♗CHECK♝

✇忍冬✇

第6話 氷遁使い

「我と契約せよ・・・そして・・・変革を・・・我が名は・・・」

(まただ、昨日の今日で少し疲れが溜まってるのかな?)

優しい振動と共にシロは目を覚ました。

「相変わらず双子揃って問題児ですね。座学は終わりましたよ!次は実技の時間です。あなたの氷属性はとても貴重なんですから、しっかり術を磨いてくださいね。
私は先に行って準備をしてくるのであとは神無さんにおまかせします。」

「先生は優しすぎ・・・それにシロの術は氷属性と呼べる域にすら至ってない・・・あの時を除いて」

「ははは、そうかもしれないですね、先生も真白くんの術を見てみたかったですね。それでは次からは神無さんに頼みますね。」

「先生それだけはやめてください。」

シロが懇願する。

この人は風魔 才蔵先生。主に忍術担当で人柄もよく門下生から人気の先生。それに風魔一族と言う戦闘のプロの家系で、特に忍術は忍の中でもトップクラス。それに昔は紅蓮兄さんと並ぶ神童とまで言われた人なんだって。

「早く実技棟に行くわよ・・・」

「はい・・・」

(話を聞く限りそれは多分「半覚醒」やはりあの子・・・いえ瑠璃さんも含めあの子達には何か人とは違う力を所持していることは間違いなさそうですね。そうなると紅蓮も・・・非常に興味深い。)


〜5年前〜


シロとクロと神無はいつものように一緒だった。近くにはシロ達の住む屋敷があり少し歩けば町もあった。この近くの平原がシロ達の遊び場であった。この辺りはまだ人通りの多いせいか魔物はいなかった。
だが囲むように森が生い茂っている。魔物というのはそういった場所に多く生息している。当然森への立ち入りは禁止されている。

だが子供にそんな道理は通用しない。

「今日は森の中に探検だ!」

「ダメだよクロ、森には入っちゃダメってみんな言ってたじゃん」

「森は危険・・・だと思う」

「そんなの入ってみないとわかんないぜ」

「魔物がいたらどうするの?」

「ハァ〜、シロは心配性だなぁ、そんなのオレが追い払ってやるよ!」

クロは1人森の中に入っていく。

「ちょっと待ってよ、クロ」

シロと神無もしぶしぶクロを追いかけた。

「あれ?森に入って行ったの真白兄達だ。ずるいずるい!母さんに言いつけちゃお!」

黄色いポニーテールの女の子は急いで屋敷へ向かって走り出した。

ー森の中ー

「な!何もいないだろ?」

「確かにいないけど、それはそれで怪しくない?それとカンナちゃん動きづらいんだけど」

(あの無表情のカンナちゃんが震えてる。魔物が怖いのかな?)

「シロが怖がらないように側にいてあげてるだけ・・・」

(強がっちゃって、カンナちゃんも女の子ってことだね。1つ弱点発見っと)

「それにしてもけっこう奥まで来た気がするけど、そろそろ戻ろうよ」

(ボクも魔物が平気なわけじゃないからとっと帰りたいんだけど)

「賛成・・・」

当然神無も帰る組だった。

「そうだな、これ以上特に何もなさそうだな。引き返そ・・・ん?なんだこれ?」

クロは何かを踏みつけたらしい。3人でそれを確認する。それは白い棒状の形をしていた。

「えっと・・・骨なのかな?」

「おい!あっちにもあるぞ!」

「ちょっとクロ、これ以上はまずいよ」

「・・・」

神無はシロにしがみついて離れなかった。少し進んだ先にクロは何やら動く物体を視認した。そこにようやく2人が追いついた。クロは2人に向かって静かにするよう合図を出していた。

「この骨の犯人はどうやらあいつみたいだぜ。どうりでこの辺りに魔物がいないわけだ」

「何あれ?熊?」

「・・・」

神無はすでに限界であった。全身が刃でできた毛皮のようなものに包まれた熊を見て意識を保つのがやっとだった。

「まずいことになったな。確かアイツはC・・・いやBランク相当の化け物のソードベアだ。この城の兵士なら300人がかりでも厳しいだろうな」

クロはこう見えて物知りである。興味のあることについてだけは。いつも見ている魔物図鑑なるもののおかげなのだろう。

「それじゃあボクらなら瞬殺だろうね。」

「だろうな、それにあの魔物は2匹で行動する習性を持つはずなんだが・・・それにそもそもこんなところに生息しているような魔物じゃないはず」

「ボクらが考えても分からないし探検はもう十分でしょ。カンナちゃんも立って、ほら」

「うん・・・でも足が動かない・・・」

「仕方ないなぁ、オレが背負ってやるよ」

「ありがとう・・・」

クロが神無に近寄ろうとした時だった。

パキッ!

気持ちのいい音が辺り一帯に響いた。なんとクロは不幸にも小枝を踏みつけてしまった。ソードベアはどうやらこちらに気づいた様子だ。

「!?」

(こんなところにこんなのあったか?足元には気をつけてたはず・・・)

「なんかすごいこっち見てるよ。気づかれたんじゃない?」

「チッ、考えても仕方ない。シロ!オレがヤツを引きつける。その間に神無を連れて行け!」

「それって危険じゃ・・・」

「私のことはいいから・・・逃げて」

「何言ってんだ、シロ!神無を頼むぞ!」

クロは近くにある木の枝や石を投げつけるが身体中の刃に当たって真っ二つになるだけだった。ソードベアは気にもせずまっすぐシロ達に向かっている。

「まかせて・・・って、全然引きつけてないじゃん」

「しまった!魔物は逃げようとするものを追いかけるんだ!」

「それは先に言ってよ」

神無を背負うのに手間取っている間にソードベアはすでにシロの目の前にいた。そしてその大きな腕はすでに振りかざされていた。

「このままじゃ、シロ!危ない!」

「カンナちゃんだけでも!」

シロは小さな両手を広げ全身で神無をかばった。そして壮絶な痛みが・・・来なかった。代わりに目の前には右腕を抑えて倒れこむクロの姿があった。

「クロ!」

「早・・・く・逃げ・・ろ」

辺りはクロの血で真っ赤に染まっていた。もう一歩も動けない。今取れる最善の手段は神無をかばうだけだった。だがもう立つ気力すら残っていない。当然ソードベアに慈悲などなかった。振り上げた腕がシロめがけて降り注ぐ。

「深淵を覗く時深淵もまたあなたを覗いている」

「えっ?」

どこからともなく声が聞こえる。

「今は深層意識(・・・)に存在するあなたの力に賭けてみます」

(白い・・・鹿?)

「それはどういう・・・!?」

一瞬視界に白い鹿のような生き物を見たと思えばシロの意識が遠のいていく。その中でまた違う声が聞こえてきた。

「今の貴様ではこれが限界。だがそれでも十分すぎる力だ・・・感謝するがいい」

「ハッ!」

どれくらい気絶していたのか。辺りを確認する。まずここは天国か、それとも地獄か?見渡す限りの木、木、木。

(よし、どちらでもなさそうだ。どうやら森の中みたいだね、あの熊もしかして見逃してくれたのかな?)

ようやく意識がはっきりしてきた。すると人の気配に気づく。神無だった。その目には涙がにじんでいた。奥の木にはクロがもたれかかっていた。

「どうやら生き残ったみたいだね。あんまり覚えてないけどあの熊見逃してくれたみたいでよかったよ」

「えっ?・・・シロ何言ってるの?」

「何言ってるって、みんな無事ってことはそういうことじゃないの?」

神無は泣きながらじっとシロを見つめていた。のではなくシロの後ろを見ていた。それにつられてシロもそちらを向く。

「これって・・・」

それは驚くべき光景だった。あのソードベアが氷漬けになっている。それもすでに粉々だった。

「誰か助けてくれたの?」

「お前だよ、シロ」

「えっ?全然覚えてないんだけど・・・それよりクロ!傷は大丈夫なの?」

「ああ、今はなんとかな。神無の手当てもあって出血は止まってる」

「そっか、それと今気づいたんだけどボクの袖がなくなっているのとクロの傷口に当てている布は何か関係があるのかな?かんなちゃん」

「緊急を要したので・・・拝借しました」

「別にいいんだけど、そういうのってだいたい自分の衣服を裂いてやるものじゃない?」

「被服の面積を考慮して・・・その面積が最も大きいものから譲渡するのが合理的かと・・・」

「かんなちゃん・・・変なところで冷静だよね」

「シロは・・・私の数少ない衣服を破ればよかった?・・・期待に添えなくて・・・ごめんね」

「いや、そういうわけじゃないけどさぁ」

「シロの・・・エッチ・・・」

「・・・」

一瞬の静寂。

「とりあえずここから離れよっか。またあんなのが出てきたら次こそ死んじゃうよ」

「そうだな」

「で・・・どっちから来たっけ?」

迷いながらもなんとか無事?道場にたどり着くことができた。門の前には紅蓮兄さんが立っていた。
当然こっぴどく怒られた。特にクロは目も当てられないほどに。もう二度と森には近寄らないようにしよう。

それにしてもあの声と鹿は一体・・・

ー道場の一室ー

勢いよく扉が開く。桃色の髪の女の子が必死の形相で部屋に入る。それは檸檬(れもん)と双子である桜花(おうか)だった。

「お母様!無黒兄様が怪我を・・・ってお母様大丈夫ですか!?」

桜花はまだ小さいのにとても気の利くいい女の子だった。

「はぁはぁ、大丈夫よ。よかった、何とか無事・・・みたいね」

「それに檸檬まで・・・一体何があったんですか?」

1人の女性は息を切らしていた。それでも妙に柔らかな表情だった。そして横には少女が横たわっている。

「zzz・・・」

「少し遊び疲れて眠ってるだけよ。心配してくれてありがとう桜花」

「お母様がそうおっしゃられるのなら・・・では失礼します」

桜花は少し気がかりではあったが銀鈴の言葉を信じることにした。そうしてゆっくりと扉を閉じた。

「みんな生きて帰って来れたのは檸檬、あなたのおかげよ。今はゆっくり休んでね」

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