一級警備員の俺が異世界に転生したら一流警備兵になったけどなんか色々勧誘されて鬱陶しい

冬野氷景

八十四.奴隷解放宣言Ⅱ



「「「……………………」」」


エメラルドの強い主張を聞き、その決意を受けたウルベリオン王、パンケーキ伯爵、宝ジャンヌ、周囲の兵士達が三者三様、思い思いの反応をする。
と、いうか周囲に兵士なんかいたのか。
腹減ってるし黙って立ってるから存在を認識してなかった。
まぁ普通は玉座には列を為して護衛の近衛兵達が立ってるよな。


「「「………ぷっ……」」」


周囲の兵士達は鎧を震わせ、笑いをこらえているように見える。


「ぷっ……ふふふっ!王女様も言うじゃない……私も同じ気持ちよ、生理的に受けつけないものね……ふふふっ」


宝ジャンヌは普通の声量でパンケーキに聞こえるように言った。
パンケーキ伯爵は顔を真っ赤にして震えている、そして、怒りを露にした。




「……ぶ…ぶ……無礼者がっ!!!奴隷の分際でっ!!!貴様はこの先奴隷としてしか生きられまいと思い余が便利な道具として使ってやろうと恩情をかけてやったのに何だその態度は!!貴様は奴隷として余の立身出世のための道具でおればよいのだっ!!!」


「お断りします!!、と強く言ったはずでございますっ!!わたしは道具ではありませんっ!!!これからは王女でも奴隷でもない……普通の女性として生きていきたく思いますっ!!」


「痴れ者めがっ!!そのような戯れ言がまかり通ると思うな!!既に貴様に自由などありはせんのだっ!!!バルト王ならびに王妃からは了承を得ておるのだ!!貴様如き奴隷の豚がそれを破棄できると思っておるのかっ!!?豚は豚らしく黙っておれば良いのだっ!!」


パンケーキは最早演技を止め、その本性を見せている。
どう見てもこいつの方が喚く豚にしか見えない。


「マルグラフ候、そのような言動はあまり感心せぬな。エメラルド嬢の事情は聞いたであろう?彼女は今まで不自由を強いられていたのだ、そしてそれを吐き出しておる。領主たる者がその言動に剥きになり暴言で返すなどあってはならんだろう、大人として……ましてや婚約を結びたいのであるなら夫として優しく包み込んでやるべきではないのかね?」


「ぐっ……………!!」


ウルベリオン王に指摘され、豚パンケーキは喚くのをやめた。
やだ……素敵……王様。
本当に渋い大人だなこの王は。


「ふむ、しかしどうしたものか……ワシらが判断して良いものかわからぬが……エメラルド嬢が王女の立場を捨てるというのならば……政略としての意味を成さぬだろう。ならばエメラルド嬢が父君に想いを打ち明けるまで一旦保留にすべきであろうか……」


カツ……カツ……カツ……


王が判断に迷っていると、入口の方から足音が聞こえた。
今度は誰だ?


カツ……カツ……ギィィィィッ……


「いいえ、その必要はございません。陛下……突然の来訪、そして……このような事でお手を煩わせた事、大変心苦しく思います……お許しください。兵士の方には無理を言ってこちらへ通させて頂きました……シュヴァルトハイム王家……バルト王が妻、【マリアージュ・バルト・ルイム】でございます」


「!!お母様っ……!?」


「「マリアージュ王妃っ……!?」」


エメラルドに続き、宝ジャンヌとパンケーキも驚きの声をあげる。
どうやらエメラルドの母のようだ、顔立ちがよく似ている。
髪の色は違うが、エメラルドが30歳くらい年をとったって感じだ。


「なんと……お久し振りですな、マリアージュ王妃。迎えも寄越さず大変失礼した」


「いえ……エメラルド共々……勝手に来たのはこちらですから…度重なる非礼、お詫び申し上げます」


ウルベリオン王とエメラルド母は挨拶を交わし話始める。
エメラルドも宝ジャンヌもパンケーキも呆気に取られていた、予期せぬ事だったのだろう。


だけど役者が揃って丁度良かったじゃないか。
これで後はエメラルド母にエメラルドが想いを訴えて母がこの縁談を白紙にしてくれればオールOKだ、何というご都合主義なタイミング。


しかし、どうやらそう簡単にはいかないようだ。
エメラルド母はエメラルドを冷めた目で見据えた。


「……お母様……どうしてここに……?」


「話すのは久しいわね、エメラルド。勿論、あなたが行方不明になったとの報が耳に届いたからよ………」


何だ、心配して駆けつけたのか。
聞いていた話よりまともな母親じゃないか。


「あなたのその間抜けた行動のせいで……陛下やマルグラフ候、皆様に多大なる心配やご迷惑をおかけした事を陳謝しに来たのです。立場を少しはわきまえなさい、あなたは奴隷であり、今はまだ王女でもあるのだから」


「っ!!………………」


「お話は全て聞こえていました、マルグラフ候。娘が大変失礼を働きました、お許しください。こちらとしては縁談話を撤回する気はありません……そちらが許していただけるのであれば、このまま成立までお話を進めさせて頂きたいと思うのですが……」


「………むふ、いや構いませぬぞ?余も大人気おとなげありませんでしたな……数々の暴言をお許しください…エメラルド様?」


パンケーキは怒りをおさめ、ニチャアッ……と笑った。


「お母様っ!!お待ち下さい、と強く思いますっ!!わたしの話をお聞きくださいっ………」


「話は全て聞こえていた、と言ったでしょう?そんな主張を受け入れると思っているの?あなたは一時的に外の世界を知って一時的な感情を吐露しているに過ぎない………奴隷と判断されてから6年間……何もせず……黙ってありのままを受け入れていたあなたが今更何を言っているの?」


「……………」


「あなたは奴隷以外の何者にもなれはしないのよ、主義主張もなく、夢見る事もない、もちぬしに尽くすだけの道具……それならばより良い主の下に就くのがあなたの唯一の路なの」


「……確かに今まではわたしもそうで思っていました……しかし、わたしはそこから変わりたいと……脱却したいと、強く感じるようになったのです!」


「ならば言ってみなさい、あなたは何者になりたいの?何を為したいの?」


「……………それは…………まだ、わかりません………」


「………………」


「しかし、お母様……わたしはまだ……世界に触れたばかりです……これから色々な方達と出会い……何かを感じ、思い、判ずる……その一歩を踏み出したいのです……それは……そんなにいけない事でしょうか?」


「……………」


「わたしがまだ……何者になれるかはわかりません。しかし、城をでてわずか10日間の時間でさえ、一つ、夢が出来ました。ならば……この先広がる世界に触れた時……どれ程のやりたい事ができるでしょうか、それが楽しみで仕方ありません」


「………言ってみなさい、その描いた夢とやらを」




「はい、わたしはそちらにおられる……イシハラナツイ様との結婚をしたいと、強く思っております。既に婚約もさせて頂きました」


「「……っ!?はぁぁぁっ!!!?」」


ムセンとパンケーキだけが大げさに反応した。
馬鹿だな、これは母親を説き伏せるための作戦だろうに。


「たぶんそう思ってるのは貴方だけよ、イシハラ君」




そして、その瞬間、エメラルドの周囲の空気だけが光輝いた。
まるで天からの祝福を受けたかの如く。


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【エメラルド・バルト・ルイム】の職業適性『奴隷』が変化しました。


職業適性.天職『奴隷』→『探求者』
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