一級警備員の俺が異世界に転生したら一流警備兵になったけどなんか色々勧誘されて鬱陶しい

冬野氷景

二十五.宇宙の果て



「ごぼっ!」ブクブク…


「どうしようなのよ!ムセンがスライムに呑み込まれたなのよ!」
「っ!すぐに助け出しましょう!イシハラ君!シューズ君!」
「んー、待ってすだれおじさん。今あのスライムに攻撃する事はやめといた方がいーよー」
「な、何でなのよ?!どういう事なのよシューズ!あたしはお話でしか聞いた事ないけど…スライムって簡単に倒せる魔物じゃないのよ?!」
「うーん、たぶんそれは前魔王の時の情報だねー。魔物も前回の戦争の時より成長進化してるんだよー。人と関わってより厄介になったのかなぁ」


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スライムはムセンの身体にまんべんなくまとわりついた!
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「ム、ムセン君の身体にぴったりと張りつきましたよ!?まるで…身体全体を包んでムセン君の形を型どっているかのように…!」


「うん、このスライムは人を覆って呑み込んだ後、その人を盾にするかのように顔、体、手足に張りつくんだよー。っていうか本当に盾にしてるんだよねー、敵に攻撃されないように身につけた悪知恵かなぁ。とにかくこの状態になるとムセンちゃんにもダメージがいっちゃうんだよねー…」


「ど、どうすれば良いのよ!ムセンが水の中にいるみたいに苦しそうなのよ!呼吸ができてないのよ!」


「うーん、スライムだけにダメージを与える技術があればいいんだけど、アタシの今持ってる武器だと無理なんだよー。今それができるとしたらイシハラ君だけなんだけど…」




宇宙とは一体どこまで続いているのか、それを知ろうとするのは飽くなき探究心を持った人間だけかもしれない、それは人だけの特権であり、それ故に生まれる人だけの醜いエゴイズム。俺達に宇宙の果てを確認する術は、何世代人類が産まれ変わろうと皆無に等しい可能性だ。


「そのイシハラは何をやってるなのよ!何かよくわからない顔をしてボーッとしてるのよ!」
「うーん、イシハラ君には頼まれたしなー。あまりイシハラ君の邪魔したくないなー」
「そんな事言ってる場合なのよ!?このままじゃムセンが死んじゃうのよ!」


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ムセンはスライムに身体中を包まれて身動きがとれない!
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「イシハラ!ムセンが大変なのよ!ボーッとしてないで助けてあげてなのよ!」
「……………」
「聞いてるのよ!?仲間が大変なのに何やってるのよ!?」
「……………」
「…っ!!もういいのよっ!!やっぱり警備兵になんか頼んだのが間違いだったのよ!」


ダッ!


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エミリは木の棒を拾い、スライムへと向かっていった!
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「エミリ君っ!スライムに近づいては駄目です!何を…っ!」
「もうあんた達には頼まないのよ!あたし一人でやるのよ!たとえムセンが傷ついても死んじゃうよりはマシなのよ!」


そう、しかしその探究心がなければ宇宙の果てなど誰も観測できない。皮肉な事に、神の領域を侵すような罪深き行動がなければ真実には決してたどり着けない。決して真実にはたどり着けそうもなく、罪深い行動にて真実を暴こうとする人類だけが、唯一、神の領域に足を踏み入れる事のできる存在でもあるのだ。


ヌルルルルルッ……


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スライムはムセンを取り込んだままエミリも呑み込もうとする!
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「いけない!エミリ君!君も一緒に呑み込まれてしまいます!」
「やぁぁぁぁっ!!」


「つまり、行動は美徳。欲深く、罪深い人間こそが、絶対の観測者ということだな」スタスタ……


ドンッ……ドサッ!


「あいたっ!?」


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スライムに殴りかかろうとしたエミリの前にイシハラが立ち塞がった!エミリはイシハラにぶつかり尻餅をついた!
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バシャアッ……トプンッ。


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イシハラはムセンと共にスライムに取り込まれた!
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「イ…イシハラっ!?…なんでなのよ!?」
「イシハラ君までが…呑み込まれてしまいました……」
「………」


「それを踏まえて空腹とはどうだろうか?食への飽くなき欲求を考えるからこそ、生物は空腹となる。だとするならば、宇宙の真理を知ろうとする探究心と同じように、そこへたどり着こうとする意思がなければ空腹は抑えこめるのではないだろうか?つまりは「俺は全然食欲がないぜ」と自分を騙せば腹は減らないんじゃないだろうか?」


「まって?イシハラ君何か言ってるよ?」
「どういう事なのよ!?何でイシハラは水をものともしないで普通に喋ってるのよ!?しかも難しいようですごくバカな事言ってるのよ!?」


やってみよう。
あー、腹一杯だ。朝に食ったフランスパンらしきものはやはり腹持ちがいいな。俺腹一杯だわー。


グゥゥゥゥ……


無理だった。
当たり前だ、三大欲求を人間が制御することなんかできるか。


ブクブク…ゴポッ


ん?いつの間にかムセンが目の前にいた。
何コイツ溺れてるんだ?
そして何で俺まで水の中にいるんだ?
よくわからんが、とりあえずムセンが苦しそうだからさっさと出してやるか。


俺はムセンを抱き抱え、剣を抜いて水を切り裂いた。


「ていっ」


バシャアアアアアアアアアアアアアァァァァァァッッッッ!


水は辺り一面に散乱し、俺達は水中から脱出した。
ん?
そういえばここは陸地だったな、何で俺達は水中にいたんだ?
まぁどうでもいいか。


「ど、どういう事なのよ!?イシハラって何なのよ!?」
「それは…私達にもまだわかりませぇん…」


見るとムセンはぐったりしていて呼吸をしていなかった。
水を飲み過ぎたのか、仕方ないな。


「ム、ムセン君は大丈夫なんでしょうか!?早く回復技術をっ…!」
「でも回復技術を持ってるのはそのムセンちゃんだけだよー」
「ど、どうするのよ!?教会の神官様のところまで行ってる時間はないのよ!」


全員慌てふためいているがこの世界には心肺蘇生の応急措置の概念とかないのか?
時間もなさそうだしやるしかないか。


俺はムセンを寝かせ、気道を確保した後。


人工呼吸を開始した。


「「「!!!??」」」


この手の事は警備員時代に嫌になるほどやらされた。
AEDの使い方や緊急蘇生法は警備員の資格を取る際に必ず学ばなきゃならないことらしい。
現場では熱中症やら事故やらが多いからな。


「イ、イ、イシハラは何をやってるなのよ!?」
「あー、いいなー。アタシもイシハラ君としたいなー」
「……………もしかすると……イシハラ君はムセン君に空気を送っているのでは…」


スゥゥゥ……フゥゥゥ。


「…………………………げほっ!ごほっ!ごほっ!げほっ!」バシャア!


水を吐いたな。
ムセンのこのパイロットスーツは耐水性にも優れていてもう乾いているし、耐寒使用にも切り替えられるから後は身体さえ温められれば。


「聞こえるか?ムセン。俺が誰かわかるか?」
「…………はぁ、はぁ、イシハラ……さん…………また……助けて…もらったのです……ね………ごめん…なさい…………ありがとうございます……」


意識もはっきりとしてきたな。
もう大丈夫だとは思うが念のためどこかでゆっくり休ませてやるか。


「スズキさん、近くに村や町なんかはありますか?」
「は、はい!小さな村ですがここから三十分ほどのところにありますぅ!」
「とりあえずそこへ行って休ませよう、エミリもいいか?」
「………………もちろん、なのよ」


ということで俺達はいきなり寄り道する事になった。

























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