問一 この三角関係の答えを求めてください。

花水木

問五


 その日の下校時、急な通り雨で沢山の人が下駄箱の前で雨が止むのを待っている中に、隆司とみどりの姿を見つける。二人はそれぞれの友達と談笑し、お互いの存在を気づいてなさそうだった。
 私の鞄の中には、小さい頃に隆司から誕生日プレゼントで貰った一本の折りたたみ傘がいつも入っている。
 私は隆司に声をかける前に、これをどう使うか少し考える。

 今、隆司に一緒に帰ろうと言えたら良かったのに。
 でも、そんなことは絶対に言えない。もう隆司の口から本心を聞いてしまったのだから。
 隆司が本当に相合傘をしたいのは、私じゃなくてみどりなんだもんね。そう思い至った私にできる行動と言えば、もうこれくらいだった。

「隆司ってば傘忘れちゃったの? 鈍臭いなー、もう! 仕方ないから私の折りたたみ傘貸してあげる」

「えっ、まじでいいの!? でも、それじゃあお前が雨に濡れちゃうんじゃないのか?」

「いいのいいの。私は教室に予備の置き傘があるから。それよりも、あそこにみどりが傘なさそうにして困ってるから、誘って一緒に帰ったらいいんじゃない?」

「おぉー! みな子まじサンキュー!」

 私から傘を受け取り、みどりの元へ向かおうとした時、さっきまで隆司と喋っていた相手の大原くんがしゃしゃり出てくる。

「おいおい、南森。今日は帰りに限定タピオカミルクティー飲みに行こうって言ったじゃんかよー!」

「あ、そうだったよな」

 何事にも断れない性格の隆司は、大原くんの流行に便乗しようと必死な女子みたいな誘いを断れない様子だった。
 それを横で見ていた私はため息をついてから、仕方が無いので助け舟を出してあげる。

「あー、そういえば。隣のクラスの松井 美預子ちゃんがタピオカ飲みたいなー、って言ってた気がするなー」

「えっ!? あのナイスボディーの美預子さんが!?」

 大原くんが話に食いついたのを見て、わざとらしく独り言をつぶやく。

「今、誘ったら絶対ついてくると思うなー。誰か美預子ちゃんを誘ってあげないのかなー」

「悪い、南森。俺、今日ちょっと用事出来たからさっきの話なしで!じゃあな!」

「お、おう。そうか」

 大原くんが有無を言わさない速度で走り去っていき、隆司は展開の速さに呆然としていた。大原くんのえも言えない単純さは、扱いやすくて助かる。
 美預子ちゃんはそんなこと言ってなかったんだけど、誘えるかどうかは大原くんの腕次第ということで。
 そんなことよりも、

「ほらっ、なにやってんの。早くしないと雨があがっちゃうかもしれないし、早く行った行った」

「そ、そうだな。ありがとうな。みな子」

 壁の裏に隠れながら隆司が緊張して片言になりながらもみどりちゃんを誘い、一緒に帰って行くのを見送る。
 それからゆっくりと教室に戻り、もう誰もいなくなった廊下で一人、一粒の雨が頬を伝って地面に落ちる。



 そして、少し時が経つ。だが、まだ外は小雨がまだ降り続いて涙も雨に紛れて消えていく中、一人寂しくとぼとぼと帰っていると、突然小雨が止んだ。

 あまりにも突然だったので辺りを見回すと、私の頭の上には後ろから誰かが手を伸ばし、傘がさされていた。

「ごめん、みな子。俺、お前の気持ちに気付いてやれなくて……」

 そこには、さっきみどりと一緒に帰ったはずの隆司の姿がある。
 隆司は自身が濡れるのもかまわず、私に傘を傾けて、深く深く頭を下げる。

「俺、さっき前川さんから聞いたんだ。お前の気持ちを。前川さんは自分の思い過ごしかもしれないって言ってたけど、もしそうなんだったとしたら笑い飛ばしてくれ」

 その言葉を聞いて泣きじゃくる私を見て、全てを察したのか真剣な面持ちで続ける。

「今思えば、気づけない鈍感な俺も悪かったと思う。だいぶヒントをくれていたのにな」

「そっ、そんなことない。私は、私はただ隆司の恋を邪魔したくなくて……」

 涙を手の甲で拭い、言葉に嗚咽を含みながら答える。

「別にそんなこと、気にしなくていいのによ」

 隆司は微笑みを浮かべながら、私の頭を優しく撫でて呟く。
 そして隆司は少し口籠り、何か言うのを躊躇ったが、ため息を吐いてから口を開く。

「これも前川さんから聞いたんだけど、俺のいいところをそれとなく前川さんに伝えてくれてたらしいな」

「そ、それは……」

「みなちゃん、ありがとな」

「うん」

 二人目が合うと、隆司は顔を背けて照れ臭そうにする。

「それと……。その髪型、似合ってるぞ」

「ありがと。たかくんもいつもよりかっこいいよ」

「おうっ!」

 空は晴れ間が差し、いつの間にか雨は止んでいた。

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