キリストにAI開発してもらったら、月が地球に落ちてきて人類滅亡の大ピンチ! 前代未聞、いまだかつてない物語があなたの人生すら変えてしまう ~ヴィーナシアンの花嫁~

月城友麻

16.忍び寄る200億円

 オフィスでパソコンを叩いていると修一郎がやってきた。

「誠さん、ちょっと会って欲しい人が居るんだけどいいかな? すごい良い話」

 修一郎に人脈なんてあったかな、と思いつつ答えた。
「ん? いいよ」
「急だけど今晩銀座のバーでどう?」
「あー、いいけどどんな人?」
「それは会ってのお楽しみ!」

 なんだそれは。
 まぁ修一郎の話なんてどうせロクなもんじゃない。適当に酒飲んで帰ってこよう。
 
 小さな会社でもやらなきゃいけない事は山積みだ。
 税務に会計にオフィス周りに太陽興産との契約周りやレポート周り、できるだけ専門家に依頼してはいるがそれでも把握して判断して指示は出さないとならない。
 社長は究極の雑用である。
 
 疲れた足でげんなりしながら新橋から歩いて、8時過ぎにバーに着いた。

 すでに修一郎と女の子とスーツ姿の中年の男が待っていた。
 
「誠さーん!」
 修一郎が大声出して手を振ってる……。ハズいからそういうの止めて。
 
 男は立ち上がると会釈をして名刺を差し出してきた。

 名刺には
 『CPコンサルティング 代表 山崎 豊』
 と、ある。

 挨拶して座ると
 女の子が浜崎冴子と名乗り、飲み物を聞いてくる。修一郎の友達のようだ。

「あ、じゃぁビールで」
「マスター! ビールお願いしまーす!」
 
 さて、こんな銀座のバーで何のお話しでしょうか。
 
 山崎が姿勢をピッと伸ばして話し始めた。
「お忙しい所いきなりすみません、修一郎さんの方から御社の事業の話を聞きまして、当社もお手伝いできるのではないかと思い、お時間を取っていただきました」

 怪しいコンサルに一体何が手伝えるのか。

「営業ですか? うちは今の所なにも困ってないですよ」
「いやいや、手厳しいですね。いいでしょう、単刀直入に申します。神崎さんのお持ちの株式を200億で買い取らせていただきたい」

 は? 俺は何を言われたのか良く分からなかった。

「200億……ですか? 日本円で? ジンバブエドルとかでなく?」
 怪訝そうに答える俺に、山崎はにこやかにハキハキと言う。

「私、冗談は一切申しません。ご了解いただければ今すぐにでも日本円で200億円、振り込ませていただきます」

 これは一体どういう事だろうか……?

 俺は先月600万円出資して株式会社Deep Childの株を60%もっている。それを200億円で買いたいと言ってきているのだ。
 600万がどうして1か月で200億円になるのか?
 この男が何をやりたいのか皆目見当がつかない。
 
「お待たせしました、ビールです」

 バーテンダーが持ってきたビールを俺はゴクゴク飲んだ。
 味が良く分からない……
 グラス半分くらい空けて言った。

「ちょっと整理させてください。私が持ってるDeep Childの株を200億円で買いたいとおっしゃってるんですか?」
「その通りです」
 山崎はにっこりと笑って言う。

「先月600万で得た株を『200億で買いたい』って随分バリュエーション上がり過ぎじゃないですか?」
「神崎さん、私はあなたの偉業を高く評価しているのです。太陽興産との100億の増資契約、世界トップのAIエンジニアマーカスの獲得、とても普通の人にはできない偉業です。200億円は妥当な評価ですよ」

 うん、まぁ、何しろ神様の力だからね。

「で、俺の株を買ったらお宅はどうするの?」
「別に何もしません。神崎さんは今まで通り社長を続けてください。必要であれば我々の金主のグループが技術面、資金面でバックアップします」
そう言って100%完璧な営業スマイルで俺を見る。

「誠さん、いい話だろ? 今まで通りでいいのに200億円もくれるんだぜ!」
 能天気に修一郎が割り込んでくる。

「そうですよ、神崎さん。いいことだらけじゃないですか!」
 冴子がプッシュしてくる。

 俺はビールをグッと空けると言った。

「お断りします」

「え~、誠さん、なんでだよ!?」
「株ももたない社長なんて飾りだ。何らかのタイミングでクビだ。俺はDeep Childの事業を最後まで完遂する使命がある。クビになる可能性など受け入れられない!」

 一分のぶれもなくそう言い切った。そもそも会社はただの隠れ蓑だからな。人類の後継者を作るのが俺達の目的であって事業活動は全く考えていない。
 
「分かりました、こうしましょう。神崎さんを社長から降ろさないと一筆金主に書いてもらいましょう」
「いやいや、そんな誓約書に実効力なんて期待できない。それに俺には200億円の使い道なんて無いからな」

「え~、誠さん頼むよ~」
修一郎は俺の腕を掴んで言う。

「お前もしかして自分の株を売るつもりなのか?」
「だって、70億円出してくれるって言うんだもん。70億あったら一生遊んで暮らせるじゃん」
「もしかして美奈ちゃんもか?」
「美奈は誠さん次第だって言ってた」

 なんだよ、株式会社Deep Childは設立早々乗っ取りの危機かよ……。お前らほんと頼むよ……。
 俺は深くため息をついて頭を抱えた。

 俺は山崎に言った。
「うちの会社の根源的な価値は俺とクリスに紐づいている。強引に買い取っても俺とクリスが抜けたらもぬけの殻だぞ、わかってるのか?」
「私の仕事は御社の株を買う事です。買った後どうなるかは金主さんの問題です。我々は関係ない」
 そう言って爽やかに笑う。

「何にせよ俺は売らない、修一郎の株の売買も取締役会で否決する。お宅の乗っ取りは通らない」
 俺はそう言って席を立った。

 帰ろうとすると山崎が笑顔で言い放った。
「神崎さん、私を軽く見ない方がいい。私は今まで全ての買収案件を成立させてきた。あなたも必ず私に『買ってください』と頭下げに来る。必ずだ!」

 俺は山崎を一瞥するとドアを開け店を後にした――――

 買収なんてされたらチャットボットのCyanがハリボテだった事もバレちゃうし、最悪詐欺で捕まってしまう。何としても阻止しないとならない。

 修一郎め! お前は疫病神かよ!
 
 夜の銀座を歩きながら美奈ちゃんに電話、
「美奈ちゃん、夜遅くごめん、今いいかな?」
「あら、誠さん……どうしたの?」
「株の買収の話、聞いた?」
「シュウちゃんの話ね、聞いたわよ。70億円だって、思わず笑っちゃったわ」
「美奈ちゃんは売る気なの?」
「正直私、株とか良く分からないのよね。70億はそりゃ欲しいけど、何があるか分からなくて怖いわ」
「そうか、とりあえず売るのは止めて欲しい。売ったりしたらクリスとの約束も守れなくなるし、クリス怒らせるのはお互いためにならない」
「そうよね~。クリス敵に回して生きていけないわ。シュウちゃんも相当きついお灸据えられるはずだわ」

 美奈ちゃんはなんとか押さえられそうだ。

「ありがとう。奴らが何か言って来たら『神崎に一任してます』って答えておいて。それ以上何も言わなくていいから」
「オッケー!」

 美奈ちゃんはいい娘だな……

 修一郎と美奈ちゃんの株を両方取られると40%押さえられてしまう。そうすると特別決議が通らなくなるので経営上極めて面倒くさい事になってしまうが、何とかそれは回避できそうだ。
 


             ◇


 次はクリスと相談……。
 クリスと俺は、オフィスのマンションの別の階に部屋を借りてルームシェアしている。
 神様とルームシェアなんて実に光栄な事だよな。

 コンビニでビールとつまみを仕入れて帰宅――――

 リビングのドアを開けるとクリスはテーブルで本を読んでいた。

「…。おかえり」
 クリスはちょっとこちらを見て言った。

「クリス、ただいま。ちょっと相談いいかな?」
 クリスは本を置くとこちらを見て何かを察したようだ。

「…。どうぞ」

 俺はビールとつまみを出してクリスに勧めると、買収の事を一通り説明した。

 クリスは上を向いて目を瞑り、しばらく思索にふけっていた。

 俺はポテチをポリポリ齧りながらビールを飲んだ。

「…。天安グループだな」
「天安グループ?」
「…。中国の振興のIT企業グループだ。兆円単位でお金が余っている」
「それでAIの会社を買いたいって事かな? うちは営利目的じゃないんで標的にされるのは困るな」
「…。買収も純粋な経済行為だから悪い事ではない。ただ、Deep Childを買われるのは困る」
「何か手はあるかな?」
「…。相手のアクション待ちだな。こちらから仕掛けるには手掛かりが無い」
「了解、とりあえず修一郎にはくぎを刺しておくね」

 修一郎はただの小僧だから別に怖くないが、山崎の自信満々な態度は気になる。できる限り修一郎が余計な事をしない様に言い含めておかねばならない。

「面倒な話はここまで、ネットで評判のワインを買ったんだ、一口飲まない?」
「…。いただこう」

 クリスは爽やかに笑う。

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