一級警備員の俺が異世界に転生したら一流警備兵になったけどなんか色々勧誘されて鬱陶しい

冬野氷景

八十九.王王パニック




-【???視点】-


<ウルベリオン王都.冒険者ギルド内食堂>




ワイワイ ガヤガヤ……


「…………」


ふーん、ここが冒険者ギルド……魔物とかを退治して報酬を得る職業を生業とする人間の集まり、ね。
武器防具に身を包んだやつが多いわ、一応紛れ込むためにそれなりに冒険者っぽい服装をしてきたけど……誰も何とも言わないわね。
全員が顔見知りじゃないってことかしら……確かにこの食堂だけで五十人は人がいるけど、それってセキュリティ関連からするとどうなのかしら、ね。


今まさに、ここに冒険者じゃないアタシが紛れ込んでるって言うのに。
危機感とかないのかしら?
それとも、不審者の一人くらい容易に追い出せるってことかしら?


人間って意外と呑気なのね。
前回の魔王戦争で勝ったからって調子に乗ってるのかしら?
それとも、聞いた通り勇者とやらに依存しきっているからかしら?


ま、どーでもいいわ。
アタシは冒険者になるためにここに来たわけじゃないし。
情報を得るために来たのよ。


そうやってアタシが慣れない人間のお酒を少しずつ口にしていると、隣に座っていた弱そうな男女の冒険者が料理が来た事をきっかけに大声で話し始めた。


「どうしたんだ?ルレリア、呑まないのか?せっかくまとまった金が入ったんだから贅沢にいこうぜ」


「そーだよー、まさか隣の国の兵士さん達があんな洞窟にいるなんてねー。王女様が行方不明だったなんてさー」


「そうそう、それで『盗賊団と警備兵と名乗る謎の人物にさらわれたかもしれない』って伝えただけでこんなにお金もらえるなんてな、色々予想外な事だらけだったけど……俺達の初仕事は大成功だったんだ。盗賊団のリーダーは捕まえた事だし」


「………それもあの謎の警備兵が倒したのを渡されただけじゃないですか……それにその警備兵も盗賊団の残党も結局見失いましたし……私達は何もしていません……」


「まぁ確かに何もしてないねー、でも王女様は無事だったみたいだし良かったじゃん」


「それであの警備兵の人は何者だったんだろうな?」


「さぁー?」


冒険者達が話していると、突然騒々しい足音が扉の外からバタバタと聞こえる。


バタンッ


「おい!新たな十二騎士団入りするやつが決まったらしいぞ!!なんでもこの王都の警備兵らしい!!名前は……【イシハラ・ナツイ】だってよ!!」


ザワザワ……ザワザワ……


ガシャァァァァァァァァァッン……!!


「「「………警備兵……?まさか………」」」


周囲がざわめき、隣にいた冒険者達が何かに動揺した様子で持っていた陶器を床に落とした。




意外と早く見つかったわね、ま、どーでもいいわ。
ぶらぶらと会いにでも行きましょう。


「適当に待ってなさいね、イシハラナツイ」


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-【???視点】-


ドサドサドサッ


「な……何者だい……?こんなに……美しい僕よりも……美しく強いなんて…がはっ……」


ドサッ!


「ひひひ、相も変わらず容赦ないですなぁ……」


黒いフードをかぶった腰の曲がった老婆がそう呟く。
まるで街角におる占星術師じゃな、と、他愛もない事を考える。


「ふん、幾千年ぶりじゃが何も変わってはおらぬな。人間の質もこの世界の醜さも」


わらわ達をただ見ただけで不審者として強引に喧嘩を売ってきた、目下に転がる兵士達を見てそう呟く。


「ひっひっ………デス・プルート様のあまりの美しさに惹かれたのではないのですかね……ひっひっ」


聞き慣れぬ名前に一瞬、首をかしげる。
……あぁ、そうじゃ。わらわの名前であったな。
わらわが自ら名付けたのであった、何と禍々しくも壮美な名であろうか。


「バカ者めが。人間なぞにわらわの美しさが理解できるはずなかろう。それよりも、じゃ。ここは一体何処なのじゃ?肝心のイシハラはどこにおる?」


「ひっひっ、こちらへ来ると職業神の影響か……向こうでの『技術』が形を変化させてしまいますので中々技術使用に難航しておりまして……ただつい先日までは、この通用口『冥邸洞』におられた事は確かなんですがね……」


ふむ、げに忌々しい職業神がここでも立ち塞がるか……。
確かに冥界で使えるわらわの術が上手く発動せぬ、『オルス』でひと暴れするには少々時間が必要か。


「ひっひっ、冥王様に敵う者が『オルス』おるとは思えませぬが……万が一、魔界の王に出会った場合はご注意を……進化を遂げた『悪職』に就いた事により絶大な力を手に入れております故……」


「バカ者め、たかが魔王なぞに遅れをとるものか。では行くぞ、イシハラを探しにな」


そして、イシハラをわらわのものにする。
さすれば冥界を統べる新たな王として……イシハラは今の冥界の現状を一から創り変える存在となるであろう。


「待っておれ、わらわがそなたの器を育て上げてやろうぞ」


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<騎士イシハラの館>


「イシハラさんっ!起きてくださいっ!もう王都に向かう時間ですよっ!」


「不快な予感」


俺は独り言を放って目を覚ます。
何かとんでもない奴等が俺のところに来そうな気がする、そんな予感がしてならない。


ま、いっか。
よく考えてみたらどうでも良かった、そして、俺は深い眠りについた。


「当たり前のように寝ないでください~っ!起きてくださいって言ったばかりですっ!」



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