キリストにAI開発してもらったら、月が地球に落ちてきて人類滅亡の大ピンチ! 前代未聞、いまだかつてない物語があなたの人生すら変えてしまう ~ヴィーナシアンの花嫁~

月城友麻

26.マウスに宿りしAI

 それから一週間くらい、エンジニアチームの試行錯誤が続いた。
 マウスに水飲ませるのに天才たちが必死になっている様は滑稽でもあるが、こういうのを一つ一つ超えて行かないと人類の後継者は作れないのだ。
 
 俺が税務署からの書類にハンコを押していると、マウスの部屋から大きな声が上がった。

 マーカスが出てきて俺を呼ぶので行ってみる。

 マーカスは少し痩せたみたいだが笑顔でマウスを指さす。
「ヨウヤク ウマク イッタネ!」
 
 どれどれと見ると、マウスが水の前にいる。
「ミズ ノマス ネ」

 マーカスはキーボードをカチャカチャと叩く。

 あれだけ苦労していた水飲みチャレンジ、本当にちゃんとできたのだろうか?
 再現性持ってできたという事であれば、人類史上に残る偉業レベルなんだが……。
 
 マウスはゆっくり顔を下げて水に口を付け、ピチャ、ピチャと水を舐めた。
「Oh! Great!」

 うは、本当にできてる!

 俺は思わずハイタッチ!
 AIが生体を使って複雑な動作をさせたというのは人類史上初だと思う。
 今、人類のフロンティアが目の前で切り開かれた。
 
「Hi yahoaaa!」
 マーカスも喜びで奇声を上げている。

 俺も真似て
「Hi yahoaaa! HAHAHAHA!」

 みんなも真似して
「Hi yahoaaa!」「Hi yahoaaa!」
 
 我々は人類の後継者にまた一歩近づいたのだ!
 みんなで大きく笑って大いなる一歩を喜んだ――――


 奇声を聞いて美奈ちゃんがやってきた。

「見てごらん! 水飲んでるだろ?」
 俺が喜んで美奈ちゃんにマウスを指さした。

 美奈ちゃんは、
「ん~、マウスが水を飲むのは当たり前なんじゃないの?」

 と、我々の喜びが分からない。

「あー、これはマウスが飲んでるんじゃなくて、AIのシアンがマウスの身体を使って飲んでるんだよ、すごいだろ?」
「ん~、そうなのね……すごーい」
 何という棒読み……。

 ノーベル賞級の大いなる成果も美奈ちゃんには通じなかったか……。
 
 生体は機械と違って制約事項が多い、この一週間相当に苦労したはずだ。
 なおかつ深層後継者計画は極秘プロジェクト、どんなに苦労しても論文発表一つできない。
 実に孤独なストイックな挑戦である。

 俺はねぎらいの意味を込めてゆっくりマーカスとハグをした。
 滅茶苦茶汗臭かったけど、それだけ大変だったって事だよな。
 お疲れ様!

 クリスも笑顔でほほ笑み、何度もうなずいている。

 美奈ちゃんは
「ちょっと待って、何でこんなプロジェクトXみたいな感動ストーリーになってんのよ?」
 そう言って俺に絡んでくる。

「あー、マウスが水を飲めたって事は、今後大抵のことができるって事なんだよ」
「水飲んだだけで?」
「水飲むってとても精密な制御がいるんだよ」
「ふぅん……」
 美奈ちゃんは首をかしげながら釈然としない表情をしている。

「コンピューター側から生体をここまで精密にコントロールできたって事は世界初だからね。このマウスは世界一を実現したマウスなんだ」

「これが世界一ねぇ……」
 マウスをしげしげと眺める美奈ちゃん。

「まぁ、無理に分かろうとしなくてもいいよ」

 すると美奈ちゃんはこっちをキッと睨んで
「何その上から目線!」
「いやほら、人には向き不向きがあるから……」
「何よ! 私にはわからないって言うの?」
「美奈ちゃんだっていつも『誠には愛が分からない』って上から目線じゃないか!」
「だってそれは本当の事でしょ?」
 なんの迷いもなく真顔で言う美奈ちゃん……

 なぜ自分の『上から目線』はセーフなのか……
 何だこの理不尽は……返す言葉が思い浮かばない……

「とにかく! 今日はめでたいの!」
 俺がそう言うと、美奈ちゃんはしばらく何か考えて――――

「ふぅん、まぁいいわ。じゃ、飲みに行こっか?」
 そう言って美奈ちゃんはみんなの方を見る。

「Hi yahoaaa!」「Hi yahoaaa!」
 盛り上がるエンジニアチーム。こりゃ行かないわけにはいかんなぁ。うしし。

「OK! Let’s drink! (よし! 飲むぞ~!)」
 俺はそう叫んで握りこぶしを上げた。

「Yeah!」「Let’s go!」「GO! GO!」

 愛なんて分からなくても美味しいお酒が飲めればいいのだ。

「Hi yahoaaa! 」
 俺はこみ上げる思いを押さえられず、再度雄叫びを上げ、思いっきり笑った。


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