クリティカル・リアリティー

ノベルバユーザー390796

第二十五話 取り戻す

 健人は必死に抵抗する。
「ま、待ってよ! 二人は記憶もあって、能力を持ってるけど、オレは記憶も無ければ影響も全くされてないんだよ!?」


「いいや、そもそも健人は元から自分の事をオレって言ってたか?言ってないよな?」


「――確かにそうだ……」


「……」


 知音はシャーペンをポケットにしまい、下を向きながら語り出す。


「俺ホントは奇跡とかあんまり好きな言葉じゃないけど使うぜ。奇跡って言葉が絶対に有り得ない、無理だ
 って時に起こった時につい、思って使ってるんだ。……今健人の記憶が全て戻るなんてことは奇跡だと俺は思う。でも俺達にとってお前は無くなっちゃいけない記憶なんだ!」


「……オレが、死ななければこんな面倒な事にならなかった、そういう……ことだよな?」


 健人の雰囲気が少しだけ変わった気がした。昨日までの健人に近づいている。
 知音は俺の方をちらりと見てから、外に出ようと入り口を向く。
「弘成、もう行くぞ。健人、最後に2つだけ伝えとく。お前の中にはもう一人の命が生きている。つまり独りじゃないこと。それと、ミヤビさんとイチ君を、自分で守れよ。それだけだ」


「……!! 待てよ知音!」


 俺と知音は立ち止まり、再度健人と向き合う。その目は見覚えがあった。


「一回でいいから全力で攻撃してくれ。俺を。必ず守ってみせるから」


 知音はニヤリと笑い、健人に攻撃する。


























 * * *
「さてと……」
 知音は椅子を引きずる音を立てながら机に座る。


「知音君? なんでそうやって給食の手伝いもしてないのに堂々と座れるの? 有り得ない」


 神田さんは俺達の机に苛立ちながら近づいているが、どうやら知音はあまり気にしていないようだ。それどころか、何処か満足気な態度を取っている。


「……それにしてもその組み合わせ珍しいね。弘成はともかく、健人に陽向と真凛? 今日はどういった気分でそのメンバーで食事を?」


「今日だけじゃねえ、今日からな。言っとくが、次にこの特等席に座るのは神田かもしんねーぞ?」


「はぁ……」
 神田さんは呆れた様子でそそくさと自らの机へと戻る。他の女子達が神田を慰めながら知音に対して小声で愚痴を溢していたが、相変わらず知音は気づいていなかった。


 今日の給食のメニューは味噌汁にご飯、焼き魚と煮物に牛乳。完璧な和食――これを食べた記憶が沸々と湧き上がってくる。でも次こそは違う。まだ皆には明かしていないけど俺にだって能力はある。


「さっさと食べて作戦会議しようぜ!」
 ガツガツと美味しそうにご飯を噛み締めている知音。
「いやいや、そんな一気に食べたら動いた時に気分悪くなるからやめなよ」
 落ち着いて食べて入るが、量はそこそこある陽向。
「いけるよね、緊張してきた……」
 少食なのと緊張が重なってか、誰よりも食べる量が少ない真凛。
「……大丈夫。"自分達"が何とかするんだから。真凛も一緒にね!」
 自信のある声で普段よりも食べている健人。


 ……俺だって。




















 * * *
「はぁはぁ、これぐらいでいいかな?」


「ああ、かなり薄いし目立たない。じっと見た感じかなりあるな。これなら時間稼ぎは結構できると思うぜ!」


「……知音、健人。一応聞きたいんだけどこれからクラスの皆来るけどぶつかったりしない?」


「……あ。それって消せるか健人?」


「分かった。……今の状態なら当たっても涼しい風を感じるくらいの柔らかさになったはず。」


「……! 本当だ、なんか気持ちいい」


「わざわざありがとう真凛。……あと一時間でもしたら奴らと戦ってるのか……多少だけど、不安だなぁ」


「健人! ――俺達がいるだろ?」


 知音は親指を立てた。……今日の知音はやたらとテンションが高い。不気味だ……。

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