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カミナリ神社の巫女物語

ふじゆう

そのご。

 ワタクシが苛立ちを抑える為に、何度も深呼吸を繰り返していると、前方から炮烙様がやってきた。なにやら考え事をしているようで、腕を組み首を捻っている。
「どうされましたか? 炮烙様?」
「ああ、巫女殿。先ほどは、見苦しい様を晒してしまい、本当に申し訳なかった」
 立ち止まった炮烙様は、腕を垂直に下ろし、頭を下げた。その姿は、まるでお辞儀のお手本のように美しかった。何度も謝られては、こちらが恐縮してしまう。どこまでも律儀な方だ。
「先ほど来た人間の願いなのだがな。若い男がやってきたのだ。実の妹に惚れてしまったと言うのだ。それも、一時の感情ではなく、長年想いを抱いており、とうとう限界を迎えているようなのだ」
「それはまた、難儀な・・・限界とおっしゃいますと?」
「力づくで強行策に出るか、己の命を絶つしかないと」
「それはまた、極端な話ですね」
 炮烙様は手を顎の下に当て、唸っている。強行策にしろ命を絶つにしろ穏やかな話ではなさそうだ。若気の至りでは、済まされない。炮烙様の正義感が、放っておくことを許さないのだろう。
 妙香様なら、後先考えず、取り合えず二人をくっつけるだろう。残寿様なら、無理に決まってるよと、放置するであろう。
「人間の法律と照らし合わせると、想いを成就させたところで、困難な道が待っている。だからと言って、命を絶たせる訳にもいかぬ。確かに、我々は万能ではないのは、百も承知だ。だからと言って、突き放すには、彼の想いはあまりにも切実なのだ。でなければ、若い男がわざわざ、こんな場所へと来たりはしない。頭が狂っていると、涙を流したりはしない」
 炮烙様は、共に悩み共に苦しんでいる。腕を組み直し、額からは汗が滴り落ちる。
「やはり、根気強く対話を続けるほかないのでは、ありませんか? 男性の妹さんへの想いを徐々に薄れさせる為に、他へと意識が向くように導くほかないのでは? それが、趣味であったり、勉学であったり、他の女性であったり」
 ワタクシは、恐れ多くも意見を伝えた。巫女の立場としては、出過ぎた真似ではあるのだが、思わず口を出してしまった。勿論、この程度のことは、炮烙様も分かっているのだろう。だが、他に良い策はないかと、思考を巡らすのだ。妥協を許さない方だ。たっぷりと時間をかける炮烙様らしい姿だ。この際、時間のことを問いただすような無粋な真似はしない。
「確かに、巫女殿の言う通りだ。やはり、それが最善の手であるか。だが、男に対話に時間をかけるほどの余裕があるだろうか・・・」
 炮烙様は、目を閉じ、ブツブツと自問自答を繰り返している。吹き出す汗が、床に滴り落ちるほど、思考をフル回転させているようだ。しばらく、炮烙様の様子を眺めていると、突然目を見開き、体の前で手を打った。どうやら、答えが出たようだ。重苦しい空気から解放された気がした。
「そうだ! 人間の法律と価値観を変えてしまえば、良いのではないか? それならば、私の客は、幸せになれるのではないか?」
「え? ちょ! は? ほ、炮烙様?」
 お気は確かか? 突拍子もないことを言い出した。
「巫女殿、どうもありがとう。色々と参考にさせてもらった。では」
 炮烙様は、満足気にスタスタと歩いていく。ワタクシは、何度も呼び止めたが、耳には入っていないようだ。あいつは、馬鹿なのか? 思考が二週三週し、思わぬ場所で着地した。しかも、ワタクシがパスを送ったようになっているではないか? 人間一人の願いを叶える為に、人間界の法律を変え、全ての人間の価値観を変えようとしているのか。そんなことできる訳がないだろう。神様になら・・・まあ、できなくもないだろうが、絶対にしない。なによりも、あなた様は、まだまだ未熟な神様だ。身の程をしれ。なんとか、考えを改めさせなければ。それこそ、時間の無駄だ。無理なものは、無理なのだ。
 無礼を承知でもう一度言わせて頂こう。お前は、馬鹿か。
 もう既に、豆粒ほどに小さくなった炮烙様の背中を見つめつつ、深い深い溜息を吐いた。

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