テクノロジカル・ハザード ~くびきから解き放たれたトランスヒューマンは神か獣か~

和多野光

第19話「思草紫苑の憂鬱」

「ふっ、くちゅん!」 
 あれ?何だろう?こっち来てから風邪なんてひいたこと無かったのに…… 
「あれ?お姉ちゃん、風邪?」 
「う〜ん……風邪、と言うよりは誰かに噂されてるって感じのムズムズだったような……?」 
 それも何かとんでもなく面倒くさい事に巻き込まれた様な感じがする。 
「何それ?」 
「何だろうね……って、そんな事はいいの。そんな事より、この羊羹をくれたお兄ちゃんはジュウゴって言う名前だったのねシャロン?」 
「うん」 
「もしかして、あんたが前に言ってた同郷の奴等だったのかい?」 
「分かりません……私とネコヤナギ君は碌にクラスメートの人達と自己紹介もしないまま此方に連れて来られたので。それに私達はあの場から直ぐに逃げたのでお互いに面識も無い筈、なんですが……」 
 そう。そして、私が記憶している限りではそんな特徴的な生徒はいなかった。一部、動画配信者なのかな?って髪色の子はいたけど、確かあの子は女の子だった筈だ。男の子側にそんな人物は見かけていない。となると、スキルか何かの変装かしら?いや、そんな目立つ格好の変装はないわよね。銀髪に緑眼だなんて、この世界でも珍しいし。でも『ジュウゴ・イカリ』って明らかに日本人名よね?話を聞く限りだと魔法も知らなかったみたいだし。まるで最近こっちに来たかの様な言動……まさか、私達以外にもこっちに来てる誰かがいるの? 
「何にせよ同郷の人間の可能性があるってこったね?」 
「……はい。じゃないと羊羹これの説明がつきません。あまり和菓子は詳しくないんですけど、羊羹って言ったら私の故郷のお菓子なんです」 
「はい、あ〜ん!」 
 はい、あ〜ん。それに、まさか初めて羊羹を食べる場所が異世界になるとはね…… 
「お姉ちゃん、美味しい?」 
「うん。美味しい、美味しい」 
 羊羹ってこんな味だったんだ。さっきは故郷のお菓子なんて言っちゃったけど、あっち(日本)じゃ和菓子なんて食べた事無かったから寧ろ新鮮に感じちゃうなぁ……あれ?そっか。そう考えると何処かチョイスが若者らしくない気がする。こういう見た目も華やかな高級和菓子って大人の、それも30代から40代位の人が手を付けてるイメージなんだけど。 
「確か、あいつはエルカトルから来たと言っていたよ」 
 エルカトル連邦か。確かネコヤナギ君と各地を回ってた時に寄った覚えがある。ギルドの総本山がある所だ。ミルガーさん夫妻は元気かな?息子さん達はちょっと面倒くさかったけど、ネコヤナギ君の作ったたこ焼きは絶品だったなぁ。ちょっとお互いのソウルフード(お好み焼き)についてOHANASHIする場面もあったけど、それもまたいい思い出だ。 
「まぁ、それだけじゃあ(あいつがガルデニアに召喚されたお前さんのクラスメートではないと証明する)何の根拠にもならないだろうが……ん?ちょいと待ちな。丁度、その噂の坊主が向かった先からメッセージが届いてるね」 
 向かった先……ああ、グリアセルト魔術学院か。ペンドラゴンさんの元同僚でもあるプラーラさんが経営してる学院よね?何かあったのかしら。 
「…………なる程。喜びな小娘。どうやらあの坊主はガルデニアの奴等とは別口らしいよ」 
 は? 
「どういう事ですか?」 
「あの坊主とは別で、ガルデニアからもどうやらお客さんが何人かグリアセルトに来てるみたいだね」 
嘘!?もう!?てかネコヤナギ君、本当に何処から情報仕入れてんのよ。ほぼリアルタイムで国家機密、手に入れてるじゃない。 
「接触もあったみたいだが、お互いに面識は無かった様だよ。そいつ等もあんたと同じ様に同郷の者かと尋ねたみたいだが、そもそも質問の意味を理解していなかった様な素振りだったらしい」 
 だとすればシロ?いや、そう装っただけかも知れない。彼等にしてみれば手掛かりはその名前だけだし、私の様に他の証拠(羊羹)がある訳でもない。それなら例え名前が日本人らしくても、外見がかけ離れていたら惚けられた時点でアウト。この世界にはジパングっていう昔の日本みたいな国もあるから、私だったらその国出身の人だって勝手に結論づけちゃうかも。殆ど鎖国してる国だから情報も出回らないしね。 
「因みにその問題の坊主はガルデニアから来たお客さん達を叩きのめした優秀なグリアセルトの生徒達を一蹴した挙句、魔法の使えなかった生徒を魔法を使える様にしてエルカトルに戻って行ったらしい」 
「……はい?」 
 ……え〜っと。 
「つまり彼等(同郷生達)を叩きのめす程の優秀なグリアセルトの生徒さんをものともせず、しかも魔法の使えなかった子を魔法を使える様にして帰って行ったと?」 
「ああ、そう言うこった」 
 い、意味が分からない。何よ、その絵に書いたようなラノベ野郎は。いや、私やネコヤナギ君も大概だけどさ。何にせよ彼等も私達同様、何かしらの能力チートを得てた筈。そのチーター達を打ち負かす程の強さを持ったこっちの人達を圧倒した挙句、魔法の使えなかった子を魔法が使える様にした?はあ?何よ、それ!? 
「どうしたのお姉ちゃん?」 
 ジャンプ作品で例えるなら私は強化系でネコヤナギ君は具現化系チート。他人にまで効力を及ぼしてる事も考えると、その人は放出系か操作系チートの可能性もある。あれ?強化系か変化系でもそれは同様なのかしら……?ああ、もう!何なのよ、そいつ!考えれば考える程、完全にジョーカーじゃない!この期に及んでそんな奴を追加させて一体何がしたいのよ神様って奴は! 
「お姉ちゃん……?」 
「そっとしといてやんな、シャロン。お姉ちゃんはちょっと現実を受け止めきれてないだけさね」 
「……うん」 
「……(まぁ、この子の混乱も分からなくはない。あたしだって俄には信じられないからね。餓鬼同士の強い弱いは別として、この『魔法の使えなかった人間を魔法が使える様にした』って所が謎だ。それが研究に研究を重ねた魔法使いの成した事だってんなら未だ納得も出来るんだが、魔法すら見た事なかった人間がちょっとやそっと知識を齧った程度でそんな偉業を成し得るもんかね?)くっくっくっ、流石『セントラル』に所属してるだけはあるって事か。あの坊主も中々やるじゃないか」 
 ちょっ、何それ初耳! 
「『セントラル』って、あの!?」 
「おや、言ってなかったかい?そうさ。あの坊主は『セントラル』所属のギルド員だよ」 
 何なのよ、それ!じゃあ実質もう手に負えないじゃない!何をどうしたらあの連邦国家を後ろ盾に出来るのよ!くっ、恐ろしいわ。 
でも、なら私達の同級生じゃない事は確定ね。 
私達の様な子供がチートの一つや二つ持ってても現実?では大して役に立たない事は分かってる。物語の主人公?無理、無理。私みたいな小娘がハ○ターx○ンターのゴンさんみたいになれた所でせいぜい自衛がいい所よ。そりゃ肉弾戦には自信はあるけどさ、それだけ。人の底知れない悪意には勝てないわ。 
 だから仮にその人物が同級生だった場合、セントラルに利用される事はあっても利用する側に回る事はまずあり得ない。 
 談合や賄賂が当たり前の世界を生きているこの世界の大人が、ちょっと便利な力を持ったただの子供に屈服する訳がないもの。 
 だとすると、そのジュウゴって人。外見はどうあれ中身は多分、私達より歳上だ。それも強さと狡賢さを持ち合わせてる大人の可能性がある。 
 どうしよう。話を聞く限りではただ異世界を満喫してる様にも思えるけど、彼等を知らんぷりしたって事は明らかに私達(同郷者)を警戒してるわよね? 
 私達を拉致した召喚魔法はガルデニアという地でしか使えない筈だし、それも数百年単位の年月が必要だった筈(※ネコヤナギ調べ)。 
 でも、ならどうやってそのジュウゴさんはこの世界に来たの? 
転生……は多分違うとして、自然発生的な召喚ないし転移に巻き込まれたのだとしたら私達(同郷者)を避ける(警戒する)意味は何?それだけ強ければ特に警戒もせず諸手を挙げて懐郷に走り出しそうなものだけど、違うのかな? 
 う〜、分かんないよぉ。 
「おい、ガキどもほっぽらかしていつまでもウンウン唸ってんじゃないよ!」 
あ、痛ぁ!? 
「ちょっと、ペンドラゴンさん!私今真剣に悩んでたんですけど!?」 
 ゲンコツは酷くないですか!? 
「ふん。分かりゃしない事なんざ、いつまで考えたって分かりゃしないんだよ小娘」 
「でも……!」 
「はぁ〜、すぐに答えを出そうとするのはあんたの悪い癖だね。今は、あの坊主が同郷者かも知れない。それで十分じゃないか。ダンジョンを刺激してドラゴンを出す必要は無いんだよ」 
 うぅ……わざわざ藪をつついて蛇を出すな、って事ですか?確かに彼等と違って、そのジュウゴって人は此方から関わろうとしなければ直接の問題は無さそうですけど…… 
「それに、こんな美味い肴をポンと出せる様なお人好しなら態々敵対しなくてもいいじゃないか」 
 ……そっちが目的じゃないですよね? 

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品