♗CHECK♝
第24話 撤退
ーとある一室ー
「ただいま参りました」
「状況はどうですか?」
「帰還の報告はありません」
「そうですか。では引き続きよろしくお願いします」
「ハッ!」
城の兵士らしき人物は一礼し部屋を出た。その部屋には背の低い小太りな男1人だけだった。
「さてどうなることでしょうねぇ」
ー森の奥ー
「こいつはさっきのやつらの比じゃねぇ!逃げるぞ」
「そうはいかん。こいつが町に現れれば大変なことになる。ここで食い止めるぞ」
(チッ話にならん。変に正義感の強いやつは人の話を聞かない。大した力もないのにどうやって食い止めるつもりなんだ。)
「ひぃぃぃ」
さっきまでの威勢はどこにいったのやらお調子者が来た道めがけて走り去る。利口な判断だ。
(しかし問題はこの魔物は逃げる者を襲うということ。)
「グオォォ」
(だがこの距離なら流石に偽善者を狙うはず。)
クロとめんどくさがりがカバーに入る。しかし予想は外れた。クロ達には目もくれず真っ先に逃げるお調子者を追いかける。
(やはり逃げるものを優先して襲うのか。)
「そうはさせまい!」
隊長が立ちはだかる。ソードベアは勢いを殺さず隊長目掛けて突進する。
カキンッ!
振り下ろしたはずの刃が宙を舞っている。隊長の刀が折れている。そんな隊長に構わず魔物は逃げる者に襲いかかった。
「だずげでぇぇ」
お調子者はものの数秒で動かなくなってしまった。初めての人の死。だが不思議と恐怖はない。
それはとても当たり前のことだった。弱者は淘汰される・・・クロにとって弱肉強食こそが唯一無二のルールなのだから。
(こいつあの時の個体よりもはるかに強くないか?)
クロはそんな疑念を抱いていた。魔物は次の獲物を狙い動き出す。当然のように偽善者だ。
「くっ、危ねぇ!」
あのめんどくさがりが仲間の偽善者のために身を挺した。鋭い爪が背中に食い込む。
「ぐわぁ」
悲痛な叫びと共にようやく偽善者は我に返った。
「お前、俺のために・・・」
「早・・く逃げ・・・ろ」
「逃げろったってどうやって・・・」
「オレに考えがある」
クロだった。
「おいお前、そいつを背負って逃げろ。オレが時間を稼ぐ。」
「それじゃあ、お前が死んでしまうぞ」
「死ぬ気はない。お前達がある程度逃げたらすぐに追いつく。出来るだけ遠くまで逃げろ」
そう言ってクロは魔物に立ち向かう。彼らも怪我人を背負い走り出す。当然魔物はそうさせてくれない。3人目掛けて襲いかかる。
「如月!」
カンカンッ!
金属同士がぶつかり合う音が森中に響きわたる。
(硬い!)
少しは手応えがあったのか、魔物は動きを止めクロを睨みつける。
「久しぶりだな、まぁお前とは初対面か」
「グオォォ」
「あの時の借り、返させてもらうぜ化け物!」
激しい攻防が続いたがクロが優勢になることはなかった。
(やはり強さの格が違う!)
負傷した仲間を抱え必死で逃げる兵士達に近づく影があった。
「おい、お前どうしてここにいる!?」
「もしかして君がここにいるってことはまさか・・・あの魔物を倒したのか!?」
「そんなわけないだろ」
1分経っただろうか。クロは時間稼ぎすらできないと判断。作戦変更である。作戦は命大事に!
後ろからは殺意を剥き出しにした魔物が全力で追いかけてくる。
「このままじゃ町まで連れて行ってしまうぞ」
「町まで連れて行くつもりだが、何か問題か?」
「おい、私の話を聞いてなかったのか?このままでは町に被害が及ぶ」
「その前に町の見張りに連絡して町の外で倒せば問題ないだろ?」
隊長は少し割り切れない表情を浮かべながらも部下を鼓舞した。
「そうだな、もう少しの辛抱だ。我慢してくれよ」
「だがしかし、このままではじきに追いつかれてしまう」
「その時はまたオレが時間を稼ぐ」
「君はもうヘトヘトじゃないか」
さすがは隊長格。クロはさっきの1分にも満たないような命のやり取りで体力を消耗していた。それほど一瞬一瞬に集中していたのだ。
「おい、こいつを頼む」
怪我人を偽善者に預けて隊長は魔物に向かって走り出す。
「おい、待て!」
思わずクロも追いかける。
「優秀な侍のタマゴをみすみすここで失うわけにはいかん」
「悪いなおっさん、オレは侍じゃなくて・・・」
クロが隊長を追い越す。
「忍なんだよ」
クロの刀は青白い電撃を纏っていた。雷属性。それがクロの適正だった。
シロと同じくあまり忍術は得意な方ではなかったが彼ほどひどくはない。自分の周りに電撃を発生させるくらいには扱える。当然それは刀に纏うことも可能だった。
「雷迅剣(らいじんけん)!」
電気を帯びた突きが魔物目掛けて突き刺さる。
カキーンッ!バチバチッ
「グオォ」
雷で強化した刀でも簡単に折れてしまった。しかし効果はあったみたいだ。刀の先は奴に突き刺さっていた。それに電撃の効果で体を麻痺させたようだ。
(これなら!)
クロは持っていた毒煙玉を顔面めがけて投げつけた。
「ガルルルルゥ」
毒も効いたのか、もがき苦しみ出した。
「よし、逃げ・・・」
「よくやった少年、あとは私に任せて早く逃げろ」
「そっちは町じゃないだろ!」
「やはり私は町に被害が及ぶ可能性は出来るだけ無くしたい。すまないな、あいつらを頼む」
麻痺が解けたのか魔物がゆっくり動き出す。ターゲットは森の奥へ逃げた隊長のようだ。
「・・・くそ」
クロは割り切れないまま町へ走り出した。少し走ったところで人影が見えた。偽善者だ。偽善者は周囲を見回すなりクロに尋ねる。
「隊長は?」
「・・・」
クロは答えなかった。
何故だろうさっきは目の前で人が死ぬのを見てなんともなかったのに死んだかどうかわからない人間を思うと胸が痛む。
(なんだ?この感じは?あいつら弱者。死ぬのは当然のはず・・・なのになんでこんなにも胸が苦しいんだ?)
「そうですか・・・」
偽善者は悟ったようだ。
町に着くまで会話はなかった。
ー町 西の門ー
町に着くなりクロは異変に気づく。
(見張りがいない?だが今はそれどころじゃない)
「その怪我人、オレに任せてくれないか?」
「誰か知り合いに医者でも?」
「ああ」
「わかりました、お任せします」
「お前は今から城に戻るのか?」
「ええ、そのつもりですが」
「ならこう報告してくれ。『生存者は自分だけ』だと」
「ただいま参りました」
「状況はどうですか?」
「帰還の報告はありません」
「そうですか。では引き続きよろしくお願いします」
「ハッ!」
城の兵士らしき人物は一礼し部屋を出た。その部屋には背の低い小太りな男1人だけだった。
「さてどうなることでしょうねぇ」
ー森の奥ー
「こいつはさっきのやつらの比じゃねぇ!逃げるぞ」
「そうはいかん。こいつが町に現れれば大変なことになる。ここで食い止めるぞ」
(チッ話にならん。変に正義感の強いやつは人の話を聞かない。大した力もないのにどうやって食い止めるつもりなんだ。)
「ひぃぃぃ」
さっきまでの威勢はどこにいったのやらお調子者が来た道めがけて走り去る。利口な判断だ。
(しかし問題はこの魔物は逃げる者を襲うということ。)
「グオォォ」
(だがこの距離なら流石に偽善者を狙うはず。)
クロとめんどくさがりがカバーに入る。しかし予想は外れた。クロ達には目もくれず真っ先に逃げるお調子者を追いかける。
(やはり逃げるものを優先して襲うのか。)
「そうはさせまい!」
隊長が立ちはだかる。ソードベアは勢いを殺さず隊長目掛けて突進する。
カキンッ!
振り下ろしたはずの刃が宙を舞っている。隊長の刀が折れている。そんな隊長に構わず魔物は逃げる者に襲いかかった。
「だずげでぇぇ」
お調子者はものの数秒で動かなくなってしまった。初めての人の死。だが不思議と恐怖はない。
それはとても当たり前のことだった。弱者は淘汰される・・・クロにとって弱肉強食こそが唯一無二のルールなのだから。
(こいつあの時の個体よりもはるかに強くないか?)
クロはそんな疑念を抱いていた。魔物は次の獲物を狙い動き出す。当然のように偽善者だ。
「くっ、危ねぇ!」
あのめんどくさがりが仲間の偽善者のために身を挺した。鋭い爪が背中に食い込む。
「ぐわぁ」
悲痛な叫びと共にようやく偽善者は我に返った。
「お前、俺のために・・・」
「早・・く逃げ・・・ろ」
「逃げろったってどうやって・・・」
「オレに考えがある」
クロだった。
「おいお前、そいつを背負って逃げろ。オレが時間を稼ぐ。」
「それじゃあ、お前が死んでしまうぞ」
「死ぬ気はない。お前達がある程度逃げたらすぐに追いつく。出来るだけ遠くまで逃げろ」
そう言ってクロは魔物に立ち向かう。彼らも怪我人を背負い走り出す。当然魔物はそうさせてくれない。3人目掛けて襲いかかる。
「如月!」
カンカンッ!
金属同士がぶつかり合う音が森中に響きわたる。
(硬い!)
少しは手応えがあったのか、魔物は動きを止めクロを睨みつける。
「久しぶりだな、まぁお前とは初対面か」
「グオォォ」
「あの時の借り、返させてもらうぜ化け物!」
激しい攻防が続いたがクロが優勢になることはなかった。
(やはり強さの格が違う!)
負傷した仲間を抱え必死で逃げる兵士達に近づく影があった。
「おい、お前どうしてここにいる!?」
「もしかして君がここにいるってことはまさか・・・あの魔物を倒したのか!?」
「そんなわけないだろ」
1分経っただろうか。クロは時間稼ぎすらできないと判断。作戦変更である。作戦は命大事に!
後ろからは殺意を剥き出しにした魔物が全力で追いかけてくる。
「このままじゃ町まで連れて行ってしまうぞ」
「町まで連れて行くつもりだが、何か問題か?」
「おい、私の話を聞いてなかったのか?このままでは町に被害が及ぶ」
「その前に町の見張りに連絡して町の外で倒せば問題ないだろ?」
隊長は少し割り切れない表情を浮かべながらも部下を鼓舞した。
「そうだな、もう少しの辛抱だ。我慢してくれよ」
「だがしかし、このままではじきに追いつかれてしまう」
「その時はまたオレが時間を稼ぐ」
「君はもうヘトヘトじゃないか」
さすがは隊長格。クロはさっきの1分にも満たないような命のやり取りで体力を消耗していた。それほど一瞬一瞬に集中していたのだ。
「おい、こいつを頼む」
怪我人を偽善者に預けて隊長は魔物に向かって走り出す。
「おい、待て!」
思わずクロも追いかける。
「優秀な侍のタマゴをみすみすここで失うわけにはいかん」
「悪いなおっさん、オレは侍じゃなくて・・・」
クロが隊長を追い越す。
「忍なんだよ」
クロの刀は青白い電撃を纏っていた。雷属性。それがクロの適正だった。
シロと同じくあまり忍術は得意な方ではなかったが彼ほどひどくはない。自分の周りに電撃を発生させるくらいには扱える。当然それは刀に纏うことも可能だった。
「雷迅剣(らいじんけん)!」
電気を帯びた突きが魔物目掛けて突き刺さる。
カキーンッ!バチバチッ
「グオォ」
雷で強化した刀でも簡単に折れてしまった。しかし効果はあったみたいだ。刀の先は奴に突き刺さっていた。それに電撃の効果で体を麻痺させたようだ。
(これなら!)
クロは持っていた毒煙玉を顔面めがけて投げつけた。
「ガルルルルゥ」
毒も効いたのか、もがき苦しみ出した。
「よし、逃げ・・・」
「よくやった少年、あとは私に任せて早く逃げろ」
「そっちは町じゃないだろ!」
「やはり私は町に被害が及ぶ可能性は出来るだけ無くしたい。すまないな、あいつらを頼む」
麻痺が解けたのか魔物がゆっくり動き出す。ターゲットは森の奥へ逃げた隊長のようだ。
「・・・くそ」
クロは割り切れないまま町へ走り出した。少し走ったところで人影が見えた。偽善者だ。偽善者は周囲を見回すなりクロに尋ねる。
「隊長は?」
「・・・」
クロは答えなかった。
何故だろうさっきは目の前で人が死ぬのを見てなんともなかったのに死んだかどうかわからない人間を思うと胸が痛む。
(なんだ?この感じは?あいつら弱者。死ぬのは当然のはず・・・なのになんでこんなにも胸が苦しいんだ?)
「そうですか・・・」
偽善者は悟ったようだ。
町に着くまで会話はなかった。
ー町 西の門ー
町に着くなりクロは異変に気づく。
(見張りがいない?だが今はそれどころじゃない)
「その怪我人、オレに任せてくれないか?」
「誰か知り合いに医者でも?」
「ああ」
「わかりました、お任せします」
「お前は今から城に戻るのか?」
「ええ、そのつもりですが」
「ならこう報告してくれ。『生存者は自分だけ』だと」
コメント