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カミナリ神社の巫女物語

ふじゆう

そのさん。

 先日、こんな出来事があった。ことの発端は、炮烙様の怒声であった。
「おい! 貴様! 私が世話をしている人間に、なに勝手なことをしてくれたんだ!」
 炮烙様は、眉間にしわを寄せ青筋を立て、妙香様に詰め寄ったのだ。
「朝っぱらから、煩いなあ! 俺、低血圧なの。耳元で怒鳴らないでくれる? で? なに? なんのこと?」
 妙香様は面倒臭そうに頭を掻き、大きなあくびをした。
「しらばっくれるな! 妙香! 私が世話をしていた人間に、金を与えたであろう!?」
「ああ、あの男ね? うん、金を与えたね。だからなに? 金欠で困っていたんだから、問題ないじゃん? 金を手に入れて問題解決。皆、幸せ、万々歳」
 両手を上げ、万歳の格好をした妙香様は、全く悪びれることもなく、平然と言ってのける。炮烙様は、怒り心頭で、握りこぶしが震えていた。
「ふざけるな! あの男は、私との対話で、良い方向へと向かっていたのだ。自力で問題解決するだけの気概と能力を持ち合わせていたのだ! それを貴様は!」
「お前のやり方は、いつもまどろっこしいんだよ? 俺達の目的は、ポイントを溜めて、神になることだろ? あ! ポイントを俺に取られて怒っているのか? 逆恨みも甚だしいぜ」
 二座がにらみ合い、どちらも引きそうにない。きっと、妙香様の『ポイント』発言も癇に障ったのだろう。ポイントとは、信仰のことだ。人間の手助けをすることで、信仰を得ることができ、一定数の信仰が蓄積されると、神様へと昇格するシステムだ。炮烙様は、前々から信仰をポイントと呼ぶ妙香様に、不謹慎だと物申していた。
 人間が神様に手を合わせ祈る行為は、己との対話だ。その対話の中で、様々な気づきがあり、幸福や成長へと繋がる。対話の中で、未神が人間の想いや考え方の微調整や軌道修正を行う。人間は己の手で幸福を掴まなくてはいけない。少なくともそう思えるように仕向けなければならない。摂理を用いて、進歩向上へと導かなければならない。困難なくして、進歩向上はありえず、楽して手に入れたものに価値などないのだから。と、学徒時代の教科書に書いてあった。真面目な炮烙様は、教科書を地で行っている。
 我々の世界にも学校という機関が存在し、そこで学ぶ生徒のことを学徒と呼ぶ。学徒では、最初は未神志望も巫女志望も共に学び、そこからそれぞれの専門に別れ学ぶ。学徒→未神→神と昇格していく。
 妙香様は、煩わしい過程をすっ飛ばして、早急に問題解決を行った。分かりやすく人間世界に手を加えたのだ。その行為は、ルール違反ではなく、モラル違反である。そもそも、未神の立場で、その行為を行うのは、非常に危険だ。全知全能の神様なら、様々な世の理を無視することができるのだが、基本的には等価交換である。単純に考えると、百の幸福を得ると、百の災いが降りかかる。それが一個人で済むこともあれば、人間という単位で降りかかることもある。今回の件で言うと、簡単に人間に金品を与えたことにより、多くの他の人間が金品を失ったのだ。他の人間から回収したお金を一人の人間に与えた形だ。
 確か、ワタクシの記憶が正しければ、今回対象となっている人間の男は、長年細々と会社を経営しており、借金により首が回らなくなった。長年、真面目にコツコツと努力してきた男のようだ。そして、どうにもならなくなり、炮烙様に助けを求めたのだ。彼は、炮烙様に縋ったつもりは、ないであろうけれど。
「妙香貴様! あの男が、その後どうなったのか、知っているのか?」
「はあ? そんなの知らねえよ。知る必要もねえ」
「突然、大金が降って入り、真面目で仕事一辺倒であった男の自我が崩壊したのだ。己の能力を過信し、他人との接し方が横柄になり、手軽な快楽に溺れた。結果、一家離散、会社倒産だ」
「そんなの自業自得じゃねえかよ。言いがかりだ。真面目かなんか知らねえけど、自分と同じ匂いだからって、必要以上に感情移入してんじゃねえよ。だから、真面目な奴は質が悪いんだよ」
 妙香様の反論に、炮烙様の堪忍袋の緒が切れた。炮烙様が妙香様の胸倉を掴む。
「おいおい、勘弁してくれよ。巫女ちゃーん、助けてー」
 まるで挑発するように、妙香様はワタクシを見て、笑みを浮かべている。これで、炮烙様が手を上げようものなら、一大事だ。基本、神様は非暴力であり、特に直接的な暴力はご法度だ。未神の立場なら、尚更だ。追放もあり得る。
「炮烙様! お止め下さい! 残寿様も見ていないで、止めて下さい!」
 ワタクシは、炮烙様の力のこもった手を掴み、背後を振り返った。残寿様は横になり、腕を枕代わりにしている。眠たげな瞳を擦り、腹を掻きながらあくびをした。
「残寿様!」
「別にやらせておけば、いいじゃない? 僕には、関係ないよ。巻き込まないでくれる?」
 我関せずと、残寿様は、ワタクシ達に背を向けた。
「それにさ、真面目真面目って、真面目ってなんだよ? 仕事しかしてこなかったんだろ? 手軽な快楽? ようは、女に溺れたってことじゃねえの? 正しい遊び方を学んでこなかったんだろ? 社会勉強を怠ったんだ。勉強を怠った奴を不真面目って言うんじゃねえのかよ?」
「妙香様! 挑発するのは、お止め下さい! 炮烙様も手を離して! ちょっと、残寿様!? 起きて下さい!」
 喉がはち切れんばかりに、ワタクシは叫び声を上げた。悲鳴のように響いている。
「もう、面倒臭いなあ。じゃあ、ジャンケンでもすれば? 負けた方が謝って、終わりにしてよ」
 ゴロンとこちらを向いた残寿様が、取り留めのないことを言う。
「残寿! なんだ貴様のその怠慢な態度は!? 意見が食い違えば、議論するのが当然だ! 貴様の日ごろの態度は目に余る!」
「矛先を僕に向けないでよ。僕は関係ないでしょ? 鬱陶しいから、喧嘩なら外でやってよ」
 シッシッと手を振る残寿様に、炮烙様は目を血走らせ睨みつける。
「炮烙様、議論ならまずは手を放して下さい! 残寿様もいい加減にして下さい!」
「巫女ちゃん、そんな大口開けて怒鳴っていると、折角の可愛い顔が台無しだよ。炮烙、お前もいい加減手を放せよ。いつまで、掴んでんだ? それに、俺に論破されたからって、残寿にやつ当たってんじゃねえよ! この単細胞が!」
「妙香様、もうお止め下さい! 炮烙様は、手を放して! 寝ないで、残寿様!」
 まるで、地獄絵図だ。ワタクシが上げる叫び声は、空虚にただ舞っているが如く、誰の耳にも届かず、膠着状態が続いている。すると、頭の奥の方で、プツリと音が聞こえた。
「てめえらー! いい加減にしろ! このクソボンボンどもが! ぶっ飛ばすぞ! 馬鹿野郎!」
 ・・・はい、やってしまいました。先ほどまでの喧騒が嘘のように、辺り一面静まり返っている。
 炮烙様は、目を丸くして、静かに腕を下ろした。妙香様は、目をぱちくりさせた後、吹き出す始末。残寿様は、飛び起き、ワタクシを茫然と眺めている。ワタクシは顔に熱を帯び、誤魔化すように小さく咳払いをした。
「皆様方、大変失礼致しました。本日も宜しくお願い致します」

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