問一 この三角関係の答えを求めてください。
問七
ゆっくりとした足取りで向かった先は、学校。少し前に下校時間は過ぎているが、校門の前に人影が二つ見えた。
一人はあたしの想い人、そしてもう一人はあたしの心を許せる数少ない友達。
そんな二人が目に涙を浮かべながらも笑いあっている。
ああ、これでよかったのだと心の底から思えたらいいのに。どこかで友達を羨んでいるあたしがいる。
本当は想い人の目の前には、あたしがいるはずだったのではないか。そんなこと思いたくないのに、そう思えてならない。
「もう、たかくんは覚えてないんだろうな……」
頭につけていた髪留めを手に取り、昔の出来事を思い出す。
さっきの駄菓子屋にいた子供に助太刀に入ったのは、昔の彼とあたしに重なって見えてしまったからだ。
〜回想〜
十年ほど前。観光できた町で親とはぐれ、迷子になって泣きじゃくっていたあたしに、彼は優しく声をかけてきてくれた。
「どうしたの? 大丈夫?」
「うわぁーん。ひっく、ひっく」
会話もおぼつかないほどに号泣していた私に、彼は何も言わずその場を立ち去る。
そして、数分後。
「はい。これ、あげる」
「ぐすっ、ぐすっ。……なんで、くれるの?」
手渡されたのは、袋に入った新品の髪留め。
「いや、別に。みなちゃんが泣いてる子には優しくしろって言ってたからじゃないし」
「そっか。何だかわかんないけど、ありがとうね」
礼を言われ、照れ臭そうに顔を背ける彼。いつの間にかあたしの顔は、ふてくされた不細工な顔から可愛い笑顔に変わっていた。
早速袋から取り出し、髪につけてみる。
「うん。めちゃくちゃ似合ってる!」
「そう、かな……?」
お世辞でもない褒め言葉を満面の笑みで告げられ、こちらも照れてしまう。
「そういや、お前、迷子なんだろ? この辺りは道が入り組んでるからな。俺が大通りまで案内してやるよ」
「いいの? でも、わざわざそんな」
「ふっふっふ。俺を誰だと思ってんだ! この南森 隆司、通称たかくんはこの辺りじゃ有名なんだぞ!」
「へー、そうなんだね!」
「歩きながら俺の数ある武勇伝を聞かせてやるよ!」
それはどれも他愛のない話であったが、どれもこれもがあたしを笑かそうと、元気付けようとしてくれる話ばかりであった。
その後、大通りに出たところで、ケータイを片手に切羽詰まった様子のお母さんと再会する。
お母さんに強く抱きしめられながら「一体どこ行ってたの!?」と聞かれ、彼のことを話そうとするも彼はそこにはいなかった。
さっきの彼は幻だったのかと錯覚するも、頭についている髪留めが彼の存在を物語っていた。
「(南森 隆司くん。たかくんか……)」
あたしは彼の名前を反芻し、何度も何度も思い返していた。
〜回想終了〜
高校に入ってから彼の存在に気づき、大切にしまっていたこの髪留めを身につけて見たものの、彼はとうに忘れてるみたい。名乗ってもいないのだから覚えていなくても当然かもしれない。
昔の思い出に縛られ身動きが取れないでいる私に、そっと優しく寄り添ってくてくれたのは想い人のまえにいる女の子だけだった。
「あたしは所詮ただの負けヒロイン。だから、こんなもの……!」
髪留めを握りしめ遠くへ投げ捨てようと試みるものの、脳が、体が、腕が動かない。
捨てるのを諦めてその場でうなだれるあたしの元に、小さな足音が二つ駆け寄ってくる。
「お姉ちゃん! さっきはありがとう! これあげる!」
それはさっきの駄菓子やにいた二人で、手をつないでいる状況から察するにプレゼント作戦は成功したみたいだ。
「これ、どうしたの?」
男の子から手渡されたものは、小さな可愛らしい小物入れ。
「女の子はゴムとかヘアピンとか入れるものが必要だってたまちゃんが言ってたから!」
男の子の後ろに隠れるたまちゃんは、恥ずかしそうにコクコクと頷く。
「そっか、ありがとね。わざわざ探してまで」
受け取ろうとした手に握っていたのは、愛用の髪留め。それを乱雑にカバンの中にしまい込む。
すると、先ほどの場面を見られていたか、男の子が不思議そうに問いかけてくる。
「お姉ちゃん、それ捨てちゃうの?」
「え? いや、これは……」
「もったいないよ。それめちゃくちゃ似合ってるのに」
その言葉に、思わずドキリとしてしまう。それは昔、この髪留めを彼からプレゼントされた時にかけてもらった言葉と同じだったからだ。
「……そうだよね。ありがとう。二人は例えどんなに遠く離れてもお互いのこと忘れちゃダメなんだよ? わかった?」
「「うん!」」
二人が笑顔で同時に頷く。あたしは二人の頭を撫でてからお別れする。
その言葉は、今のあたしみたいになってほしくないという願いから無意識に口から出ていた。
そして、誰もいなくなった学校前。再び髪留めを頭につけ、一つ大きな決意をする。
「やっぱり、あたしももう少し頑張ってみようかな!」
空には晴れ間がさし、いつの間にか雨は止んでいた。
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