一級警備員の俺が異世界に転生したら一流警備兵になったけどなんか色々勧誘されて鬱陶しい

冬野氷景

九十八.鞄はいらない



<騎士イシハラの館.イシハラの部屋>


ドタドタドタドタドタドタッ………バタンッ!


「イシハラさんっ!!大変ですっ!起きてくださいっ!!」


俺が優雅に朝の紅茶を嗜んでいると、やかましトラブルメーカーのムセンが部屋に飛び込んできた。
まったく、相変わらず情緒というものを台無しにするやつだ。


「シューズさんが……シューズさんが書き置きを残して……いなくなってしまったんです!」


「そうか」


「そ……そうかって……何故そんな冷静なんですかっ!?」


「書き置きの内容は『国に帰る』とかそんなんだろう?」


「え……?な……何故わかるんですかっ!?」


「お前が話せと言ったから昨日風呂で話したからだ。帰ると直接聞いたわけじゃないが、なんとなく察した」


「お風呂で!?………いえ!今は突っ込みませんっ!それよりも!!何故教えてくれなかったのですかっ!?それにっ……何故引き止めてくれなかったのですか!?」


「俺から言う事じゃないだろう、それに何故引き止める必要がある。あいつが何も言わずに帰る事を選択したんならそれがあいつの望みなんだろう」


「そっ………それはっ………でもっ………」


「あいつは何かを思い一人で帰る事を選択した。だったら俺達がお節介なんかやく必要はない」


「…………………イシハラさん……シューズさんから何か……聞いたのではありませんか?」


「聞いたぞ、色々とな。だが、あいつは誰にも言わないでほしいと言った。俺は約束ごとはわりと守る主義だ。だから絶対言わない」


「…………そんな………」


「それよりもだ、通勤竜の件を協力してもらいにアマクダリのところへ向かう。準備しろ」


「………本当に……本当に……それだけ……なんですか……?本当に……シューズさんの事は……それだけで……終わりなんですか……?」


「しつこい、さっさと準備しろ」


バタンッ


俺はムセンを部屋に残し、王都に行くための準備を始める。


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◇【ムセン・アイコム視点】


私はイシハラさんの部屋に残されて……ただ、呆然とする他ありませんでした。
何故ですか……?イシハラさん……。
シューズさんとどんなお話をされたのか……まったくわかりませんけど……そんな簡単に終わるようなお話だったのですか?
最近のシューズさんの様子から鑑みるに、絶対にそんな気がしませんよ……。
あれだけ、自由でマイペースなシューズさんが思い悩んでいたんですよ?
それに……あれだけイシハラさんと結婚したいと仰っていたシューズさんがそんな簡単にイシハラさんの元を離れるなんてどうしても思えません。
きっと、シューズさん自身が並々ならぬ決断をした末の結果だと思うのですが……でもイシハラさんはあっさりとしていますし……。


イシハラさんは淡白で現実主義者なお人ですけど、それでも仲間が思い悩んでいたら見捨てるような人ではありません。
今までだって……口では何だかんだ言いながら皆を助けてくれました。
そうです、エミリさんの時だってエメラルドさんの時だって……私にだって、助けを求める人にはいつだって助けてくれていました。


だとするならば、シューズさんは本当にただ思い立ったように里帰りをしただけなのでしょうか?
それならば確かに私達はお邪魔になるだけでしょうけど……。


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「むしろこの国の方が変なくらいだよー?よその国は偉い人は大体あーゆー人が多いもん。だからあたしはこの国が好きなんだけどねー」


「……そういえばシューズさんも…出自は貴族なんですよね…?」


「そうだよー、うちも職業ステータスを振りかざす人ばっかでさー。それが原因で飛び出したんだー」


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いえ、そんな風には思えません。
シューズさんは自国とご実家をあまり良く思っていない印象を受けました。
では、何故……あれほど思い悩んで突然帰郷する決断をしたのでしょうか……?


「もうっ!頭の中がごちゃごちゃしますっ!イシハラさんもシューズさんも何も話してくれないからわかりませんよっ!」


一人、部屋の中で私は叫びます。


私は一体どうしたらいいのでしょう……こんな時、何が最善なのでしょうか……?
友達として、私が今するべき事は何なのでしょうか。


ドスンッ!


「痛っ!迂闊!ムセン・アイコム。話がある」
「きゃあああっ!!?ウテンさんっ!!突然上から落ちてくるの止めてくださいって言ったでしょうっ!?そして段々落下の痛みに慣れてませんかっ!?」


私は尻餅をついて上から落ちてきたウテンさんに突っ込みます。
けど、ウテンさんが私に話って珍しいですね……何でしょうか?


「セーフ・T・シューズの事について。実は私、二人のお風呂をの、のぞっ、のぞいていた」


「またお風呂のぞいたんですか!?…………それより何故そんな赤くなっているのですか?」


「な、何が?別に変なものはみ、見てない……あんな光景……」


「何ですか!?とても気になるのですが!いえ、それよりもシューズさんのお話って何ですか!?」


「私も話を聞いていた、私はセーフ・T・シューズに話を秘密にしてほしいとは言われてない。だから話せる」


「それは……そうでしょう……ウテンさんがのぞいているなんて思いもよらなかったでしょうし……」


「本来なら私もこんなお節介はしない、けど、少し気がかりな点がある。いー君はどう思ってるか知らないけど、ムセン・アイコムには話した方がいいと判断した。貴女も話を聞いて判断すべき。貴女が聞きたいなら話す」


「………勿論です。シューズさんには申し訳ないですが……私は友達が悩んでいたら話を聞いて協力したいです!聞かせてください!ウテンさん!」


「……わかった」


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俺は馬車に荷を積み、馬の準備を進める。
まったく、王都に出向く度に何故こんな大荷物を準備せねばならんのだ。
男が出かける時なぞ財布とスマホくらいで充分なのに。


『仕方ないだろ、そんな事言ったって。それより……あたしは本当に行かなくていいの?』


荷積みを手伝っていたヴァイオレットが俺にいつも通り手に筆談する。


「安全なルートで王都に行くだけだ、必要ないだろ」


『……そうだけど。なにか荷物多くないか?』


「腹が減ったんだ、いつもより、俺、食べる」


「………」


バタバタバタバタバタバタッ!


屋敷の方から騒がしい足音が聞こえる。
ふむ、じゃあそろそろ出発するか。


「イシハラさんっ!待ってくださいっ!!」


やっぱり足音の正体はムセンだったか。
俺はムセンに声をかける。


「準備が済んだなら行くぞ、荷車に乗れ」


「イシハラさん……一つお聞かせください。シューズさんは……大切なお仲間……ですよね?」


「だったら何だ?」


「……いえ、でしたらいいんです。行きましょう」


何だ、やけに素直になったな。
どうやらこいつもウテンからシューズの話を聞いたみたいだな。


「じゃあ行ってくる、留守を任せたぞ」


俺達はヴァイオレットに声をかけ、王都に向け出発した。









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