家族で異世界召喚されたんだけど皆が最強すぎて僕はヒロインみたくなってる話する?

冬野氷景

~発端~.家族再会



ゴゴゴゴ……


「さぁ、入りなさい」


僕はセリカに連れられ、大草原の果てにあった石造りの建造物に招かれた。
自然に出来たものなのか、人工的に造られたのか遺跡なのかはわからないけど…結構な大きさで家という感じはしない。
周囲は木に囲まれていて……これを家とするならばかなりの大豪邸だ。


「お……お邪魔します…」


中に足を踏み入れるとセリカはまた手慣れた感じで指で小さな魔法陣を展開する、まるで現代のスマホ操作みたいに魔法陣を指でスワイプした。


パァッ


すると、薄暗い室内に照明が灯る。
明るくなった室内を見渡す、かなり広い。
様々な調度品みたいな物があたりに置いてあるけど……それが何かはさっぱりわからない。
少なくとも……日本では見た事もないような物ばかりだ。


「とりあえずそこに座りなさい、ここは広間だけど……何者かわからないあんたをあたしの部屋には入れないから」


セリカはそう言って段々となっている石造りの床を指差す。
腕組みをして……冷たい眼差しを僕に向けながら。
警戒しているようだ、女の子が自分の家?に見知らぬ男を入れたんだから無理もないけど…。
僕は指示された通りに床に座った、セリカは立ったままだ。


「それで……シンだっけ?話しなさい。あんたの事を」


僕は今一度、頭の中を整理して自分がどうやってここに来たのかを考えまとめて……セリカに向き合う。
信じてもらえるかわからないけど……自分でもこれがまだ夢か現実なのかわからないけど……全部話すしかない。
助けてもらったし、この世界について情報を得なきゃならない。
そのためには自分の事を包み隠さず話すしかないんだ。


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「…………………………………………………」


全ての事を話すと、セリカは難しい顔をして目を閉じ黙り込んでしまった。
自分の事、地球の事、日本の事、家族の事、神様の事、異世界転移の事を全て。


(やっぱり……信じてもらえるわけないよな……病院送りにでもされたらどうしようか……)


しかし、セリカは考えこんだ後、目を開いて優しく微笑んだ。


「そ、そうなんだ~……世界には不思議な事がまだまだあるわね~……そ……それで、シン。あ…あたしの部屋に入る事を特別に許してあげない事も…ないわよ?と、特別なんだからねっ!?」


優しい顔になったセリカはそんな事を僕に言った。
突然どうしたんだろうか?


「いや……部屋はいいんだけど……教えてもらえないかな?この世界の事……」


「も、もちろんよ!何でも聞きなさいっ!別にやましい事があるから教えてあげるわけじゃないわよ!?……って言ってもこの世界『インフィニティ・グランデ』は広すぎるから何でも知ってるわけじゃないけどね」


「本当に……ここは地球じゃないんだ……」


「そうよ、話を聞く限りあんたの世界は魔法が使えない世界なんでしょ?あたしのこれは偽物でもなんでもないんだから」


ボオッ!


セリカは指先から炎を出す。
手品には見えないし、そもそも魔法以前に雑草が襲いかかってきた時点でここが地球じゃないのはわかってる。
問題はこれが夢かどうかだったんだけど……手にいつまでも残る痛みがこれが現実だと証明している。


「セリカは……どうして僕を助けてくれたんだ?」


「だって仕事だもん。あたしはこの領土の管理を任されてる……騎士って職業なの。わかる?騎士って」


「なんとなくは。だからそんな強いんだ」


「別に普通よ、あんたが弱すぎるだけ。『赤子草原』は文字通り赤ちゃんのためのレベル上げの場所なのよ?事情はわかったけど……それにしても弱すぎ、『雑魚』の方がはるかにマシ」


セリカはまた僕を侮蔑の眼差しで見た。
赤ちゃんのためのレベル上げって何なの…。


「それより……あんた一人なの?その神様も言ったんでしょ?『キヤマファミリー』って。だったらあんたの家族もこの世界に来てるんじゃないの?」


「!!」


そうだ……何で忘れてたんだ!
これが現実ってことは…家族みんなも異世界転移してるってことじゃないか!
この…異常な世界に!


ダッ!!


僕は考える間もなく、外に飛び出そうとする。


「っ!待ちなさい!!居場所とかわからないでしょ!?それに弱っちいあんたが行ったところでどうにもならないわよ!」


セリカに引き止められる。


「確かにどうにもならないかもしれないけどっ……それでも何もしないなんてできないっ!」


「わかってるわよ!あたしが一緒に行くから落ち着きなさい!」


パァァァァァァァァァァァァッ!


僕をなだめながらセリカは目を閉じ、足元に魔法陣を展開する。
風が魔法陣から立ち昇り、セリカの髪が上になびいた。


「何をしてるんだ…!?」


「探索の魔法よ。広い草原であんたの居場所を見つけたのもこれ。あたしは『調査系』の魔法は苦手だからこの草原までしか探索できないけど……それでも誰かが赤子草原にいればここからでも居場所はわかる………………………見つけた!四人……草原にいる。まだ生きてるから大丈夫よ」


四人?!
家族全員が来ているなら七人いるはずだけど……けど、そんな事を今考えても仕方ない!
あんな雑草に襲われたら……きっとみんなひとたまりもない!
急いで助けに行かないと!


「こっちよ!ついてきなさい!」


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僕は草原を迷いなく一直線に走るセリカの後を追う、異常に速い。
食らいついていくのがやっとだ、息切れが激しくなる。


「はぁっ…!はぁっ!はぁっ…!」


けど、足手纏いになるわけにはいかない。
僕の……僕の家族なんだ!助けたい!
ファンタジー世界の知識が全くない父さんや母さん、もう高齢のじいちゃんやばあちゃん、まだ14歳の妹。
きっと怖がってるし、混乱してるだろうし、怯えてる。


「シン!いたわよ!けど……マズい!『究極刀雑草』に囲まれてる!」


視界の前方のかなり遠目……視力の届くぎりぎりのところに人影を確認する。
体が大きいから辛うじて確認できたっ……あれは……父さんだ!
周囲にはさっき僕を襲った雑草が集まり、刀や斧などの形を造って…今にも父さん達に襲いかかりそうだ。


「このっ……距離じゃあっ……間に合わないわっ……!!」




「父さんっ!!!みんなぁぁっ!!」


僕は思い切り叫んだ。
こんな……こんなかたちでっ……家族を失うなんて……嫌だっ!!


(僕に……僕にっ……チートや何かの力があればっ……!神様っ!何でもいいからっ……僕に力をっ!!!!!!)




カッ!!!


その思いは、その声は、無事に届いた。


力が欲しいという僕の切実な願いの方ではなく。




僕が父さん達を呼ぶ声の方が。


「むっ!その声は……シンか!!危ないっ!草が目に入るぞ!!草は跳ねて体に当たると意外と痛いのだ!!待っていろ!俺が草避けになろう!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


父さんの信じられないほどの大声はかなり離れた距離にいた僕に届く。


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!


そして……筋肉の鎧と言っても過言じゃないその巨体を激しく上下させながら、一直線に凄まじいスピードで僕の方に向かってきた。


父さんそんな速かったっけ!!?
さっきのセリカよりも速い!!?
我が父の事でありながら、筋骨粒々な巨体が猛スピードで向かってくるのに少しだけ恐怖した。


パリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンッ!!!!


その勢いで、走る父の勢いだけで、究極刀雑草は全て粉々になりながら吹き飛んでいく。


「きゃぁぁぁぁっ!?」


それを見たセリカが悲鳴に似た叫び声をあげた。




「シンはん!?わたしの可愛いシンはんやで!?あぁ…よかった……姿見えへんさかい身を裂かれるような思いどした…」
「シン!!マジで良かった……このクソッタレの雑草に何かされてねぇか!?」
「……お母さんお姉ちゃん!!…………シンお兄ちゃん……手にケガしてるよ!?……我が敬愛の兄君に傷をつけたのはそなたらか?路傍の草如きが……最上級の断罪をその身に受けよ!!」


母さん、姉さん、妹の声も僕まで届く。
そして……


「うぉらあああああああ!!!てめーらか弟を傷つけたのはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


パァンッ!!!!ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


ヤンキー街道まっしぐらの姉ちゃん……【殲風】が飛んでる雑草を殴りつけると、破裂音が響き、その拳から竜巻のような衝撃波が発生した。
姉ちゃんが拳をかざした前方は地面が抉られ……まるで怪獣の尻尾でも引きずったような轍の跡が地平まで続いていた。


「宵闇に蠢く無数の猛き雷よ、我が命に従い…有象無象全てを焼き尽くせ」


ドゴォォォンッ!!!バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリィッ!!!


中一で中二病の妹……【妖精王】が中二言葉を発すると上空から雷が落ち、辺り一帯を焼き尽くした。
雑草は掻き消され、周囲は焦土と化し……殺風景になってしまった。




「丁度お野菜切るんに包丁を持っとってよかった、悪戯する悪い草は鍋に煮込んで食べてまいましょう」


スパッ……スパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパスパッ!!!


料理研究家にして剣舞家の母さん……【華舞】が包丁で雑草達を刈り取る。
その立ち振舞いは華麗で……まるで舞踊でもしているかのように、流れるような動きで雑草は粉微塵にされる。




「むぅ!!大丈夫だったか!シン!!父さん達が守ってやるからもう安心だ!!」


ギュウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!


父さんは僕をきつく抱擁する。


父さんに抱かれながら……僕はあの早とちりの神の言葉を思い出す。


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『絶対的な家族に守られたい』、かしこまりました!』
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もしかして……あれも現実になったの!?
あの勘違いの願い……有効になっちゃったの!?





























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