一級警備員の俺が異世界に転生したら一流警備兵になったけどなんか色々勧誘されて鬱陶しい

冬野氷景

九十.ワークショップ



<ウルベリオン城.貴賓室>


「ふふ、凄いでしょ?技術をふんだんに使用したお風呂よ、元は私の領地だったからね。アーサーに譲ってからは行った事なかったけどまだ残っていたのね。女性にとってお風呂は大切な場所だから細部までこだわったわ」


「はい!あんな綺麗なお風呂初めてでした!」


「わたしも行ってみたいと、強く感じます!ナツイ様っアイコム様っ是非次回はお供させてくださいっ!」


キャッキャッ


俺は騎士の叙任、領地やこれからの事や細部の事に関して話し合うために宝ジャンヌに呼ばれ再び城に来ている。
館から王都までの道のりは馬で二日とかからない。
山脈に囲まれたウルベリオン王都だが貴族だけに知らされている洞窟による抜け道があり、そこには魔物もいないので悠々と快適に通勤できるというわけだ。


キャッキャッ


小難しい政治的な話を終え、ムセンとエメラルド、宝ジャンヌは館にある風呂談義に花を咲かせはしゃいでいる。
しかし、俺はある問題に直面していたためそれらを無視して考えこんでいた。


そう、家を手に入れたはいいもののそれにより新たに生まれた問題。




『通勤問題』


いくら秘密の抜け道で快適とはいえ、警備協会かいしゃは王都にあるので通勤に一日以上かかる位置に家があるのは不便極まりない。


大抵の場合、警備兵の仕事は現場への直行直帰だ。
仕事現場が長く続く場合、その仕事を依頼した人間若しくはその土地を管轄するやつに警備兵の使用権が行き渡るため、その仕事が終了完了するまではわざわざ警備協会に出向く必要はない。


しかし、依頼人かんとくから仕事完了時に貰う証明サインは自分で会社に届けなければならない。
それを警備協会に渡してはじめて給金が受け取れるのだ。
家から王都までの往復交通費は勿論出ない。
それは仕事としての範疇には含まれないからだ。


ふむ、これは少し考えねばなるまい。
この移動にかかる諸費用と時間が明らかに無駄な出費だ。
これを大幅に節約するためにはやはり誰もが夢見るあの方法しかない。




『技術』による【超短縮移動手段テレポート


色々な魔法めいた『技術』がある世界、テレポート的なものも勿論あるだろう。
それを修得すれば家~王都の移動にいちいち手間をかけなくて済む。
通勤問題をクリアにする事は何より大事だ。


仕事に行く気がなくなるからな。


俺はこの世界について一番詳しそうな宝ジャンヌに質問する。


「宝ジャンヌ、テレポート技術を取得したいんだがどうしたらいい?」


「どうしたの急に?ふふ、このタイミングでそんな話をすると女子のお風呂を覗こうとしているように聞こえるわよ?」


「え!?そ……そうなのでございますか!?ナツイ様……ナツイ様が望むのであれば……覗くなど下劣な真似をしなくても……は……恥ずかしいですがご一緒に入浴させて頂きたく感じます……」


「わ!私もですっ!お背中お流ししますからっ!!その……は……初めは身体に何か巻かせてもらってよろしいですかっ!?やっぱり恥ずかしいですっ!」


「ふふ、果報者ねイシハラ君は。私も背中流してあげようかしら?」


何の話だよ。
俺は真面目に説明した。




「……イシハラさん……確かに以前一つ一つ問題を解決してばいいと仰っていましたが……魔王や騎士になった事を差し置いて真っ先に解決しようとするのがその問題ですか……」


「………結論から言うと難しいわ。イシハラ君がそれを修得できるかどうかは別の話として……『技術』っていうのは全てが公開されているわけじゃないのよ。その職業によって独占、秘匿されている『技術』もあるの。【移動時間短縮技術】もその一つね、理由は色々あるけれど……その技術を一般に広めてしまうと成り立たなくなる職業があるというのが大きいわ。例えば各地へ物資や依頼物や商品を届けたりする職業の人達の仕事が必要なくなってしまうのよ、一般の人がその『技術』を修得してしまった場合ね」


なるほどな、この世界にあるかどうかは知らないが郵便屋や配達人の需要が無くなってしまうのか。
皆がテレポートを覚えたら配達を頼む必要はないもんな。


「そういった『技術』はそれを扱う職業と……教皇様や賢者達が直轄で取り仕切る【技術管理局】以外には公開されないの。私でもそういった技術が存在するかどうかはわからないわ」


と、なるとそれを扱う職業に就職するか。


「残念だけど二つの職業を既に掛け持ちしているイシハラ君が新たなジョブに就く事はできないわよ?」


ふむ、ならばその技術を持っている人間を探して館で雇うしかあるまい。
通勤に時間をとられるのは苦痛以外のなにものでもないからな。
直ちにに解決せねばならない急務だ。


「あ、なら貴族区にある『ワークショップ』に行ってみたらどうかしら?」


「『ワークショップ』……?ジャンヌさん、何ですかそれ?」


「色々な種類の職業を体験できるお店よ。学院にいる子達はここで自分のやりたい仕事を判断するの。職業斡旋所とは違って単なる疑似体験。そこには各職業により修得できる『技術』が公開されていて見せてもらう事ができるわ」


「わたしの国にもございます。就職するのに有利になる『資格センス』などの取得の紹介もしてくださるとか」


ふむ、地球にもあったなワークショップ。
技術体験をさせてもらえる場所かなんかだったか。
さすがに地球のとは毛色が違うだろうが、便利な技術を発見するのにはうってつけだ。


すぐに向かうとしよう。


「イシハラさんが珍しくやる気です……そんなに通勤に時間がかかるのが嫌なのでしょうか…………あれ?………イシハラさん、シューズさんは何処に行ったのですか?」


「『少し用事があるから後でまた来る』って言ってさっき出ていったぞ」


「………そうなんですか……何か最近のシューズさんは様子が変ではありませんか?ずっと考え事をしているように思えます……」


「思春期なんだから悩みくらいはあるだろう」


「……そうかもしれませんが……どうしたらいいでしょうか?シューズさんは聞いてもはぐらかしそうですし……無理やり聞くのも悪いですし……」


「そっとしておくしかないだろう、思春期の悩みに無神経に触れると逆効果だ。話したくなったらあいつから話すだろう」


「………そうですね……」


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サァァァァァァッ……………





【セーフ・T・シューズ視点】




「………んー、やっぱり……ダメだよねー……あーあ、イシハラ君が良かったなー……やだなぁ……でも、帰らないと……」



















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