問一 この三角関係の答えを求めてください。
問二
いつもと変わらない授業風景。黒板の前に立つ三木 紳一郎先生は分厚い教科書を片手に板書をし、問題を綴ったところで振り返る。
「では、この問題を。今日は二十五日だから出席番号25番の、えー、じゃあ南森くん。答えてください」
「ぐがぁー、すぴー。むにゃむにゃ……」
お昼過ぎの一番眠たい時間で睡魔に勝てなかったのか、隆司は机に教科書を立てて居眠りをしていた。
「おい! 南森、起きろって。当てられてんぞ」
みるに見かねた後ろの席の大原 栄二くんが背中を小突いて隆司を起こす。
「んぁ? もう授業終わったのか?」
寝ぼけ眼をこすりながら起き上がり、あたりを見渡してある程度の状況を察する。
「南森くん! 君は授業を受ける気があるのかい!?」
「いや、あの、はい。ちゃんと聞いてました!」
「む、そうだったのか。ならこの問題の答えは何だ?」
「答えは、エントロピーです!」
教科書を逆さに持ち自信満々にそう答えるが、三木先生の顔はみるみる赤くなっていき、周りからは笑いをかみ殺す声が聞こえる。
「……本当に、君はその答えが正解していると思っているのかい?」
「南森、教科書15ページを見たらわかるぞ!」
怒気を孕んだ三木先生の声で問題の間違いを悟って、大原くんのアドバイスもあり、手にしていた教科書を持ち直して、目に入った文字を口に出す。
「あっ、間違えました。本当の答えはエンタルピーです」
「馬鹿っ! 南森、今は化学じゃなくて国語の時間だぞ!」
「ぅえっ!? まじかよ」
大原くんが指摘するも時すでに遅し。四時限目の化学の時間から教科書を入れ替えていなかったのが、仇となってしまう。
「南森くん。この授業が終わったらすぐに職員室の私のところまで来るように。いいかね?」
「……わかりました」
三木先生は頬を引きつらせて怒りを抑えながら隆司を呼び出し、何事もなく授業を進めていった。
休み時間。ふと、隆司の方に目を向けると、さっきの授業のペナルティーを与えられたのか、机の上に山積みの国語ノートやプリントが置かれていた。
「それ、どうしたの?」
「ん? あぁ、これか。先生に怒られた挙句罰として運ばされたんだよ。まだあとこの倍は運ばなくちゃいけないし。ったく、栄二がもう少し早く教えてくれてたらこんなことにはならなかったのによ」
疲れ切った様子の隆司は、大原くんを睨みつけながらそんなことをぼやく。
「ふ、ふーん、そうなんだ。なんだったら手伝ったあげようか?」
「えっ!? いいのか! それはマジで助かる」
「別に隆司のためじゃなくて、私が早くプリントを返してもらって勉強したいだけだからねっ!」
「理由なんてどうでもいいや、じゃあちゃっちゃと終わらせようぜ!」
態とらしくツンデレを演じてみるも、隆司には効果がないみたいだった……。こいつを振り向かせるには、効果抜群か一撃必殺の技を覚える必要があるみたい。絶対零度かハサミギロチンで瀕死にさせてポケモンセンター送りにしてやろうかな。
塔の離れた準備室からプリントを隆司と二人で運んでいると、前触れもなく急に隆司の足がピタリと止まる。
「ちょっと、なにしてんの? 早く行くよ」
「ん? あ、おう。そうだな」
横にある渡り廊下のほうばかり見て何があるんだろうと思い、私も首を向けてそっちを覗いてみると、視線の先にはみどりがいた。
「……っ!」
「うぉっ、いってぇ!?」
私の気持ちにも気づかずに、隆司がみどりに見え透いた好意を寄せている事に無性に腹が立ち、おしりを軽く蹴ってやる。
すると、隆司は持っていたプリントを廊下にばらまいてしまい、拾う羽目になってしまった。
「あらら、大丈夫?」
そんな私たちを見るに見かねて、みどりは周りにいた友達との談笑を中断し、プリントを拾うのを手伝ってくれる。
「いやー、ごめんな。急にこのバカがじゃれてくるからさぁ」
そう言いながら、隆司は私の後頭部を掴んで強引に下げさせる。
「はい。これ、どうぞ」
「あ、どうもありがとう。前川さん」
私にだったら何とも思わないくせに、みどりと少し手の先が触れたくらいで目に見えて動揺する隆司。
「みな子ちゃんもあんまり南森君にいたずらとかやり過ぎちゃうと嫌われるかもよ」
「う、うん……。そうだね」
みどりが冗談交じりに言ったその言葉に、私は複雑な笑みで返すほか無かった。
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