キリストにAI開発してもらったら、月が地球に落ちてきて人類滅亡の大ピンチ! 前代未聞、いまだかつてない物語があなたの人生すら変えてしまう ~ヴィーナシアンの花嫁~

月城友麻

25.就活地獄娘がインターン!?

 接続チェックが終わったら次は基本動作のインプリメント。とは言え、生体は仮想現実空間のロボットシアンと違って何から何まで難しい。
 まず、水を飲む事すらやらせる事ができない。

 水を飲むというのは実は極めて難しい事なのだ。
 水に口を近づけて、舌を出し、舌で水を汲み、それを勢いよく口の中に移動し、唇を閉じて、気管を締め、喉を動かし食道に水をポンプの様に送り出す。
 それぞれ一つ一つが極めて精密な制御をおこなわないと失敗してしまう難題だ。

 いくらロボットシアンで鍛え上げたAIでも自動でそれらを学習するには試行回数が足りない。
 仮想現実上では何億回でも試行錯誤ができるが、生体の場合は試行する度に負担がかかるから回数に制限ができてしまうのだ。

 エンジニアチームが全精力をかけて一日中トライしたが、目途が付かず一旦ペンディングになった。
 連日のハードワークでみんな疲労が顔に出てしまっている。
 これはしんどい、このままじゃダメだという事で、俺は疲れ切ったチームのみんなを食事に誘った。
 

          ◇


 近所のちょっと汚いけど料理は美味い中華屋に移動して適当に料理を頼み、ハイボールで乾杯。
「Hey Guys! You did good today. Let's drink! (お疲れ様、飲むぞ!)」
「Cheers!」「Cheers!」「Cheers!」
 なんかみんな疲れておざなりな乾杯だ。
 
 棒棒鶏をつつきながらマーカスに言った

「Do you think it can be solved?(解決できるかな?)」
「ワレワレハ カミノ チーム! フカノウ ナシ!」
 そう言って疲れた表情を押し殺し、腕組んで上腕二頭筋を膨らましてニカっと笑った。
 ポジティブでいいね!

「そりゃそうだよね、最後にはきっとうまくいく」
「そうそう、元気出して!」
 美奈ちゃんがそう言ってにっこりと笑う。

「Oh! ミナチャン! ワタシ ガンバル!」
 可愛い子に応援されると男は弱いよね。実は美奈ちゃんがキーパーソンなんじゃないか? とすら思う。
 女の子はいいなぁ……。

 あ、そういえばクリスに彼女紹介してもらう話はどうなったんだっけ?
 
「クリス! 彼女を紹介してもらう話だけど……」
「…。まだ欲しいのか?」
「欲しい欲しい、今すぐ欲しい!」
「…。ガッつくとうまくいかない」
「あー、そうだね。でも、とりあえず候補と会うくらいは……」

 クリスはエビチリをつつきながら言った。
「…。どういう娘がいいですか?」
「うーん、優しくて、俺をたててくれて……、可愛くて、自己主張が激しくない娘?」

 クリスは俺を一瞥すると、
「…。該当者0です」
「え―――――! なんで!?」
「…。そんな都合の良い奴隷みたいな娘は、現代ではファンタジーです」
 クリスは油淋鶏の皿に手を伸ばしながら冷たく言った。
 
「うーん、じゃ、全部の条件に合わなくていいから近い娘をお願い!」

 美奈ちゃんが紹興酒片手にやってくる。
「なに? 誠さんまだ諦めてないの?」
「諦めたらそこで試合終了ですよ!」
 ハイボールがいい感じに回ってきている。

 美奈ちゃんが肩をすくめた。

 目を瞑って思案していたクリスが口を開いた。
「…。美奈ちゃん、同じサークルの由香ちゃんなんかどうかな?」
「え~? 由香先輩? 確か彼氏いたんじゃなかったかな?」
「…。大丈夫、先週別れています」
「あ、そ、そうなの? いいわよ、誠さん、電話してみようか?」

 もう電話!? 先週まで彼氏がいたというのがすごい気になるが、クリスが言うならいい娘なんだろう。
「え? そ、そう? じゃ、電話してもらおうかな~」

 美奈ちゃんは含みのある笑顔をしながら電話をかけた。

「はーい、先輩! 元気してる? うん……そうそう。で、今暇? いやいやそういう意味じゃないって。ちょっと出てこない? ……。そうそう、今。奢るからさ。うん、地図送っとくから。うん、待ってるね」

 先輩にため口っていいんだろうか? とは思ったが、サークルによってはそんなもんかもしれない。

「来るって?」
「うん、彼女近所住んでるから2~30分で来るって」

 まだ気持ちの整理ができてないが人生のチャンス到来って感じ?
 どんな娘かな……
 可愛いといいな……、あ、可愛いを第一優先条件にしておけばよかったかな……

 そんな落ち着きのない様子の俺を見てクリスは微笑んでいる。
 
 紹興酒を楽しんでいると、しっとりとした黒髪に透明感のある肌の可愛い子が現れた。パッチリとしたブラウンの瞳にドキッとする。

「こんばんわぁ……」

 テラコッタカラーのクロップパンツにクリームカラーのカットソー、それに少し濃いクリームのカーディガンを着てる。
 豊満な感じの胸にもつい目が行ってしまうが……イカンイカン! エロ、ダメ!絶対!
 
「はーい、先輩! 座って座って! ビールでいい?」
「うん……」
 ちょっと緊張しているようだ。
 
 ビールが来たところで乾杯。

「由香です……。お招きありがとうございます……。かんぱい」
「カンパーイ!」「Cheers!」「カンパーイ!」「Cheers!」「Cheers!」「Cheers!」

 可愛い女の子の登場に盛り上がる野郎ども。疲れた時でも女の子が来ると男は元気出るよね。

 俺もさっそく声をかける
「俺は神崎誠、俺たちはAIベンチャーのチームメンバーなんだ、今日は懇親会。楽しんでいってね!」
「私が参加しちゃって大丈夫なんですか?」
「みんな大喜びだから大丈夫!」

 美奈ちゃんも
「うち、女の子少ないから、先輩来てくれて良かった」
「そ、そうですか」
「最近元気ないなーって思ってたから気晴らしにも丁度いいでしょ?」
「え? そんな、出てた?」
「先輩、デリケートだからね。今日はたくさん飲んで楽しんで!」
「ありがとう……」

 折角なんで何か話題を振ろう。
「由香さんは、お休みの日は何しているんですか?」
「今は就活でいっぱいいっぱいなんです」
「あ、3年生なの?」
「それが……。4年で無い内定なんです……」

 なるほど、この時期内定ないのは辛いな。
「余計な事聞いちゃったね、ゴメン」
「面接で次々落とされると……自分が否定されているようで心が折れそうになるんです……」

 あらら、なんだか暗い話題になっちゃった……なんとかしないと……

「面接なんかで由香ちゃんの良さは分からないよ。単に運が無かっただけだよ」
「そうなんですかね……。でも一つも受からないと運だけとも思えなくて……」
「うーん」
 こういう時にどういう言葉をかけてあげたらいいか良く分からない。

 だから彼女ができないのだろう。ここはクリスに頼むしかない。

「クリス、迷える子羊にアドバイスをお願いします」
 横で聞いていたクリスは由香ちゃんに優しく微笑みかけると、

「…。辛い中よく頑張りましたね。由香ちゃんは偉いですね」
 優しくゆっくりそう言ってねぎらった。

 由香ちゃんはそれを聞くと下を向き、涙をポロリとこぼした。
 そしてハンカチを出すと涙を拭きながら言った。

「すみません、泣いたりしちゃって……。でも、今は絶望しか感じられないんです」
「…。お気持ちは良く分かります。人生は苦しい物です」
「早く楽になりたいです」
「…。楽になってもいいんですよ」
「えっ? それはどういう意味……ですか?」
 怪訝そうな顔でクリスを見る。

「…。そもそも就活なんてしなくても死にません。やめてもいいんですよ?」
「いや、さすがにそれは……」
「…。では、入れる中小企業に行けばいい」
「それもちょっと……」
「…。応京大学生としてのプライドがあるんですよね」
「……。」
「…。つまり、プライドが由香さんを苦しめているんです」
「友達はみんな超大手、マスコミ、広告代理店、金融に行ってるんです! 私だけそんな……」
 由香ちゃんは核心を突かれ冷静ではいられなくなったようだ。

「…。超大手に行くと幸せになれますか?」
「幸せ? 受かれば嬉しいと思うけど……幸せかどうかは入ってからの話ですし……」
「…。良い事を教えてあげましょう。中小企業に入った人と超大手に入った人の幸せ度には変わりがありません」
「えっ?」
「…。超大手に行く意味は見栄以外あまりないのです」
「いや、でも、給料とか福利厚生とか仕事の規模とか全然違いますよ!」
「…。それらと幸せには関係が無いのです」
「そんな……」
「…。幸せとは会社の規模が作る物ではないのです。よく考えてみてください」
「いや、でも……」
「…。もし、超大手にこだわらないという事であればうちの社長に相談してみてください。時価総額2000億円規模の会社にねじ込んでくれますよ」

 ブッ!

 思わずハイボールを吹き出してしまった。

 クリスさすがいい事言うなぁと思っていたら、いきなり俺にふられた。

 由香ちゃんが乗り出してきた。
「社長さん! そんな事できるんですか!」
「え? 俺? 俺が太陽興産にねじ込むって事?」
「…。誠ならできるでしょう」
「いや、親父さんがなんというかな……」
「太陽興産全然OKです! ぜひぜひ!」
 由香ちゃんは必死に訴えかけてくる。

「うーん、ま、聞くだけ聞いてみるか」

 可愛い女の子に頼まれると断れない。親父さんに電話をかける。

「お世話になっております、神崎です。夜分遅くに失礼いたします。……はい、はい、で、一つご相談がありましてですね、優秀な応京大生が御社への就職希望してる訳なんですが、受け入れとかできますかね?」

 由香ちゃんは手を合わせて俺に祈っている。
 俺に祈られてもねぇ。

「あー、そうですよね。え? インターン? うちで? え? うちの会社でですか?……私が判断ですか? え? 私の判断でいいんですか? はい、はい、分かりました。はい」

 由香ちゃんは身を乗り出して聞く
「ど、どうなりました!?」
「それが……うちでインターンして戦力になるようだったら太陽興産で受け入れてもいいって」
「え? 社長さんの会社でインターンするんですか?」
「由香ちゃんはAI分かる?」
「いや……文系なので……」
「うーん、じゃ美奈ちゃんの手伝いかな? 総務経理」
「あ、簿記なら3級持ってますよ!」
「じゃ、経理でしばらくやってみる?」
「ぜひぜひ!」

 応京大生なら地頭いいだろうけど、実務と試験勉強は違うからな。
 本当に戦力になるかどうか分からないけど一旦お願いしてみるか。
 
「おーい、美奈ちゃん!」

 マーカス達と楽しそうに話してた美奈ちゃんがこっちを向く。

「由香ちゃんをうちの会社で総務経理のインターンで採っていいかな?」
「オッケー! じゃ、入社祝いで先輩にカンパーイ!」

 なんだかすごい気軽なノリで答えてるけどちゃんと考えてんのかな……。

「Cheers!」「カンパーイ!」「Cheers!」「カンパーイ!」「Cheers!」

 グラスを合わせながらすごい不安になる俺。
 まぁとりあえず何でもやってもらうか。

 そもそも俺の彼女候補だったんじゃないのか?
 なぜインターン受け入れって話になってるんだ?
 インターンに手を出したらセクハラだから彼女にはできないじゃないか!

 クリスに頼んで失敗したよ、とほほ……

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品