一級警備員の俺が異世界に転生したら一流警備兵になったけどなんか色々勧誘されて鬱陶しい

冬野氷景

九十六.ファンタジー幽霊



ブンッ!!ザンッ!!スパッ!!


「っ!」


「凄いなお前、ほとんどの武器を自由自在に扱えるのか」




<騎士イシハラの館.庭園>


俺は従者ヴァレット・ヴァイオレットのたっての希望で戦闘訓練てあわせをしていた。
これから戦闘パートナーになるにつれて息を合わせるために必要だとかで。


ふむ、一理ない。
面倒くさかったけど飯がまだだった俺はより空腹にするために少しだけ運動する事にして付き合った。
『空腹は最高のスパイス』というからな。


ヴァイオレットはさすが戦闘部族という事だけあって動きにそつが無く、更に多彩な技術や武器の使用もこなしていた。
なんでも狩猟に扱えるようなは武器全てに適性があるとか。
大したものだ。


「………」


スッ


『…信じられなかったけど、理解した。アンタはアーサーより強い。アタシじゃ相手にならない……』


ヴァイオレットは少し落ち込んだ様子で俺の掌に文字を綴った。
アーサーって誰だよ。


『特に意味がわからないのがそれ。15分近くかけてようやく攻撃が当たったと思ったら瞬時に治るなんて……そんなの反則だよ。アンタ本当に人間?』


スゥゥゥゥ……


ヴァイオレットの持つ短剣が指先を掠めて負った俺の傷はすぐに消えた。


『それに手合わせって言ったのに一度もアタシに攻撃してこないのは何のつもり?相手するまでもないって思ったから…?』


ヴァイオレットは涙目になりながら俺を睨んだ。
なんか戦闘に関してプライドでもあるのか知らんが面倒なやつだ。
俺は答える。


「攻撃なんかしてみろ、すぐに死ぬ事になる」


『………やっぱりそう……ごめん、なさい。アタシの実力不足……これじゃあパートナーになんかなれないな……』


「俺が、だ。攻撃にはエネルギーを使う。自分の空腹具合と相談してみたところ、避け続けてちょうどいい空腹具合になると計算した。これで俺が攻撃しようものなら『過剰空腹オーバーキル』で死んでしまうところだ」


『……ごめん、ちょっとなに言ってるかわからない』


タッタッタッ……


「イシハラさんっ!ヴァレットさんっ!ご飯出来ました!」


ムセンが庭園に現れて吉報を告げた。
ベストタイミング、俺達は訓練を切り上げて食卓へ向かった。


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<食堂>


カチャカチャ……


皆は食堂に集まり、一緒に至福の時間を過ごした。
ムセン、シューズ、エメラルド、ウテンは食卓を囲み賑やかに談笑しながら食事をしている。
傍らには使用人達が立ちながらその様子を眺めていた。


「皆さんも席についてください、皆さんの分もつくったんですから」


「お心遣い感謝しまちでち。しかし、我々はお館様達と同じ席につくわけにはいかないでち。どうぞお気になさらず召し上がってくださいませでち」


ムセンの呼び掛けにセバスが答える。
まぁ確かに使用人が主人と一緒に談笑して食事をとるなんて聞いた事ないけど別にいいんじゃないか?
こんな美味い食事を目の前にしておあずけなんて拷問に等しい。


俺は使用人達に言った。


「いいから食え。食は人類にとって平等だ、仕事が残ってるやつも一旦休憩しろ。休む時は休む、適度にサボりつつやる時は全力。これが結果、能率を上げる」


「左様でございまちか。ならば使用人達も一時休息とさせていただきまち。セバス並びに従者ヴァレット、メイド長アキ・ハバラは失礼ながらこちらで食事をさせていただきまち。他の者は使用人室へ食事を運び休むといいでち」


ガタガタ……カチャカチャ……


セバスの指示通りに使用人達は食事を自分達で運び、退室していった。
長いテーブルにはセバス、ヴァレット、怯えたメイドが座った。


「ひぃぃ……こんな事……許されていいの……?食事の作法に気を付けないと……失礼のないようにしなきゃ…」


怯えたメイドは遠目に見てもわかるような怯え方をしながらブツブツ言って震えてかしこまっていた。
こいつもこいつで何か問題を抱えてるような気がする、まぁとりあえず今は食事に集中だ。


スッ


怯えたメイドの隣に座ったヴァレットがメイドの手を取り、何か筆談をしている。


『アキ、怯えなくていいよ。今回のお館様は以前とは違う、もうひどい事はされない』


「そ……そんなの騙してるだけだよ……うちが以前のお館様にどんな目にあわされたかヴァレットちゃんは知ってるでしょ……?ヴァレットちゃんだって……」


『ああ。けど今回のお館様は違う。少ししか話してないけど、手合わせしてわかったよ。男だけど……信用できる人もいるんだって』


ガシャァァァッン!!


「そんなの嘘っ!男はみんな女を都合のいい道具くらいにしか思ってないんだからっ!うちはもう仕える御主人様とは関わらないって決めたんだっ!仕事だけ完璧にこなして大人しくしてればいいんだよっ!そうすればひどい目に合う事だって」


バチンッ!!


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執事セバスがアキ・ハバラの頬をビンタした!
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「………あっ……?」


「大変失礼をいたちまちた、お館様。せっかく同席に着かせて頂いたにも関わらずこの粗相。今後同じ事のないようにメイド長には徹底的に教育いたちますでち。なので赦して頂きたいでち」


「……………ごっ……ごめんなさいすみません申し訳ありませんごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいどうかぶたないでくださいぶたないでくださいぶたないでくださいぶたないでください」


「えっと……あの……事情はよ…よくわかりませんが……ナツイ様?許してあげて頂きたく感じます……」


「……そ、そうですねっ!ほら、イシハラさんっ!お味はいかがですかっ!?今回はシューズさんにも手伝って頂いたんですよ!ね?シューズさんっ!」


「………………」


「……シューズさん?」


ガツガツ……


「いー君、食事に集中しすぎ。話聞いてる?」


………
……………
…………………


「ごちそうさま」


俺は食事を終え、食べログに最高評価を書き込もうとしてスマホが無い事に気づいた。
そもそも異世界に食べログがないことも。


「ん?」


食卓を見てみると皆は食事を終えておらず、俺の方を見ていた。
まるで俺が食事を終えるのを途方に暮れて待っていたかのように。


「その通りですよイシハラさん……どれだけ周りを気にせず食べているんですか……話まったく聞いていませんでしたよね……?」


「前にも言ったろ、食事中に邪魔されるのは嫌いなんだ」


「メイド長さんとセバスさん、シューズさんはもう退室されましたよ……」


そういえばその三人はいないな。
早食いファイターか、早食いは体に良くないのに。


「イシハラさん、やはりシューズさんにお話を聞いていただけませんか?明らかに様子が変です。イシハラさんにでしたらきっと話してくれるはずです」


「風呂に入ったらな」


「それでもいいですから……私とエメラルドさんはメイドさんにお話をうかがってきます。ヴァレットさん、一緒に来て頂けますか?」


こくり、とヴァイオレットは頷いた。
メイドがどうしたんだろうか?何かしたのか?


「何でもありませんっ!シューズさんの事よろしくお願いしますね!」


そう言ってムセン達は食堂を退室した。
さて、満腹になったし運動もしたから風呂にでも入ろう。


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<浴場>


カポーー………ンッ……………


「ふぅ」


俺はだだっ広い大浴場みたいな浴槽に一人、浸かる。
宝ジャンヌがこだわったという風呂だが一人で使うには広すぎる、まぁ使用人達も全員使うんだから仕方ない事だ。


しかし使用人達も全員女しかいないからやはり気を使うな。
別に男だろうが女だろうが仕事ができるならどちらでも構わないが、そこはやはり俺も一人の男。
女子に囲まれる生活というのは華やかな反面、気を使わなければならない部分もあるから気疲れは避けられない。


ガチャッ


今後は男も雇ってもらうか。
セバスに言っておこう。


「……イシハラ君」


「ん?」


突如、後方から女の声が聞こえる。
今は風呂は男子の時間なのに誰だ?


幽霊か。
そういえばファンタジー世界の幽霊ってどんなんだ?
定番の長い黒髪、白装束の女がファンタジー世界にいるイメージがまったくない。
と、すると鮮やかな髪の色をしつつ、剣や盾を持った冒険者っぽい幽霊とか妖精とかの幽霊とかドラゴンの幽霊とかか?


まったく怖くないな。
そんな思いで振り返ってみると、そこには。


「……一緒に入ってもいいかなぁ……?」


顔を紅らめ、後ろ手を組み、珍しくもじもじと恥ずかしがっているように見える全裸のシューズがいた。















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