クリティカル・リアリティー
第十六話 疑念
……ピピピピピピピッ!
部屋中に電子音が鳴り響く。朝日が差し込み目が覚める。その音に周りも目を覚ます。
「弘成起きたか?」
……俊樹。
今は新しく永久さんが来てから数日、知音の体調も良くなりだした頃だった。大体六時くらいか、体を起こし部屋を出る。二階には自分のいた部屋、使われない部屋、そこを挟んで女子が使う部屋がある。階段の隣には洗面台とトイレの個室がある。そんなところか。先程の部屋には俊樹だけがいて、健人と明人はもう起きて下に降りたようだ。
女子部屋の扉が開く。中から真凛、利名子、陽向が出てくる。俺達は一階に降り朝食の手伝いと用を済まし、テレビを見たりと自由だった。知音達も既に立ち上がって普通に行動できるようだった。
朝食を取りながら話し合いを始める。そう、これからの事だ。雅姫さんと烈王さん曰く貴田財団に親友がいるのでそちらに向かうか、それとも健人、知音、ハザマさん、いや烈王さんの三人で怪物狩りをするなんていうとんでもない提案もあったが前者に決まる。望月さんは唯智クンも連れて行くが、向かう手段が徒歩しかないので大変そうだ。
私達は今までいた街から出て、財団へ向かうことになり今その最中だ。また山を登ることになりおかしくなりそうだ。
「陽向、大丈夫?」
真凛が私に手を伸ばしてくれる。手を掴み少し支えられながら歩く。そうすると開けた場所に出る。ここは大きな施設のようで、聞いたことのある場所だった。
「ここが石盾遺跡かぁ。都市伝説としか思ってなかったよ興味無かったから」
利名子はぶっちゃけ過ぎなんじゃと思ったが私もそう思ってたので触れないでおこう。ここは遺跡があったように思える石の配置があるために『石盾遺跡』と呼ばれているだけだったはず。ここを通らないと遠回りらしいので中心部分に入っていく。
――開けたところに人は集まりやすいって本当なんだな!? 助かったよ♪
吐き気すら感じるこの加工された声は……身体をコートで隠し中にボイスチェンジャーを入れているだろう仮面を付けている。この明らかな『悪役』はこの2つによって成り立っているようにも感じられる程不気味で不安を煽っている。
三人は身構えるが仮面はキョトンとしている。……戦うつもりはない?
――あー、ごめんね♪今から戦う相手は『私』じゃないんだ♪『この子達!』
……嘘だ。そこには、銃、いやライフルに近い大きな物を持った目元に仮面をつけた大量の敵がいた。見えるだけで二十人はいるように見える。
「……アンタが弘成達を追っかけて陽向を殺そうとしたやつか」
知音の言葉に仮面は少し戸惑い、そして軽く嘲笑う。
――君達の名前かぁ、何もないのに仲間意識だけは素晴らしいね♪
知音と仮面を睨み合っているだろう。仮面は左手を上げ私達に向かって振り下ろす。彼女の後ろにいた他の仮面達はこちらに銃を向けながら走ってくる。
先頭の奴が私に向かって打ってきたようだ。はっきりは見えない。健人はバリアを貼りながらカバンを守っている。知音は敵を倒しに行くようでここから離れる。烈王は援護するようだ。バリアに当たった玉は膜と打ち消し合って消える。私はただただ眺めるだけだった。それに気づいた真凛が私の手を握って石壁の裏に隠れる。この場所に残ったのは健人と私と真凛だけで、烈王さんに知音以外はついて行ったようだ。
冷静になって考える。敵の銃は恐らく強力な空気銃だ。流れ弾が石壁を破壊したのが見えた。健人とは相性が悪い、打ち消しあっているうち体力消耗する。長くは耐久できない。こっちに向かってきた敵は半分近くいる。知音も流石に複数相手の戦闘は無理なはず。何も出来ない。
健人が持っていたカバンを突然真凛に渡し、口を動かす。
「覚悟決めろ」と。
健人を中心に風がそよぐ。約半径10Mの半球を作り出し仮面共を吹き飛ばす。
――お前なんかいらない。
はっきりと聞こえた。この中の誰もそんな事は言わない。耳からじゃなくて感じ取ったかもしれない。或いは誰かに言われた言葉かもしれない。
お父さん……でもない。
……もしかして私?
「陽向ぁ、ヒナタしかいないよ」
「陽向なら出来るよ」
「陽向諦めないで」
「陽向、覚悟は出来てる?」
……無理だ。今まで話はしっかりと聞いていた。それが実際に、自分の番が来るとは思ってなかったから。
――覚悟してないだろお前。
……無視しよう、私
「陽向、真凛!烈王さんのとこまで走れっ!」
先程貼った膜に次々と穴が空きだす。
限界を感じ取った健人は私達に飛んできて身を挺して庇おうとする。彼の左手が、わたしの、胸に当たる。健人はそれに気づいて少し照れていたが、勢い良く飛び込んだ彼は止まることなどできるわけでもなく手が押し込まれる。
「ゴメン……陽向。」
ここ最近の雰囲気とは違う、変化が起きる前の優しい目をしていた。今までは父を思わせる目だったが、母の目に変わったようにも感じた。そんな事を考えていると限界まで手で押され、限界に達した時バチッと稲妻が走りその轟音と共に痛覚も消え去り独り何処かへ飛ばされたようだ。
そこはもっと小さかった頃の私と、両親がまだ居た頃の家のリビングだ。
私とお母さんがリビングに手を繋いで入ってくる。二人とも涙目になっている。この時の記憶は鮮明ではなかったが間違えなく見覚えのある光景だった。
「ごめんね陽向。お母さんとお父さんは一緒に生活できなくなっちゃったの。だからね、どっちか……選んでほしいんだ」
そんな会話があったのか……なら今の私なら間違いなくお母さんを選ぶだろう。
小さな私は戸惑って涙を堪えて口を開く。
「……お母さんがいい」
思っていた通りの言葉だった。本当に昔こう言えていたら今の後悔は存在しなかっただろう。そうであってほしいと思う。
『でも』
「お父さんは……ひとりぼっちは嫌だと思う。お母さんはつよいよ、でもお父さんはよわいよ、だから、誰かがいないとだめだよ。だから」
「『お父さん』がいい」
お母さんは驚いたが、すぐに安堵した表情で私の頬に手を当て抱きしめる。
「ありがとう」
……なんで、お父さんを選んだんだろう。動けるなら動いてでも昔の私を止めたくなった。認められなかった。結局父を愛すこともできていないし、愛されているか分からない。多分、この日を境にお母さんとは会っていない。今では会うことが出来ない。小学校に上がる前に交通事故で亡くなったと聞いた。葬式には子供の私だけで行き死顔だけは鮮明に覚えている。
遺影の前で泣き崩れている私が見えた。ぼそぼそと私が呟く声が耳に刺さる。
「お母さん……私のせいで……」
思い出した。全てを。場面は切り替わる。
これは、お母さんが亡くなる前日だ。
私が遊びに行く途中偶然にもお母さんを見つけ駆け寄った。私からは見えない死角の曲がり角からトラックが走ってきていた。正面にいたお母さんからはトラックが見え、その時の私は周りも見えずに飛びつこうと走り、止められないという顔でお母さんは小さな私を走って突き飛ばす。そうしてお母さんは撥ねられた。
目の前の光景はまるで映画、いや劇のように繰り広げられ、場面は変わり今度は病院の待合室。汗だくで、衣服も乱れて自分の事を一切気にしないでお父さんは待合室に入ってくる。彼は既に泣いていた。人目を気にせず、私達にも気にかけずに。
ごめんなあ……!!ごめんなあ……!!と目を手で抑えながら泣いていた。涙は手の隙間をつたり地面とズボンに落ちていく。
場面は目まぐるしく変わる。これが最後のようだ。母の火葬が終わり、火葬にすら参加出来なかった父の元へ帰ってきた私。
お互い下を向いて口を閉じて体が震えていた。彼は口を軽く、震えながら呟いた。
「……せいだ…………」
『オレの……せいで…………』
……ホントだよ……
「……………………………」
彼は静かに小さな私を抱きしめる。小声でお前だけは守る。あの時は聞こえなかった、今ははっきりと聞こえる。
……ホントだよ……!!!今の今までずっと嫌っていたお父さん。ずっと無口で何も怒ったりしないで、嫌われていると思ってた。一人でいると思いこんでた。お父さんは私と二人で生きている。今の私は、一人じゃない。健人がいる。真凛がいる。弘成がいる。皆がいる。
劇が終わり、幕が閉じる。場は徐々に暗くなっていく。ふと横から気配を感じ右を向く。右には呆然と、驚愕した健人が、その劇をじっと目を見開いていた。そして次に自分の左手をじっと見つめる。
この劇を生み出した監督はすぐ隣に居た。
私は観測者で、出演者でもあった。
部屋中に電子音が鳴り響く。朝日が差し込み目が覚める。その音に周りも目を覚ます。
「弘成起きたか?」
……俊樹。
今は新しく永久さんが来てから数日、知音の体調も良くなりだした頃だった。大体六時くらいか、体を起こし部屋を出る。二階には自分のいた部屋、使われない部屋、そこを挟んで女子が使う部屋がある。階段の隣には洗面台とトイレの個室がある。そんなところか。先程の部屋には俊樹だけがいて、健人と明人はもう起きて下に降りたようだ。
女子部屋の扉が開く。中から真凛、利名子、陽向が出てくる。俺達は一階に降り朝食の手伝いと用を済まし、テレビを見たりと自由だった。知音達も既に立ち上がって普通に行動できるようだった。
朝食を取りながら話し合いを始める。そう、これからの事だ。雅姫さんと烈王さん曰く貴田財団に親友がいるのでそちらに向かうか、それとも健人、知音、ハザマさん、いや烈王さんの三人で怪物狩りをするなんていうとんでもない提案もあったが前者に決まる。望月さんは唯智クンも連れて行くが、向かう手段が徒歩しかないので大変そうだ。
私達は今までいた街から出て、財団へ向かうことになり今その最中だ。また山を登ることになりおかしくなりそうだ。
「陽向、大丈夫?」
真凛が私に手を伸ばしてくれる。手を掴み少し支えられながら歩く。そうすると開けた場所に出る。ここは大きな施設のようで、聞いたことのある場所だった。
「ここが石盾遺跡かぁ。都市伝説としか思ってなかったよ興味無かったから」
利名子はぶっちゃけ過ぎなんじゃと思ったが私もそう思ってたので触れないでおこう。ここは遺跡があったように思える石の配置があるために『石盾遺跡』と呼ばれているだけだったはず。ここを通らないと遠回りらしいので中心部分に入っていく。
――開けたところに人は集まりやすいって本当なんだな!? 助かったよ♪
吐き気すら感じるこの加工された声は……身体をコートで隠し中にボイスチェンジャーを入れているだろう仮面を付けている。この明らかな『悪役』はこの2つによって成り立っているようにも感じられる程不気味で不安を煽っている。
三人は身構えるが仮面はキョトンとしている。……戦うつもりはない?
――あー、ごめんね♪今から戦う相手は『私』じゃないんだ♪『この子達!』
……嘘だ。そこには、銃、いやライフルに近い大きな物を持った目元に仮面をつけた大量の敵がいた。見えるだけで二十人はいるように見える。
「……アンタが弘成達を追っかけて陽向を殺そうとしたやつか」
知音の言葉に仮面は少し戸惑い、そして軽く嘲笑う。
――君達の名前かぁ、何もないのに仲間意識だけは素晴らしいね♪
知音と仮面を睨み合っているだろう。仮面は左手を上げ私達に向かって振り下ろす。彼女の後ろにいた他の仮面達はこちらに銃を向けながら走ってくる。
先頭の奴が私に向かって打ってきたようだ。はっきりは見えない。健人はバリアを貼りながらカバンを守っている。知音は敵を倒しに行くようでここから離れる。烈王は援護するようだ。バリアに当たった玉は膜と打ち消し合って消える。私はただただ眺めるだけだった。それに気づいた真凛が私の手を握って石壁の裏に隠れる。この場所に残ったのは健人と私と真凛だけで、烈王さんに知音以外はついて行ったようだ。
冷静になって考える。敵の銃は恐らく強力な空気銃だ。流れ弾が石壁を破壊したのが見えた。健人とは相性が悪い、打ち消しあっているうち体力消耗する。長くは耐久できない。こっちに向かってきた敵は半分近くいる。知音も流石に複数相手の戦闘は無理なはず。何も出来ない。
健人が持っていたカバンを突然真凛に渡し、口を動かす。
「覚悟決めろ」と。
健人を中心に風がそよぐ。約半径10Mの半球を作り出し仮面共を吹き飛ばす。
――お前なんかいらない。
はっきりと聞こえた。この中の誰もそんな事は言わない。耳からじゃなくて感じ取ったかもしれない。或いは誰かに言われた言葉かもしれない。
お父さん……でもない。
……もしかして私?
「陽向ぁ、ヒナタしかいないよ」
「陽向なら出来るよ」
「陽向諦めないで」
「陽向、覚悟は出来てる?」
……無理だ。今まで話はしっかりと聞いていた。それが実際に、自分の番が来るとは思ってなかったから。
――覚悟してないだろお前。
……無視しよう、私
「陽向、真凛!烈王さんのとこまで走れっ!」
先程貼った膜に次々と穴が空きだす。
限界を感じ取った健人は私達に飛んできて身を挺して庇おうとする。彼の左手が、わたしの、胸に当たる。健人はそれに気づいて少し照れていたが、勢い良く飛び込んだ彼は止まることなどできるわけでもなく手が押し込まれる。
「ゴメン……陽向。」
ここ最近の雰囲気とは違う、変化が起きる前の優しい目をしていた。今までは父を思わせる目だったが、母の目に変わったようにも感じた。そんな事を考えていると限界まで手で押され、限界に達した時バチッと稲妻が走りその轟音と共に痛覚も消え去り独り何処かへ飛ばされたようだ。
そこはもっと小さかった頃の私と、両親がまだ居た頃の家のリビングだ。
私とお母さんがリビングに手を繋いで入ってくる。二人とも涙目になっている。この時の記憶は鮮明ではなかったが間違えなく見覚えのある光景だった。
「ごめんね陽向。お母さんとお父さんは一緒に生活できなくなっちゃったの。だからね、どっちか……選んでほしいんだ」
そんな会話があったのか……なら今の私なら間違いなくお母さんを選ぶだろう。
小さな私は戸惑って涙を堪えて口を開く。
「……お母さんがいい」
思っていた通りの言葉だった。本当に昔こう言えていたら今の後悔は存在しなかっただろう。そうであってほしいと思う。
『でも』
「お父さんは……ひとりぼっちは嫌だと思う。お母さんはつよいよ、でもお父さんはよわいよ、だから、誰かがいないとだめだよ。だから」
「『お父さん』がいい」
お母さんは驚いたが、すぐに安堵した表情で私の頬に手を当て抱きしめる。
「ありがとう」
……なんで、お父さんを選んだんだろう。動けるなら動いてでも昔の私を止めたくなった。認められなかった。結局父を愛すこともできていないし、愛されているか分からない。多分、この日を境にお母さんとは会っていない。今では会うことが出来ない。小学校に上がる前に交通事故で亡くなったと聞いた。葬式には子供の私だけで行き死顔だけは鮮明に覚えている。
遺影の前で泣き崩れている私が見えた。ぼそぼそと私が呟く声が耳に刺さる。
「お母さん……私のせいで……」
思い出した。全てを。場面は切り替わる。
これは、お母さんが亡くなる前日だ。
私が遊びに行く途中偶然にもお母さんを見つけ駆け寄った。私からは見えない死角の曲がり角からトラックが走ってきていた。正面にいたお母さんからはトラックが見え、その時の私は周りも見えずに飛びつこうと走り、止められないという顔でお母さんは小さな私を走って突き飛ばす。そうしてお母さんは撥ねられた。
目の前の光景はまるで映画、いや劇のように繰り広げられ、場面は変わり今度は病院の待合室。汗だくで、衣服も乱れて自分の事を一切気にしないでお父さんは待合室に入ってくる。彼は既に泣いていた。人目を気にせず、私達にも気にかけずに。
ごめんなあ……!!ごめんなあ……!!と目を手で抑えながら泣いていた。涙は手の隙間をつたり地面とズボンに落ちていく。
場面は目まぐるしく変わる。これが最後のようだ。母の火葬が終わり、火葬にすら参加出来なかった父の元へ帰ってきた私。
お互い下を向いて口を閉じて体が震えていた。彼は口を軽く、震えながら呟いた。
「……せいだ…………」
『オレの……せいで…………』
……ホントだよ……
「……………………………」
彼は静かに小さな私を抱きしめる。小声でお前だけは守る。あの時は聞こえなかった、今ははっきりと聞こえる。
……ホントだよ……!!!今の今までずっと嫌っていたお父さん。ずっと無口で何も怒ったりしないで、嫌われていると思ってた。一人でいると思いこんでた。お父さんは私と二人で生きている。今の私は、一人じゃない。健人がいる。真凛がいる。弘成がいる。皆がいる。
劇が終わり、幕が閉じる。場は徐々に暗くなっていく。ふと横から気配を感じ右を向く。右には呆然と、驚愕した健人が、その劇をじっと目を見開いていた。そして次に自分の左手をじっと見つめる。
この劇を生み出した監督はすぐ隣に居た。
私は観測者で、出演者でもあった。
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