キリストにAI開発してもらったら、月が地球に落ちてきて人類滅亡の大ピンチ! 前代未聞、いまだかつてない物語があなたの人生すら変えてしまう ~ヴィーナシアンの花嫁~

月城友麻

5.だからモテないのね

 俺もベランダに出たが……ムッとした熱気でクラっとする。八丁堀の地味な夜景を隅田川の支流が反射してゆらゆらと光っている。下を見るとやはり高い……心臓がヒュンッとする。いや、ここに座るのはきつい……。


 不安げな美奈ちゃんにクリスは、麻里ちゃんへ電話するように言った。
「え? 出るかなぁ?」
「…。大丈夫、今の精神状態なら出られます」
「そ、そうなの? それじゃぁ……」
 美奈ちゃんは電話を掛けた
「あ、麻里? 今大丈夫? うん、うん、あ、ちょっと待って、話して欲しい人が居るの」
 そう言ってスマホをクリスに渡す。
「はじめまして、美奈ちゃんの友達のクリスと言います。今回の事件について佐多が犯行を自供しました。処罰について麻里さんのご意見を聞かせてください。……はい……はい……お気持ちは良く分かります。ただもう自供しているので煮るなり焼くなり麻里さんのお気持ちが済むようにいくらでもという感じでして……はい……はい……では美奈ちゃんに替わります」
「麻里、ゴメンね、急で……でももう佐多は観念してるので……え?殺して?」


 なんだか不穏なキーワードが出て来たぞ……
 佐多の表情が一気に堅くなった。


「とりあえず、現在の状況はこちら……」
 そう言って美奈ちゃんは通話をビデオモードにして手すりでビビってる佐多の姿を中継し始めた。


 クリスはゆっくり中継中の美奈ちゃんを窓際まで案内し、二人の間に立った――――


 二人を交互に見ると、麻里ちゃんに言った。
「この男は重罪人だ。裁かれねばならない。どういう裁きかは麻里さんが決めてくれ」
「……」
 麻里ちゃんは黙っている。


 クリスは選択肢を挙げる。
「1、こいつをこのまま落とす」
「え? ちょっとまって……」
 佐多が涙目で懇願する。


「2、職場と恋人と親戚一同に自供内容を送って社会的に殺す」
 会社はクビ、居場所も無くなるだろうな。


「3、示談金500万円をもらう……。以上、どれがいい?」
 佐多の額に冷や汗が浮かんでいる。佐多にとってはどれも相当にしんどい話だ。


「本心で言えば1……」
 スマホのスピーカーから麻里ちゃんの声が響く。
 佐多の頬がピクっと動く。


 クリスがちょっとわざとらしく押す振りをする。
 佐多の額に冷や汗が流れる。


「え? これ1を選んだら本当に落とすんですか?」
 麻里ちゃんの質問にクリスは力強く伝える。
「…。もちろん」


 佐多の表情が険しくなる。


「自供を送るのも……いいわね……」
 佐多が口を真一文字にしてうつむく。


「うーん、殺すのは……ちょっと後味悪そう……だよね? 美奈はどう思う?」
「麻里の好きにしなよ。殺したければ殺しちゃおうよ、こいつはそれだけの事をしたんだ。自業自得よ!」


 佐多は厳しい顔して目を閉じる。自分の犯した罪の重さをしっかりと感じて欲しい。


「美奈だったらどうする?」
「私? 私だったら迷わず殺すわよ!」
そう言って佐多をキッと睨んだ。


「……。美奈ありがと……。決めたわ……。お金にするわ。500万あったら海外旅行行けるし」
 麻里ちゃんは少し吹っ切れたような声で言った。


「…。お金でいいのか?」
「どれ選んでも私の人生についた傷は消えない……だったら復讐というより楽しい事できるお金の方が……いいかなって」
「…。そうか……」


 クリスは佐多に向き直ると
「…。500万用意しろ。今週中に振り込む事。振り込まれなかった場合警察に通報し、写真をみんなに送る。いいな?」
「ちょ、ちょっと待って! 今週中に500万なんて大金無理だよ!」
 顔を真っ赤にして反論する佐多。


「…。君のパパに土下座しなさい。君のパパなら500万円位すぐに貸してくれる」
「いや、でも、パパとは今喧嘩してて……」
「お前の都合など聞いてない、振り込まれなければ通報するまで。良く考えなさい」
 クリスはそう言い放つとドン! と佐多の胸を右手で強く押し放った――――


「うわっ! ギャ―――――!!!」
 不意を突かれた佐多は空中を両手でもがくとそのまま後ろに落ちていった。


 俺も美奈ちゃんもクリスの突然の凶行に唖然としたが、すぐに手すりに走り寄って下を見た。


「うぉぉぉぉー!!」
 喚きながら佐多は真っ逆さまに落ちていき……途中淡い光に包まれて自転車置き場の脇に落ちた。


 ボヨヨォン~


 弾む音がしてスーパーボールのように大きく跳ね返り、3階ぐらいの高さまで跳ね上がった。
「おぉぉぉ~!」
 まだ佐多は喚いている。生きているようだ。良かった。


 再度落ち、自転車にぶつかり、自転車置き場の屋根と壁の辺りをドガガガガと高速に往復しながら弾み、横のゴミ置き場に吹き飛んだ。


 バーン!


 ゴミ袋が破裂し、佐多は動かなくなった。


 人間ピンボールである。こんなの初めて見た。


「アッハッハ―――――ッ! ハッハッハ―――――ッ! ひー苦しいぃ」


 スマホの向こうから凄い笑い声が聞こえる。
 自分を襲ったレイプ魔が人間ピンボールになってゴミ置き場に転がってるのだ、相当に気が晴れたに違いない。


 美奈ちゃんも腹を抱えて笑いながら部屋に転がった。
「誠さん、見た? あいつ『うぉぉー』だって! バーッカじゃないの! ハッハッハ―――――ッ! ヒ―――――ッ! あー苦しぃ!」


 この二人、すごい気が合うんだろうな―――


 クリスが玄関から佐多の靴を持ってくると一つをゴミ捨て場に転がってる佐多に向けて投げつけた。靴は手前で大きくバウンドして佐多の頭に当たる。
 佐多はそれで気が付いたのか頭をさすりながらゆっくり起き上がった。


「あー、クリス!」
 美奈ちゃんが笑い過ぎてハァハァいいながら立ち上がった。


「私も投げるぅ!」
 そう言ってクリスから靴を奪うと、


「麻里! 見ててねっ!」
 そう言って、


「レイプ魔! 死ね――――!」
 そう叫びながら佐多に向って勢い良く投げた。


 靴は佐多の向こうのゴミ置き場の壁に落ち、バウンドして佐多のお尻に当たった。
「当たりぃ~!」
 また美奈ちゃんはゲラゲラと笑い出した。


 佐多は靴を拾うと履いてよろよろよろけながら帰って行った。
 お気の毒だと思う反面、あのレイプ写真を思えば自業自得だろうとも思う。
 500万円用意してもらうしかない。


 美奈ちゃんは一通り笑い終わると麻里ちゃんと電話で話し始めた。


「うん……、うん……、良かったね……。大学……来てね……。待ってるからね……。うん……。うん……。」
 美奈ちゃんの目に涙が光っていた。


 電話が終わると美奈ちゃんはクリスに抱きついてお礼を言った。
「おかげで麻里はなんか吹っ切れたみたい。クリスのおかげ、本当にありがとう」
 そして頬に軽くキスをした。
 ちょっと妬ける。


「…。それは良かった」
 クリスは彼女をハグしながら微笑んだ。


「500万円、本当に払うかなぁ?」
「…。それは大丈夫。正しい賠償だ」
「そう? じゃ、麻里と海外旅行でも行こうかなぁ?」
 美奈ちゃんはニコニコしている。


 一件落着、これは乾杯しなくては。
「さぁ、麻里ちゃんの500万円に乾杯するぞ~!」
「うふふ、いいね!」
「カンパーイ!」「カンパーイ!」


 俺は缶ビールを一気に飲み干した。


 Ariana Grandeの熱唱が3人を包む。


 その後明け方まで楽しく飲んで―――
 美奈ちゃんは始発で帰るらしい。


 帰り際、玄関に見送りに来た俺に、靴を履きながら美奈ちゃんが言った、
「誠さんはレイプしちゃダメよ!」


 俺はムッとして
「俺は女の子の嫌がる事は絶対にやらないの!」
 と、胸を張って言った。


 ところが――――


「うーん、だから誠さんモテないのね」
 美奈ちゃんはそう言って肩をすくめて天を仰いだ。


「えっ!? ちょっと、それはどういう……」
 俺が言い返そうとすると美奈ちゃんはピンと伸ばした人差し指で俺の口をふさぎ、琥珀色の瞳で俺を見据えながら


「安全地帯に居るから大丈夫、なんて一番ダメな発想だわよ!」
 そう言い放つと軽くウィンクをして、クルっと背を向けて帰路についた。


 俺は呆然としながら後姿を見送っていると、
「また明日~」
 と、手を振りながらエレベーターに入っていった。


 俺はあまりの事に混乱していた。今まで人として誠実であれと思って生きてきて、それを正しいと疑ってなかったが、女子大生にダメ出しをされてしまった。レイプもダメだが誠実もダメ……。これは一体どういう事だろうか……。







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