クリティカル・リアリティー

ノベルバユーザー390796

第一話 弘成&明人

「……………………………」嫌な夢でも見ていたようだ。
 時計は6時30分を指している。カレンダーをみる。今日は9月15日。俺は……体を起こしてリビングへ向かう。


「おはよう、弘成」


「おはよう、かあさん」


 いつも通りの挨拶を交わしてから椅子に座る。家では親と会話はほとんどしない。朝食を食べ学校へ行く用意をする。家を出たのは7時20分だ。


「いってきます」


「行ってらっしゃい」


 学校までは30分で着く。
 俺の名前は深谷弘成ふかたに ひろな
 クラスでは学級委員長をしている。実習生の先生が来ており、今日まで実習だ。先生は俺のクラスを担当していて、今日先生とのお別れ会をする予定だ。


 学校に入るととても騒がしく、すぐに賑やかな声に包まれる。


「おっはー!」


「おはよう。今日はテンション高いなぁ。明人」





 彼は高山明人たかやま あきと。背は低いが、ムードメーカーだ。
 続々と教室に人が増えていく。
 そしていつも通りにチャイムはなる。気がつくと、会の予定時間の数分前になっていた。






 明人が声をかけ、みんな明人に着いていく。
 二階の技能教科教室エリアにあり、クラス全員でそこへ向かう。
 このクラスは三十数名ほどだが、それぞれが仲が良い。楽しそうな表情で家庭科室に入っていく。
 お別れ会が始まって一時間ほど立っただろうか。
 俺の場合、やる事が一つあった


「……なあ明人、トイレ行かねえか?」


「いいけど」


「先生! トイレ行ってきますね!」


「はーい」


 小声で明人に話す。


「一回教室に戻ってから用紙取ってこよう」


「なるほど! いこっか」


 二人で席を立ち、室内から出るためドアノブに手をかける。
 ドア窓の奥に怪しい影が見えた。思わず叫んでしまった。


 通路には、人よりも大きく、3M〜5M、いやそれよりもあるのか。筋肉はくっきりとしていて、人とは思えない。


 硬直していると、俺達に視線が集まり、その視線は隣の窓ガラスへ移る。すぐに悲鳴が上がる。


 怪物は手を勢いよく窓に伸ばし、窓を突き破り、領域を侵す。パリーンと音だけが一瞬響き、それぞれの声によってかき消される。一瞬で怪物は窓から室内に入ってきた。


 俺は急いでドアを開けるも後ろから逃げるクラスメイトに押され押し出される。その時に初めて気づいた。外では悲鳴どころが音すらも聞こえなかった。教室から聞こえるはずの賑やかな声はなかった。嗅いだことのない異様な匂いがする。


 ……深く考えないでおこう。
 走り出す直前、俺は振り返り、室内を確認する。通路の反対側、つまりベランダに友達の健人けんと達が見える。教室内はよく見えなかったが鈍い音が聞こえる。


 俺達は一斉に走り出し、一階へ降りる。駐車場へ駆け抜けると何故だか二人の先生が学校者に乗って待機していた。俺らはすぐにその車に乗り込む。


 俺達のクラスは12人になっていた。二台の車に乗り、先生達はどこかへ行こうとしている。
 実習生の先生は、いなかった。
 俺はこの日を忘れない。いや、忘れられないだろう。










 ……しばらく経ち、俺は先生に訪ねた。


「――どこへ向かってるんですか?」


「………安全な所だよ。絶対に安全だから」


 八人も乗っているはずの車内は二人の声しか聞こえない。皆黙っている。明人も。俺は頭がパンクしそうになる。
 何も考えたくない。自分も皆に合わせ、顔を伏せる。落ち着くために。言い訳しながら眠った。

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