ずっとお前が嫌いだった

いとうゆ。

私の日記1

妹が嫌いだった。

私を殴る父。

弟たち。

私を無視する母。


私の家族は父親と母親
そして、長女の私、長男の藤次、次女の彩也子、次男の孝次、三男の清次の五人兄弟だ。

私たちは三男を除いて年齢はあまり離れていない。
子供の頃から近所の友人からは
「あんたのお母さんって好きものなのね、だっていつも子供を産んでるんだもん」と
からかわれ続けた。

私が望んだわけではない。
ただ、勝手に父親と母親がやることをやって産まれたそれだけの話なのに
なぜ私が責められなくてはならないのだろうか。今もって分からない。

私にまだ、物心がついていないころ
父さんは私をよく旅行に連れていってくれたらしい。
その時は私はまだ、父に可愛がられていたのだ。

でも、弟の藤次が産まれてから我が家の空気は変わった。
母さんは藤次が大好きだった。

それも、そのはずで藤次は顔だけは大人になってもけして男前にはならないだろうけど
持ち前の賢さと大人に媚びを売るだけの愛嬌を持っていた。

そんな藤次に父さんが気を引き付けられるようになったのも、なんら不思議ではない。

私は2才にして父と母の愛情を奪われたのだ。

そして3年後、彩也子が産まれた。
続いて、1年後、孝次が産まれた。

さらに5年後、夜中に父と母が争う声が聞こえた。

私が冷蔵庫の牛乳を飲もうとすると母は私の手から牛乳を奪った。
 
「この牛乳はこの子のものだよ。この子は丈夫に育てるんだ」
母の手が先程とはうってかわって優しい手で自らの腹を撫でる。

私は母の腹を見て察した。

そして、私が11才の頃に清次が産まれた。

このときだ、近所にすむ友人にからかわれたのは。
たぶん、友人の親がそう言っていたのを聞いて
友人も親の真似をして私をからかったのだろうが子供はやはり、残酷だ。


私は常に一歩引いて兄弟と接した。

12才の頃。学校でいじめられるようになった。

私が先生と仲良くしているのを見て
クラスの不良グループが
先生にチクっていると誤解したのがはじまりだ。

私は登校拒否をするようになった。

それからだ、父親が私を殴るようになった。

仏壇の鐘を叩く棒で私の頭を殴った。 

兄弟たちは止めてくれたが、母は見ないふりをしていたことを覚えている。


やがて、私は中学に上がり
ますます、父の暴力は激化して
母までが暴力をふるわれるようになった。

そのたびに、兄弟たちで止めにいく。

そんな日々があたりまえだった。

夏の暑い日、妹の彩也子と弟の孝次が
「近所のおばさんにお菓子をもらったんだ!」といって私に見せてきた。

どうして、私は父に殴られ罵られているのに
こいつらはのんきにお菓子など貰っているのだろう。
小さな手に握られているお菓子が忌々しく見えた。

私は彩也子と孝次の手からお菓子を奪った。
お菓子はチョコレートで二人の体温で半分溶けていた。

それを、公園のゴミ箱に投げ捨てた。 

「ゴトン」

彩也子と孝次の泣き声が後ろから聞こえる。 

二人の泣き声を心地よい気分で聞きながら家路に帰る。


私は勉強にまともについていくことができなかった。
いつも、赤点。通信簿は10段階で1か2だ。  

それを、父に見せるとまた、殴られる。
中学2年の夏休みの最初の日、私は通信簿を書き換えることにした。

ボールペンで丁寧に…

1はなんとか7に書き換えられそうだ。
2はなんとか8にならないだろうか。

そのときだった。

彩也子が見ていたのだ。

心臓がとまりそうだった。

彩也子は私の持つペンと通信簿で察したに違いない。

急いで目を逸らした。

彩也子の口の端が上がっているように見えたからだ。
見られた。なにより、私を笑った。

バカにされた。

仕事から帰ってきた父に通信簿を見せることになった。
兄弟たちは並んで各々の通信簿を父に得意気に見せる。

藤次はいつも学年トップだ。なにも恐れることはないだろう。
孝次も彩也子も通信簿は並み。
3人とも私とは違う世界の人間に見えて惨めだった。

とうとう、私の番だ。父に震える手で通信簿を渡す。

父がうけとる。

書き換えたことがばれないだろうか
あるいは、彩也子がばらしたりはしないだろうか。

冷や汗がでる。手が震える。

ばれたらまた、棒で殴られる。

父は小さくため息をついて私に通信簿を返した。
おとがめはなしだった。

年少の清次が私をなんとはなく、眺めていた。


中学3年、私は15才だった。

なお、悪いことにここでも
不良というものに目をつけられた。

主犯格は由加理という女だ。
金をせびられたり
放課後に大勢の女子に囲まれ髪を引っ張られた。

私はまた、登校拒否になっていった。
しかし、父は公務員で休みは有給をとったりするので
家に居るときがある。

そんなときはもちろん殴られる。

だから、私は私だけの秘密の場所を見つけた。
狭い狭い押し入れの中だったが
父が家に居る日に学校を休むときは
もっぱら、押し入れの中で過ごした。

暗く、埃くさい
それでも、この場所は私を守ってくれる
唯一の居場所だった。


出席日数が少ないことから
高校は偏差値の低い高校に行くことになった。

そこで、私は初めて好きな人ができた。

結城くんという名前だった。

端正で可愛らしい顔をした男の子だった。
初めて、目があって一目惚れをした。

友人の江里に頼んで彼との仲を取り持ってもらった。
幸い江里には彼氏がいたのでWデートをすることになった。

場所は地元からちかい遊園地。

江里とその彼氏。そして、私と結城くん。

私が生きてきた10数年のなかで幸せな時間だった。
もしも、結城くんと私が結婚したら私はあの家から出られる。

その時は結城くんは何になってるんだろう。
弁護士?医者?結城くんなら頭がいいからなんでもなれる。

子供はそうだな。
女の子がいい。ピアノを習わせる。
ピンクのフリルのドレスを着せて
時計台の大学に行かせる。

私は幸せな未来を思い描いていた。


結城くんとはそれからも定期的に電話をしていた
学校であったこと、好きな本のこと
他愛もない話だけど、私は幸せだった。

高校1年の冬頃から
結城くんとの連絡はまちまちになった。
前なら1週間に3回は電話をしていたのに
今は2週間に1度あるかないか。

そうだ、結城くんは勉強で忙しいんだ。
なんていっても頭がいい。

なにか、わかることはないかなと思って江里に聞いてみた。

江里は私が声をかけて見るなり目を見開いた。
そして、顔を背ける。

江里どうしたの?

「私さ、結城くんと付き合ってるんだ。ごめんね」

なにがなんだかわからなかった。江里は親友だ。
私の悩みごとも聞いてくれたし、勉強だって一緒にした。
1度なんて、Wデートもした。

江里が背を向けた。

江里が去っていく。

同時に結城くんも私のもとから去っていった。

終わりを告げる放課後のチャイムが鳴った。




















「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く