危雪の淡夢
木刀
そしてまた、俺は筆をとる。かつての道場に腰を下ろし、年季の入った木刀を並べ、まだ何の色にも染まらぬ画用紙を濡らす。その上に少しくすんだ御納戸色の筆を落とすと、単色だった御納戸色はたちまち滲み、沢山の色彩へと姿を変えた。
醜い空だ。上を見上げれば晴天が広がっているというのに、再び画用紙へと視線を落とすと不格好な御納戸色が斑に分布していた。
きっと自分達にはこれくらいの空が丁度いい。木刀を眺めていると、そう思えてきた。
最期まで不格好だったこの恋の物語は、きっと何処かで繰り返されるだろう。繰り返す彼らも同じ末路を辿る。救いようの無い自らの愚かさを恨み、落胆し、危雪を降らすのだ。
道場の縁側に描きかけの絵画が飾られていたことは、また別の話かもしれない。
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コメント
ノベルバユーザー603772
完全にのめり込んでしまいました。
何ていうか会話のセンスが最高です。
投稿ありがとうございました。