クリティカル・リアリティー

ノベルバユーザー390796

第十五話 優しい

 リビングには他に俊樹とレオさんがいた。いつもは陽向と口喧嘩をしている俊樹も黙っている。


 お兄ちゃん達だれ?


 俺が振り返ると二階から降りてきた小さな男の子がいた。戸惑っていると望月さんが気づいた。


「イチ、この人達はね、健人クンの友達なの! だから大丈夫よ。背が大きい方が……えーと」


弘成ひろなです、こっちが明人あきと、今泣いてるのが陽向ひなたって言います」


 なんで敬語?


「ああ、ごめんね、で、君は……」


 イチ君? に訪ねるが食い気味に望月さんが遮る。


「この子は私の弟の唯智イチ! めちゃくちゃ可愛いでしょ〜9歳なんだよ?」


 姉ちゃん食い気味に言わないでよ!


 すごい。思ってたこと代弁してくれた。仲良くなれるかもしれない。
 それで奥の二人はテレビを見ていた。内容はニュース番組? やっぱりテレビは映るのか。


 9月18日……まだ3日しか経ってないことに驚いたが、それよりもニュース番組ではヨミ島について騒いでいる。未だにこの島に入ることすら出来ないらしい。


「出入り不可能か……」


 レオさんは神妙な顔つきで呟く。重い空気にしたくないのか望月さんは明るい顔で違う番組を見ることを提案した。イチ君もこの輪に加わりリビングの椅子に座る。
 もし望月さんがふたり暮らしだとしたら、この椅子の数は多いなとくだらないことを考えた。
 この頃にはもう陽向達も泣き止み嬉しそうな顔をしていた。知音は大丈夫だろうか。


 数分が経ち、俺もこの空間に慣れてきた。雅姫さんとレオさんはとても仲が良さそうだ。


「そういえばレオさんの名字ってなんですか?」


 明人が尋ねると雅姫さんが『ハザマ』と答えてくれた。次は家族の話になった。親、兄弟についての不安を語っていたが、その時の陽向は少し苦しそうだった。


「まぁ……私達親いないしね……」


 え? 予想外の発言にみんなが黙ってしまう。レオさんがカバーに入る。


「俺と、雅姫は事故で両親を亡くしてるんだ。孤児だったわけだ。養子? という形で俺達は生活してるんだ」


 養子……か。この家で四人で生活してたんだろうか。四人も養子にするなんて、この家からしてお金持ちなんだろう。


「優しいよねほんと、貴田サン。」


 貴田……⁉


「そうよ、貴田財団の社長の息子と娘とは大親友なの! ……誇れることじゃないけど。小学校?幼稚園かな? 仲良くなったのは」


「……立花って人知ってますか?」


「立花さん? 優しい人だよ。不器用だけど、私達の授業参観に来てくれたなあ。でもなんで?」


「立花って人に今朝話しかけられました」


「怪しい人達じゃないよ、あの人達は暁を中心に何回も生き続けてるからねぇ、どうにかしようと頑張ってるのよ」


 危ない人かと思ったが案外安全そうで良かった。しかし二人はなぜここに残るのだろう。沢山の人が集まる分襲われる回数が多いからイチ君を守るためだろうと自己完結する。


 ここに着いてから十分が過ぎ、余りにも遅い知音に不安を感じ始めた。だが皆は談笑している。空気を読むべきか。
 しかし、こんな時間に男女で集まってこうやって話すのは、修学旅行ぶりかもしれないな。


「そーいえば、健人みたいなの使う人がいたけど、あれってなんですか?」


 明人がレオさんに尋ねる。


「なんだそれ? ……俺みたいな感じなのか?」


「レオさんもですか?」


「俺も健人みたいに使えるんだぜ?地味だけどね」


「地味じゃないよ!! あの時助けてくれたし」


 二人も何回も生き続けているのだろう。雅姫さんはともかくレオさんは謎が多い。どうして使えるのだろうか。


 それから、十分経った。不安に耐えられなくなった健人がリビングを出て玄関に行く。俺はそれを見て健人を止めに行くが、雅姫さんが俺を抜かし健人を引き留める。


「健人! 外は危ないから出ないで! 大丈夫、知音クンは帰ってくるから!」


「そうだとしても、もしかしたら迷ってるかもしれないし探せるのは俺だけなんです、俺以外じゃ無理です!」


「健人、そうやって出ていって死んだ人だっているの。だから……辞めてほしいの」


 ! ……
 健人は言葉を発さずに動揺する。ここんな時、俺はどうすれば……と考えを巡らす。


 その時だった。不意に玄関の扉が開けられる。雅姫さんと健人は驚いて扉を注視する。


「し、知音クン!? キャッ!!」


 知音だった。ボロボロになった知音ともう一人、ボロボロな男が玄関に倒れ込む。その音に気づいた室内のメンバーが玄関に集まる。急いで二人を数人がかりでリビングの隣にある部屋に運ぶ。
 二人共衣服が泥まみれで、怪我もしている。襲われて長い間逃げ回っていたようだ。怪物に襲われたのか?だとしたらここも危ないかもしれない。


「……ひろ……なり、大丈夫……敵は撃退したぞ……」




 考え込んだ俺の顔を見て気を使っての事なのか、知音は掠れた声で話す。不安そうに皆が見つめる。


「この人も……普通の人だから安心してくれ」


 横の人は知音より怪我が少し軽い。見た目は高校生くらいか?


「……すみません。僕を庇ってこんなことに……怪物ではなく、人に襲われて、助けられました。」


 大人二人は救急箱やら怪我の処置を行っている。イチ君は真凛達が構っているようだ。


「あっ……名乗った方がいいですよね? 僕の名前は……永久トワ虎羽トラバネ永久って言います。金曜日からずっと一人で行動してました。」


「トワさんか……」


 何処かで会った気がするが、恐らくこのひとがどこにでも居そうな真面目な人そうだからかな。
 知音は怪我こそしているが死ぬほどでは無かったので二人を安静に寝かせた後、それぞれの行動に移る。

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