃんは体に巻いたバスタオルを離そうとしないで前屈みにもぞもぞしていた。
逆にフウちゃんは鍛え上げられた身体を惜し気もなく披露している、凄い男らしいよ!うっすら腹筋もあるし羨ましい!


「ニャンちゃんどうしたの?お風呂嫌いなの?」
「にゃ~…水が恐いってのもあるけどにゃ…もともと亜人には水浴び以外の文化がないにゃよ…ましてや人間と風呂に入るなんて以ての外にゃ…」


亜人って何だっけ…?
文化ならしょうがないけど…勿体ないなぁ~…。
でも試合中は服で隠れてたからわからなかったけど…腕とかに綺麗な毛並みが生え揃ってる!本物の猫さんみたい!
そうだ!試合が終わったら耳とか触らせてほしかったんだ!


ザバッ!


私は浴槽から出てニャンちゃんに飛び付いた!


「ニャンちゃん!耳とか毛並みとか触らせて~!」
「ニャアアアアアッ!?」


さわさわ、すべすべ!


「凄い!気持ち良い~!すべすべだけどもふもふもするよ~!」
「おたま~胸!胸重いにゃ~!」
「おい、風呂であまりはしゃぐんじゃない」


フウちゃんに怒られた!
そうだよね、もう高校生なんだからしっかりしないと。


「でも…おたまさん、良かったのですか?」
「?何が?ミーちゃん」
「あの…王子様からの求婚を…その、断ったりして」


そう、私は王子様からのプロポーズを断った。
だって初めて会う人だし…そもそも私は結婚どころか彼氏をつくる暇もないんだから!


「そうよおたま、民間から王室に嫁ぐチャンスなんて滅多に無いのよ?しかも…あの王子は真面目で堅物で…今まで他国との縁談も悉く断ってきてる…軍事や政治にしか興味のない男って呼ばれてるの。でもそれ故に女性からも同性からも圧倒的な支持を受けてる、正直勿体ないわよ」
「あぁ、しかも王子が今まで気にも留めていなかったスポーツ界隈から妃を選ぶとは。何か心境に変化でもあったのだろうか?」


うーん…よくわからないけど…とにかく今私は球ちゃん以外見えないからダメだよ!
それに…私は地球に帰るつもりなんだから!
…………そうだ、みんなには別の世界から来たって事を説明した方がいいかもしれない。
私一人じゃ地球への帰り方なんかわからないもんね。


「みんな、ちょっと相談があるんだけど…聞いてくれる?」
「?どうしたのですか?急に改まって、何でも言ってください」
「…うん、ありがとう。実はね…………………」


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「「「「………………」」」」


私はこの世界に来た経緯を全て説明した。
うーん…みんな呆気にとられてるけど…でもそれはそうだよね……。
私だって地球にいたまま異世界人がもし地球に来たらすぐには事情を呑み込めないだろうし…。
でも私頭良くないからこれ以上何て説明したらいいかわかんないよ~!


「……こことは別世界……チキュウ……」


フウちゃんが口に手をあてて難しい顔して考え込む。


「うん、信じてもらえないかもしれないけど……本当なんだよ…だから」
……と、私が更に説明しようとしたらミュリお姉さんが私に近寄ってきてそっと抱きしめられた。


ギュッ……


「ど、どうしたの?ミュリお姉さん…」
「ごめんなさい、貴女にそんな事情があるなんて知らずに…わたくしはわたくし達の事情に貴女を巻き込んでしまった……本当にごめんなさい」


ポタッ……


私のおでこに水滴があたり、頬を伝う。
それが天井から垂れたものなのか、濡れたミュリお姉さんの髪から垂れたものなのか、顎を伝ってきた何かなのかは私にはわからない。


「……ううん、大丈夫だよ…元々私も自分から氷の球が知りたくて飛び込んだみたいなところもあるし…」
「それでも……不安だったでしょ…?見知らぬ地…世界で…いきなり球技に参加してくれなんて……貴女は本当に…強くて…優しいのね」


強くもないし優しくもないよ。
私は……


「心配しないで、貴女はわたくし達を救ってくれた。これからはわたくし達が貴女を助ける。チキュウって世界の事はわからないけど…この世界に渡ったのだから帰る方法も必ずどこかにあるはずよ。わたくし達の力…全てを使って貴女を必ず元の世界へ帰してあげるから」
「あぁ、礼は尽くす。私も王国秘蔵の文献を漁ってみよう」
「わたしもっ!召喚属性の知り合いの人達に聞いて回ってみます!」
「にゃ~、猫人族のみんなは知ってるかにゃー…ウチも冒険者達に聞いてみるにゃ」


……心強いなぁ…やっぱりみんなはいい人達だった。
ごめんね、演技の時に少しでも疑ったりして……


「もうこの世界で貴女は一人じゃないわ、だからね?もう張っていた気を休めて?わたくし達がいるからね」


正直…心のどこかに不安もあった、もしかしたらもう帰れないんじゃないかって。
違う世界なんて…もうどこにも帰る方法なんかないんじゃないかって。


「………っ!……ぅんっ………ぅっ……ぅう……ぐすっ………」


でも、もう大丈夫。
みんながいてくれるから、こんなに強い人達がそばにいてくれるから。


「ぅぅっ………ぅぁぁぁぁっ…うああああぁん…………っ!」


私は思い切り泣いた。
ここお風呂でよかった……涙で体を濡らしてもすぐに洗い流せるから。
不安も何もかも全部…みんなが…流してくれるから。







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