テクノロジカル・ハザード ~くびきから解き放たれたトランスヒューマンは神か獣か~

和多野光

第18話「ミア・エイム(猫柳 美愛)」

「ぶぇっくしょい!」
あれ?なんやろ?自分で言うのもなんやけど、僕がクシャミなんて珍しいな。この身体になってから風邪なんてひかんくなったと思てたんやけど。
「どうしたレン、風邪か!?」
うぅわ?!ビックリしたぁ。コイツ、いっつもいっつも突然背後から現れよってからに……
「ふん、ミズメよ。レンの様な不死の人間が風邪などひくものか。大方、何処ぞの誰かに噂でもされているのだろうよ。我等が主は今や魔族の中でも注目の的だからな」
そんで何故かセットで現れるお前!暇か!
曲がりなりにも君等、あのオッサン(ルドラ)の親族やろがい。ちゃんと軍の仕事をせい、仕事を。
「クダン、そうは言ってもレンは人間なのだ。万が一があっては困るではないか」
「不死の人間を殺す程の病があるのであればレンより先に我等が死ぬわ!全く、そんな事だから貴様は戦で突っ込む事しか出来んのだ。いつもいつも貴様の部隊の尻拭いをさせられる我の身にもなれ」
「ふはははは、要は勝てばいいのだ。私は、私の部隊はそこで暴れられればそれでいい。これまでも、そしてこれからもな」
「……この戦闘狂共め!一体今迄それで何人が死んだと思っておる!」
「さあな。だが、そもそも戦とはそういうものだろう?生きるか死ぬか、私の部隊はそれに全力なだけだ。死を軽んじるつもりはないが、生を蔑ろにしてるつもりもないぞ?それの何が悪い?」
 あ〜、もう。またコレや。仲ええのか悪いんかどっちやねん己等。いっつも人の後ろに現れてはやいのやいの言いよってからに。
「やめやめ、二人共。僕、今日他人と会う約束しとんねん。邪魔すんなら帰ってや」
「ふん、我等をあそこまでコテンパンにのしておいてよく言う。勝者に付き従うは敗者の特権よ。邪魔だと言うのなら殺せば良かろう」
それ、『付き纏う』の間違いやろがコラ。特権ちゃうし。あ〜、もう面倒くさいやっちゃなぁ。ホンマに殺したろかコイツ……
「……と、言うのは冗談だ……だからレン……その殺気をしまって……欲しい……(ガクガクブルブル)」
「いいぞ、殺ってしまえレン!レンの左腕の座は女である私にこそ相応しいのだ。クダンなんか必要ない!正妻の座は我にあり!」
「……言うとくけど、ミズメ。お前も大概やからな?」
左腕(人間で言う『○○の右腕』的な言い回し)までは分かんねんけど、何やねん正妻の座て。相手、クダンやぞ?頭腐っとんかコイツ。
「なに!?馬鹿な!レンよ、私の何がいけないと言うのだ!?自分で言うのも何だが、男好きのする身体だと軍でも評判なのだぞ!?」
 いや、それ多分褒め言葉ちゃうやろ。
「僕にはオモイグサさんいう心に決めた子がおんねん。正妻の座は諦め」
「な、んだと……!?そんな……おのれ、ならばそのオモイグサとかいう女を亡き者にすれば正妻の座は私のものと言う事だな!?」
 な・ん・で・や・ねん!
はぁ……まぁ僕なんかが手え出さんでも、オモイグサさんなら瞬殺やろうけど。オモイグサさんなら間違いなく、僕が面倒くさいから押し付けたって看破するやろな。
「オモイグサさんに手え出したら幾ら自分でも殺すからなミズメ」
今とばっちりで僕にまで被害が来たら敵わんし、あのオモイグサさんを相手にするんは出来れば避けたい所や。敵として考えたら、僕の不死とじゃ相性最悪やし。
ったく、こっちはミア(皇女)の封印を解く為に色々とやっとるっちゅうんに余計な手間取らせんなやボケが。
「はぁあ……♡こんな往来で何て濃密な殺気を浴びせるのだレンよ。やはり私の子宮を侵すのはお前しかいない!ああ、今すぐ子作りをしよう!大丈夫だ。魔族でも人の子は産める!レンは寝てるだけ!少しの間、寝てるだけでいいから!」
 うん、アカンわ。コイツ、全然話通じてへん。流石、あのオッサン(ルドラ)の血筋やな。人の話を聞かん所もしっかり受け継いどう。
「『鬼六ロック(見えざる問答の檻)』!」
「ぬああああ、またコレか!?くそ、動けん。レン!後生だ!子供を!子供ぉぉぉ!」
「何故、毎回毎回我までぇえ!?」
「さて、今回の問題は何やろな〜」
コレ(鬼六ロック)作った時、設定した拘束時間に応じてスキル完全発動に必要な問題の難易度が自動的に変わるもんやからあんまり実用的ではないなぁと思てたんやけど、案外使えるなぁ。問題の確認や解答に必要なクールタイム中(1分間)は問答無用で対象を拘束出来るし。
「え〜っと、何なに?『拘束対象者の家名を答えよ』か。簡単やな。まぁ拘束時間1時間程度ならこんなもんか。答えは『ロア』や」
「「……!……!」」
 ふう。これで五月蝿いんは取り敢えず片付いたわ。
 待ち合わせしとる言うんに、こんなん等がおったら煩うて話も出来へんしな。
「……噂には聞いていたが、君は本当に妙な術を使うのだな」
 ん?
「ああ、その背に負った大太刀……もしかしてジパングのオミナさんですやろか?」
「うむ。如何にも私がそのオミナだ。待たせてすまなかったな」
「いえいえ、お呼び立てしたんはこちらですし気にせんとって下さい。はじめまして。ネコヤナギのレン言います」
「ふむ。ネコヤナギ、か……」
「何か?」
「あ、いや。我が国にも確かその様な名前をした植物があった様な気がしてな。刀の知識もある様だし、君はもしやジパングの生まれではないのか?」
「あっはっは。起源は一緒や思いますけど、違いますよ。僕、日本生まれ日本育ちなんで。日ノ本の国、言えば分かります?」
「なんと……!その名は……!?」
 お、この反応はビンゴやろか?
「まぁその辺の話も込みで、色々と聞きたい事とやってみて欲しい事があるんですわ。取り敢えず歩きましょか」
ああ、あの馬鹿二人は気にせんとって下さい。心配せんでも暫くしたら動ける様になるんで。
「聞きたい事は分かるが、やってみて欲しい事とは?申し訳無いが、今は家名も何も持たぬ修行中の身なので私に出来る事は限られるぞ?」
「ええ、ええ。そこは十分に理解しとります。刀一本、一人旅。武者修行(成人の儀)の最中なんですやろ?」
「詳しいな?」
「そらもう。ジパングいう国の名前を聞いた時から色々とお勉強させて頂いたもんで。まぁ、まさか季節刀を保持した方を見つけられるとは思いませんでしたけど」
「……君は私のこの刀がどういうモノかも知っているのか?」
「勿論、勿論。ジパングにある二十八の藩の一つ。パトリニア藩の藩主が代々受け継ぐとされている秋の七刀の一振り、『斬魔の太刀カノコ』ですやろ?使い手の力量によっては遮るもの全てを斬り裂く事が出来るとされている末恐ろしい刀……ん?いや?そうなると武者修行だから言うて今回だけそんなん持たせるんは不自然ですね。もしかしてオミナさん、物心ついた時からソレ振ってたりします?」
「本当に凄いな君は……正解だ。二十八ある季節刀は一部の例外を除いてだが、皆生まれ落ちた際に継承が行われる。刀に早くから慣れさせる為でもあるが、幼い命を魔なるものから遠ざける意味合いも持つ」
「なる程。破魔矢ならぬ破魔刀みたいなもんですか」
「うむ。その通りなのだ……が……こ、こは?」
ん〜、そうなると望みは薄いかもしれへんな。僕が求めとるんは神殺しに至れそうな位の物騒なもんなんやけど……あ、そうこうしとる内に着いてもうた。
「おかえりなさいませ、レン様。そちらが本日予定されていたお連れの方ですか?」
「ええ、オミナさんいうジパングのお侍さんです。悪いけど、おもてなしをお願い出来ますか?」
「かしこまりました」
「オミナさん」
「え、あ、はい」
「こちらキュアデウス家のバトラーのジヤさんです」
「はじめまして。オミナ様」
「は、はじめまして。オミナと申します。武者修行中の身なので家名は控えさせて頂きますが、何卒ご容赦を」
「言うて僕も客人の立場やからあんま偉そうな事は言えへんのやけど、この人に言えば大体の事は都合してくれる筈やから屋敷におる内は頼ったって下さい」
「ええ、お任せ下さい」
「レン君……本当に君は一体何者なのだ?キュアデウス家と言えば他国の私でも知っている程の大貴族の名だぞ」
「ふぉっふぉっふぉっ、それは我が主も含め殆どの者が気になられている答えですな」
「そう、なのですか?」
「ジヤさん?」
「おっと、失礼。口が滑ってしまいました。何卒ご容赦下さい、レン様」
「ルドラのオッサンとサラの姐さんは?」
「既にご準備は出来ているそうです」
「もう?早すぎひん?」
「それだけレン様が明かして下さる『答え』に皆様、興味津々という事なのでしょう。出なければ関係各所に秘密で皇族に謁見しよう等許される筈もありません。ましてや武器を帯刀した他国の者を連れてまで、なんてね」
「ちょ、ちょっと待ってほしい!こ、皇族に謁見とはどういう事なのだろうか!?それも秘密で?帯刀したまま?」
「おや、レン様。オミナ様にお話されていなかったので?」
「それこそ外でする話ちゃいますやん。まさかこんな早ぉあの二人が準備するとは思わへんし。堪忍やでオミナさん。着いて早々アレやけど、すぐに出発する事になりそうですわ。まぁ聞きたい事は山程ある思うねんけど、こうなったら先ずはやって欲しい事から発表します。オミナさんには皇女殿下を拘束しとる『輪廻の蛇』いう封印様式をソレで斬ってみて欲しいんですわ」
「…………」
 後にオミナはこの時の事を「断れる雰囲気ではなかった」と供述する。
 結果としては失敗に終わったのだが、明かされた真実にオミナは再度頭を悩ませる事となった。
 レンに跪く三人と共に彼女が今後どの様な形で彼等と関わるのかは神のみぞ知る事である。



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